~閑話1~裏方も楽じゃない
本日は三話同時投降になります。どれも本編とは直接かかわりが無い話なので興味が無い話なのでご了承下さい。
さて、初めましてと言うべきでしょうか。ハンナと申します。今回は現在の断定的な主であるゼロ様の命令で姫様の内心を探る事になったのです。
まあ正直な所、聞くまでも無いと言うべきか見れば分かるだろと思わなくは無いけど姫様の気質を考えると裏付けを取りたくなる気持ちも分からなくはない。そういう訳で私は時間を見つけて近くに余計な人が居ない時間を見計らって姫様に聞く事にしたのだ。
「それで実際の所どうなのですか?」
「……それ、普通本人に直接聞く?」
「遠回しに聞いてもはぐらかされるだけなので、私としてはゼロ様に報告すべき内容と実際の気持ちの両方を教えて貰えると嬉しいのですが」
ゼロ様は窮地を救ってくれた恩人で、これからの私達にとって救世主とも成り得る存在である事は確かですけど、それでも私の忠誠の対象となっているのは姫様だ。恩人で現在の主と言えど、私は姫様の考えを優先させて貰う。付き合いの長さも違うしね。
「清々しいまでに聞いて無いわね、でもいいの?それだと命令に反してるようみ思うのだけど」
「ゼロ様の事も嫌いでは無いですけど、優先順位としては姫様の方が上ですから。それでどう報告すればいいですか?」
とは言っても今回の件に関しては嘘の報告をする必要も無いと考えている。姫様もゼロ様の想いを察しているようだし、その上で満更でもなさそうだからだ。
最初の頃は、利用しようとしているのかと邪推しなくも無かったが、屋敷で働き実際に二人の様子を見ているとそれも杞憂に終わった。何と言うか楽しそうなのだ。普段は中々感情を表に出さない姫様が割と素に近い表情を表に出している、それだけで私からしたら大いに驚かされた事である。
「そうね……それなら受け入れる旨で伝えて貰える?」
「分かりました。それで実際はどう思ってるんですか?」
「…………言う必要はある?」
「いえ、ですが出来れば聞かせて貰いたいと思います。それによっては私の今後の対応も変わりますから」
「好きよ。この話をされて嬉しいと思える程度には」
「そうですか。それなら素直に祝福する事ができますね」
恥ずかしいのか視線を逸らしながらそう告げる姫様に思わず頬が緩む。
色々大変だったけどここに来れてよかった。この表情を見るだけでそう思える。女性の身で政治に関わるのを良しと考えない人は多い。そんな奴らに隙を見せない為に姫様は王宮内では表情を出すことなど滅多に無かった。
だけどここではそんな事を言う人は存在せず、ゼロ様も自らが経験不足を理由に積極的に意見を求める程だ。姫様としては随分とやり易い環境なのでしょう。言っては悪いがあの姫様が誰かを好きになるなんてとも思ったけど、実際に目の当たりにすると思いのほか違和感が無かったのには驚いたけど。
まあ仕事人間なのは相変わらずみたいだけどね。伸び伸びと仕事できるからといって、着替えや化粧の時間まで削るのは流石にどうかと思いますよ? 女性としての最低限のマナーです。
そして数日後、ゼロ様に頼まれた件を伝えようと機会を伺っていたある日、自室で一人で過ごしている事を知った私は部屋に訪れ……引き返した。
部屋には眉間に皺を寄せて考え込んでいるゼロ様が居たのだ。とてもで無いがこの話をするのに適した状況では無いでしょう。仕方が無くに回れ右して姫様の自室に向かう。
「それで姫様、ゼロ様がああなった原因について教えて下さい」
「ねえハンナ。貴女ここに来てから前よりも少しはっちゃけてない? 前はもう少し公私を分けてたと思うのだけど……」
「気のせいです。それよりも絶対に心当たりがありますよね? ゼロ様の悩みの大半は姫様関係のものが多いですから」
「別にそうとも限らないわよ。色々考え込んでる事もあるわよ?」
「考え込む事はあっても悩む事は滅多に無いです。前回もそうでしたから今回もその可能性が高いと考えています」
姫様もゼロ様も仕事は出来てもプライベートでは何かと隙が多い二人である。世話が焼けるとも言う。普段から損得勘定や利害関係など色々考え過ぎているせいで肝心な時にもその考えが抜けきらない。そのせいでお互いすれ違う事も一度や二度では無い。
それと気恥ずかしいのか気持ちを言葉にして伝える事をしないのもすれ違う原因だ。ゼロ様はまだマシで言葉にしなくても態度に出てるのだが、姫様の場合それすらも上手く隠してしまう。完全に能力の無駄遣いだ。マイナスにしか働いて無いし……
「実はゼロに今後の事を話にいったのだけど……」
「はい」
「将来的には何人か妻を娶る事を考えてくれないかって……」
「バカですか!? ……っすいません。それはゼロ様もかなり悩む事になったと思いますね」
「ねえ今バカって言ったわよね!? 貴女一応私に仕える立場の筈よね!?」
ゼロ様は今まで私たちの周りには居なかった様な……言ってしまえばかなり一途なタイプの人間だ。複数人に対して手を出しても何も言われない、寧ろ推奨されるような立場にいるにも関わらず何もしない。異性に興味が無い訳では無いようだが、どうも罪悪感を感じてしまう性格をしているようである。
そんなゼロ様に対して姫様は……うん、少しだけ同情してあげよう。
ただ姫様の言い分も間違ってはいない。ダンジョンマスターを国主に据えた国が後継者をどのようにして決めるかは分からないが、それでも後継者を決めるとしたら順当にいったら血縁者、ゼロ様の息子にあたる人間になるでしょう。
それにあの魔力量は魅力的だ。ゼロ様の子供の一割でも遺伝してくるのなら、国としては一人でも多くの子供が欲しいと考えるでしょう。
問題はゼロ様の精神面、確実に嫌がりそうだけど……損得計算などができない人では無いからこそ、悩みの原因となってるのでしょうね。
私情としては断りたい、だけど一定の理がある事は否定が出来ない。後は好きな相手に推奨されるのは複雑な気持ちになる。と言った所でしょう。これはもしかしらた二人の関係が拗れてしまったかもしれないわね……
姫様も自分は気にしないと、気遣うつもりでいったのでしょうけど、良くここまで裏目に出る事を言え
たわね……薄々分かってはいたのだけど自分の事になると完全にポンコツね。
「……何か凄く失礼な事を思われたような気がするのだけど」
「気のせいです。ただの事実ですから。ゼロ様には上手く隠しているようですがいつまで持ちますかね……」
「どういう意味よ?」
「そのままの意味ですよ」
さて、どうしましょうか。
「ゼロ様、例の件ですけど問題無さそうですよ」
「……そうか」
どうにかしようとゼロ様に姫様に聞いて来た件について話したのだけどどうにも反応が鈍い。代わりに疑惑の視線を頂いた。多分だけど私と姫様が繋がっている事に気が付いたみたいだ。
姫様のカッコつけた。というか自分を良く見せようとした言動の結果がこれってどれだけ恋愛下手なんですか……いえ、そう言えば初めてでしたね。そう考えれば……弁明も出来なくはない……いや無理ですね。
それはいいとして姫様もだけどゼロ様も大概疑い深い。立場上仕方が無いのかもしれないけど一度拗れると仲を取り持つのは中々に大変だ。
今回の件はどちらが悪かったという訳でも無くただ単純に考え方の差から生まれたすれ違いに過ぎない。良い意味でも悪い意味でも深読みしすぎる二人をどうやって取り持てばいいものか……
二言か三言会話をした後、私では警戒されて話にならないと察して退室した。
「それで二人には協力を要請したいのです」
「は、はぁ……」
「えっと……」
二人の間を行ったり来たりしても埒があかないと感じて協力者を募る事にした。その協力者の名はシンディとミティだ。
ゼロ様の推薦で雇う事になった二人だが、だからこそ姫様の息が掛かってるとは思われにくいと考えての人選だ。
人手が足りない時に彼女らを紹介された時は、やはりゼロ様も普通の男性だったのか……と勝手ながら落胆も覚えたものだが、働き始めてしばらくしてそれは間違った認識だと気づかされた。確かにシンディの方はそれなりに親しい距離感だが男女のせれを感じさせられるものでは無かったからだ。逆にミティの方は怯えられていると勘違いしているのか距離感に困っているといった印象を受けている。
実際にはミティはゼロ様に恋心を抱いている。まあ先じて釘はさしておいたし、本人も半ば諦めているような感じはするので問題無いと屋敷においているのだ。屋敷で仕事をする女性の中で気が付いて居ないのは姫様のみ。姫様ェ……
「つまり二人の仲を取り持てばいいのですか?」
「そう言う事です。ただ二人ともかなり疑り深いし頭の回転も速いからチャンスは一度か二度くらいでしょうね。私は姫様の方をどうにかしますからお二人にはゼロ様の方をお願いします。成功したら別途に給金を出しますから」
「はい!分かりました!」
「え、あ、はい!」
「お願いしますね。それとシンディは無理をせずに会話に参加するだけで大丈夫ですよ。警戒心さえ解ければ十分ですから」
それはともかく仕事はキッチリ果たす。
正直な所二人にはそこまで期待してはいない。考え方に差がある事さえ気が付いてくれれば後は勝手にどうにかなると思ってるので、その切っ掛けになってくれればいい程度の考えだ。
仕事をこなしつつ、折を見て姫様の様子を確認する。姫様もどうやら話が拗れてしまった事を理解したらしく自室で頭を抱えて悩んでいるようだった。交渉事は得意な筈だけど自分の事になるとダメダメな姫様を見て内心ほっこりしてしまう。ゼロ様の前ではまだ上手く取り繕っているが、ボロが出た時の反応が今から楽しみだ。頭がよく大概の物事を上手くこなしてしまう反面、感情からくる物事の処理が苦手なように思える。ずっと仮面を作り取り繕って生きて来た反動なのかしらね?
こっそり覗いている事に気付かれると小言を言われる。それが言い訳染みた物言いだけど、軽く謝りそのままの流れで相談に乗る事に。姫様も事の事情はかなり正確に把握しているようだった。何だかんだ言って姫様は基本的には非常に優秀なのだ。ただ自分の事となるとダメダメなだけで。そこが可愛いのだけど。
それで肝心の相談事とはどう誤解を解けばよいのか分からないと、さて、現状問題となっているのはゼロ様が姫様の気持ちを正しく理解していないと事だ。その原因は姫様が気恥ずかしさから上手く隠しきったと言う、何故やったか分からないマイナス方向への努力の賜物なのですけど……
「素直に自分の気持ちを伝えるしか無いと思うのですが……」
「それは……恥ずかしいから極力避ける方向でお願い」
「そうですか……」
顔を赤くしてそう告げる姫様は可愛らしくて目の保養になるのだが、それでも今回の件を上手く収めるにはそれが一番だと思ってる。と言うかそれ以外に解決法なんて無いと思う……まあ姫様がそれを避けたいと言うのなら頑張るけど……いざとなったら仕方が無いですよね。姫様がうろたえながら内心を告げる事なんて楽しみになんかしてませんよ、ええ全く。
「そちらはどうでした?」
「ごめんなさい。無理そうです。一応話は振ってみたんですけど……上手くはぐらかされて逆に頼まれてることがバレてしまいました」
「そうですか……」
比較的警戒されにくい二人に頼んだのだけど、この様子だと誰を差し向けても変わらないでしょう。少し時間を置いてからにすべきだったですね。
何と言うか面倒な性格をしている二人ですよね。全く……。
「分かりました。それなら二人は一般業務に戻って下さい。後はこちらで何とかしますから」
頭を下げて下がる二人を見送り考える。こうなったら下手に時間を置くのは良く無いでしょう。ですから……仕方が無いですよね?
「っと、……ノワール?」
「ハンナ!? いったいどういうつもり!?」
「ではごゆっくり……」
夜、駄々を捏ねる姫様を連れて行きゼロ様の部屋に放り込んだ。中から私に対する文句が聞こえてきている気もするけど……気のせいですね。従者の鏡である私が主の意向に背くなど……割とありましたね。
まあそれはともかくとして。扉を外から閉めて押さえる。これで逃げる事はできないでしょう。
姫様には、もうどうにもなりそうにないから姫様が直接気持ちを伝えるしか無いと事前に説明してある。流石に直ぐには難しいから心の整理が着いたら、と言われたがそれだといつまで経っても解決しそうになかったので多少強引な手段になってしまった。
姫様の服装は寝る直前だった事もあり薄手の物だったけど……まあいきなりでしたから仕方が無いですよね。というより二人とも好意を持っていて二人きりでしばらく過ごして居たにも関わらず全く関係が発展していない事の方が驚きです。まあ下手に獣になられても困るのだからいいの……かな?
しばらく中で騒いでいた姫様が静かになったので部屋から離れるふりをして扉に耳を寄せる。良かれと思っての行動が更に拗れる原因となってしまったら目も当てられない。私が裏から手を回すにも限度があるので最悪介入する必要があるでしょう。上手く行きそうならそのまま立ち去ればいいし。
「で、これは一体どういった状況なんだ?」
「誤解が生じてるみたいだったからそれを解くために話し合う場を設けて欲しいみたいよ。……それにしてもかなり無理矢理だったけど」
「確かにな。いきなりノワールが飛んで来た時には襲撃でもあったのかと思ったぞ」
基本的には優秀で冷静な二人だ。少しすれば平静を取り戻して現状を把握してしまう。投げ入れた時はお姫様抱っこの形で受け止めていたのだけど、声の感じからすると既に下してしまってるみたいだ。姫様は表面上は平静を保ってるけど内心だと喜んでいたりするのに……
昼での出来事を何事も無かったように会話していく二人に内心ため息を着く。どちらか片方が素直になるだけで解決する話なのにそれが果てしなく遠く感じるなんて……
ゼロ様の言い分も分かるけど本当に正直な気持ちを話して欲しいと姫様に伝えればそれで済む話なのだ。立場上求められれば断らないと言っても、嘘を付けば今後の関係に支障が出ると分かっていたなら素直な気持ちを吐露してくれるでしょうに。
結局の所、二人して内心を口に出すのが苦手な性格をしている似た者同士なのだ。ゼロ様も私に協力を求めた時は口にしたくせに、本人には一度も言っていないらしいし。
この二人は多少無理にでも機会を作ってあげなければいつまで経っても進展しないのだ。
「……姫様」
しばらくそのまま待機して会話を盗み聞きするがいつまで経っても姫様は本題に入らない。そもそもその手の話題を避けている様にすら思える。長年仕えているが自分の事になるとここまで臆病になるのかと、どこか新鮮に感じてしまうくらいだ。
お互いの報告に加えて今後の展望、これから試してみたい事など新たな話題を出しては話を膨らませていく。楽しそうなのはいいのだけどいい加減本題に入ってくれないと寒いのですけど……
結局この日は本題に入る事無く終わってしまい私はとぼとぼと自室に戻るのだった。だが翌日、少し浮かれた様子で仕事をする姫様を目撃して訳を聞くと、私が聞き耳を立てている事に気付いていたらしく、敢えてその手の話題を避けていたのだと笑顔で言われた。それはもう綺麗な笑顔でした。
本題は手元の紙で筆談でしっかりと終えていたらしく誤解はしっかりと解けていたみたいだ。どうしてそんな回りくどい真似を、とも思ったけど単純に私に対しての嫌がらせが半分と言葉にするのが気恥ずかしかったのが半分なのだと。心配なのはわかるけど流石に告白のような言葉を聞かれたくは無いと小言を言われた。
姫様とは別にゼロ様から小言を言われて非常に冷たい目で見られたけど最終的に和解できたからか特に何かを言われることはなった。ただ気を使われる事が減って非常にこき使われることは増えたのだけど……これを距離が縮んだと表現していいのでしょうか?




