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ダンジョンメイキング~吸血鬼と作るダンジョン王国〜  作者: 数独好き
第一章 ダンジョンマスターと吸血鬼
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第三十三話 ノワールとの関係


「改めてご挨拶させて頂きます。ハンナと申します。これからよろしくお願いします」

「こちらこそ、知ってると思うが俺はゼロ、一応ここの主と言う事になる」


 国家としての道を歩むにあたってやらなければならないことは数多い、その中でまず最初にやるべき事は立場を明確にする事だ。俺は現在この地のダンジョンマスターであっても支配者では無い。この地において必要不可欠な存在ではあるのだが、決まった役職、立場を持っていた訳でも無いのだ。

 ダンジョンマスターと言う特殊な立場にいた人間、それが今までの俺だ。住む人間すべてに食料を行き渡らせ、住居を用意し、仕事を用意した。そのことから大多数から目上の人の様な扱いをされながら確固たる地位を持っている訳ではなかったのだ。

 それを前回の会議で俺が王様としてこの地を治める事で話は纏まった。今まで全員分の食糧を用意していたのは俺のボランティアに近い行いであったのだが、これからは仕事としてそれを行う様になったのだ。王として自らの国を富ませるのは当然の事である。そう言った大義名分を掲げてこれからも食料の支給は行う事となったのだ。

 この事をダンジョンに住まう住民は好意的に受け止めてくれた。彼らにとって重要なのは衣食住に困らない事、そういった意味では飢饉が起きたとしても食事が支給されるというのはかなり魅力的な話であったようだ。


 そして王様となったからには今までと同じ暮らしは出来ない。今までは住んでいた家も二階建てのそれなりのものではあったのだが、王様が住む家としては物足りないと言われたのだ。

 これが一から作らなければならないのであれば、必要な労力の点から俺も躊躇ったかもしれないが、俺ならコスト(DP)さえ払えば一瞬で建てる事も可能である。そうなると特に反対する理由も無くなり俺の住まいとしての屋敷が建てられる事となったのだ。


 そんな経緯を経て完成したのが今俺がいる屋敷だ。部屋数は30を超え入り口にはパーティーが行えるようなホール、それに見合うだけの規模の厨房、食堂を兼ね揃え、応接間、書斎、図書室、遊戯室まで完備されている。現時点でかなりの規模に思えるが、街の発展に合わせてさらに増築していく予定だとか、もう勝手にやってくれ。この世界基準ではそれなりに贅沢な人間に分類される俺だがここまでは要らない。だが他国との関係を考えると最低でもこれくらいは必要だと言われれば断る事はできないのだ。


 そこまで来てようやく冒頭の話に戻る事になるのだ。屋敷とよべるような規模の建物となると維持する為にも人を雇う必要が出てくる。そうなった時にノワールから紹介されたのがハンナだ。

 彼女は幼い時からノワールの世話役として働いていたらしく、ノワールとは幼馴染とも呼べる存在らしい。ノワールの世話役として城に務めていただけあって家事に関しては全てプロ並み、コース料理なども作る事が出来る腕前なのだと言う。

 彼女はある意味で王族なのに前線まで出ると言う無茶をしたノワールの被害者である。付き人故に着いて行かざるを得ず、サンドニア軍の捕虜となっていた。ノワールが俺と出会えなかったとしたらその人生はかなり悲惨なものになっていただろう。ただそれでも二人の仲はそう悪いものでは無いようだ。再開してから当たり前のようにノワールの側付きとしての仕事を始めノワール自身それに違和感を感じては居ない様だ。そんな二人の信頼関係が少しだけ羨ましく感じる。

 記憶が無いと言うのは時折どうしようもなく不安を感じてしまう事もあるのだ。ダンジョンコアによると俺の記憶が戻る事は今後一生無いと言う。その事には既に折り合いは付けたつもりだし不幸自慢をするつもりも無いのだが、俺と似た価値観を持つ理解者にも似た存在が居たのならと夢想してしまうの事もあるのだ。


「取りあえず家事全般は任せることになる、大変だとは思うがよろしく頼む」

「畏まりました、普段は何処で生活すればよろしいのでしょうか?」

「三階にある使用人用の部屋から好きな場所を使ってくれ」


 そんなハンナとの対面だが極めて事務的なやり取りに終始した。ノワールを挟み何度か顔を合わせた事はあるのだが会話をするのは初めてなのだ。人見知りをする性格では無いのだが社交性が高い性格とは言い難いのだ。

 仕事の上司に話す様な彼女を相手に上手く距離を詰めるなどといった芸当俺には出来そうに無い。まあ今後顔を合わせる機会は多いのだ。なる様になるだろう。



「確かに仕事が出来そうな感じではあったが、いつもあんな感じなのか?」

「猫を被ってるだけで本当はかなり軽い感じよ。多分どの程度素を出していいのか見極めてるのでしょうね。ゼロならしばらく過ごせばわかると思うわよ?」


 ハンナが立ち去った後、入れ替わりに部屋に入って来たノワールに聞くと普段のハンナはかなり気安い性格をしているらしい。見た感じそんな風には思えない。第一印象は仕事の出来そうな女性といった感じで少し堅そうな印象を受けていたのだが人は見かけで判断してはいけないらしい。

 ちなみにハンナの見た目は20代前半ほどに女性だ。髪の色は金髪で十人中七人か八人は美人だと感じる程度には整った顔立ちをしている。

 吸血鬼は若い外見で成長が止まるのだが、その中でも最も多いのがハンナのように20代前半ばで止まる事だと言う。ノワールの様に十代半ばで止まるのは割と珍しい分類に入る。


「それにしてももう一月も経ったのか……あっという間だったな」

「そうね、毎日が忙しすぎるのもあると思うけど……」


 あの作戦(吸血鬼救出作戦)を終え、ダンジョンに多くの人間が暮らすようになって一月が経った。

 最初は戸惑いが多かった人達も次第になれ始め、今では思い思いに働き始めている。窓から見下ろす先では人々が時折喧騒を交えながらも街造りに励んでいる。資材を俺が用意し、住民がそれを用いて作業をする。それによって俺が貨幣を払い、それを使って俺から食料などを買う事で消費する。その繰り返しが街の発展に繋がり街は非常に早い速度での発展を見せている。

 今はまだ全ての職を俺が斡旋しているような状況だがこのままいけば半年も経たないうちに独自の商売を始める人が生まれるかもしれないと思わせるくらいだ。

 当然全てが上手くいっている訳では無い。急すぎる変化に上手く馴染めず問題を起こす人もいるしし、犯罪を犯す人物の対処を求められたことも一度や二度では無い。

 全ての不満を解消する事は出来ないし、この決断が正しかったのかと悩んだことも何度もある。だが大半の人からは支持を得て、指導者として認められてきている。

 やはりダンジョンマスターの能力で多くの人が不満に持つような事を半ば無理矢理解決してしまう事ができるのは大きい。個人的な嘆願については無視させて貰っているが、多くの人が望む願いにはこちらで吟味してからだが、出来る限り叶えるようにしている。

 個人の能力に頼った国家の在り方は正直不健全だと思うが、これから他国と関わり必然的に争う機会が生まれてくろと思うと国力の増加は必要不可欠となる。



「そう言えば訓練の調子はどう?」

「まあそれなりだな。毎日筋肉痛でキツイから少しは加減して欲しいが……」

「クリストンは教え甲斐があるって喜んでたわよ? 主の指南役は名誉だけど地位が上の人を教えるのは割と難しいみたいだからね。ゼロは文句を言わずに単純な訓練もこなすし何より真面目だから教える側としても嬉しいのでしょ。才能があるとしたら尚更ね」

「才能ね……これは完全に後付けされたものみたいだがな……」

「現実として使えるのならどうしてその理由なんてどうでもいいじゃない?」


 この一月で起きた変化の一つとして、俺がクリストンを始めとする数人の騎士たちに師事して剣術などの戦い方を習い始めた。俺の剣は剣術と呼ぶにはお粗末でただ振り回すだけに過ぎない。魔力による強化によって剣速と威力は高いが剣術としてはかなり拙い。

 才能があるとは言われても、その才能とは魔力量が他者と比べて規格外な量を保持している事だけである。ダンジョンマスターになるさいに埋め込まれたであろう後天的に後付けされた才能。それを褒められても嬉しいと感じる事など出来ない。

 魔法を扱う才能についてはセンスがある程度、習得できる範囲が広く、覚えもそれなりに早い、だが天才と呼ぶには一歩足らず秀才と呼ぶのが妥当な評価。

 剣術に関しては才能は素質がある凡人クラス、訓練を積めばそれなりに成果は出せる。だが天才とか呼ばれる相手には一生を捧げる気で頑張らなければ相手にならないと言われた。こういう時に変に希望を持たさずに言い切って貰えるのはありがたい。無駄な努力をするよりは届かないと割り切って考える方が俺の性に合っている。

 俺の戦闘における才能の総評として努力すれば広い分野でそれなりのレベルを身につける事ができる秀才タイプ、素質は全体的に高めだが飛ぶ抜けたものは魔力量のみといった所だ。


 その点を踏まえて俺が目指すべき戦闘スタイルは魔法を主とする万能型だと言う、多くの武器種、魔法を身に付け引き出しを増やしそれらの組み合わせる事によって戦う。多くの分野で二流でしかなくとも、それらを上手く使いこなせば強くなれるといった考え方だ。

 それに俺は一度でも距離が取れればそれだけで戦いを決するだけの火力を持っているのだ。距離を取る事を前提に考え、それを成し遂げる為に他の武器種を学ぶと言った考え方をするのだ。

 その為に武器の扱いを学び、魔法との組み合わせを模索し模擬戦を繰り返す。武器の扱いは一夕一朝では身に付かない。だから武器の扱いについてはある程度の水準で妥協してしまい代わりに戦闘時における思考能力を鍛えていく。最初に型を学び、ある程度動けるようになったらそれを取り入れながらひたすら模擬戦を重ねる。それが俺の訓練内容だ

 王様としての仕事があるので訓練にとれる時間は限られるので。だからこそ密度が非常に濃い物になっているが、俺が頼んだことなのでその点は仕方が無い。


 後は訓練関係で話すべき事と言えば俺が師事した相手であるクリストンの実力についてだろうか。クリストンの実力は俺だと相手にならないといったレベルだろうか。

 師事を願った後、最初に模擬戦を行ったのだが……飛来する魔法は全て剣一本で弾き返され、魔力量の差から生じる身体能力も技量の巧みさで覆され、前に出ればカウンターを喰らい、後ろに下がればその分距離を詰められると、いいとこ無しで一方的にやられてしまった。

 長年に渡る経験が成せるのか、戦っている間、俺の行動全てが読まれているような感覚にさせられるのだ。詰め将棋の様に動いているのではなく、動かされてる、そんな状況にされてしまうのだ。

 クリストンはいずれは自分では勝てなくなると言っていたが、それはどれだけ先の事なのか。吸血鬼の時間間隔だと10年とか20年とか普通にありそうで怖い。


 そんなクリストンだが、エルランド王国にいた頃は一部隊の隊長でしか無かったようだ。騎士団などの

貴族の出身の人物も多い集団の中で出世するには実力以外にも家柄や政治的な能力なども必要になってくるからだ。しかしクリストンは実力以外は満たしていなかったのだ。

 だがここに住む人間で元々の身分が高かった人間などほとんどいない。クリストン以外にも騎士団に所属していた人間はいたのだが、彼らの家柄はクリストンとそう変わらなく、政治的な能力に関しても誰一人持ち合わせていないようなので、単純に実力の高さからクリストンが代表として選ばれたのだ。

 現在は騎士のまとめ役としての仕事に俺の指南役、更には街の治安の維持のための警備も行うと言う忙しい毎日を行っている。それら全てを上手くこなせるようなら今後結成されるであろう騎士団のトップになれると言う事で本人のやる気はかなり高い。

 俺に仕える事に対しても特に不満はなさそうだ。騎士団とは名目上は王に仕える集団とされているのだが、現実として高い忠誠心を持っている人物などそうそう居ないらしい。

 そもそも一部隊の隊長でしかなかったクリストンは王様に会った事など数える程、会話をした事に至っていは全く無いというので、忠誠を誓っているかといわれると……という困った様な反応をされてしまうのだ。騎士と言う存在に少しだけ理想を持っていた俺は少しだけ落胆した。ただ現実はそんなものかと納得した部分がある事も否定は出来ない。




「お代わりをお持ちしました」

「ああ、ありがとう」


 忙しいながら充実した日々は続き、新しく屋敷で暮らす事となったハンナがいる生活にも慣れ始めて来た。生真面目な性格かと思っていたハンナだがある程度慣れ始めると、ノワールの言った通り少しずつ素の性格を表に出すようになってきた。

 それとなく皮肉って来たり、からかって来たりとと、それなりに愉快な性格をしている事は理解出来た。ここまでの数日間は見極め期間とでも言うのだろうか、何処までやっても大丈夫なのかを判断していたに違いない。


「それで姫様とはどのような関係を望んでいるのですか?」


 机に置かれた紅茶に口を付けた時、唐突にハンナはそう告げてきた。驚き、思わず固まってしまうが紅茶を噴出するような醜態は晒さずに済んだことに安堵しながらもハンナの方に視線を向ける。

 ハンナはじっと見つめてきている。甘い雰囲気など欠片も無い。此方を見極めようとしている視線だ。


「……それはどういった意味でだ?」

「ゼロ様は姫様に何を望んでいるかと言う事です。今の姫様の立場は微妙だと言う事はゼロ様も分かっていますよね? 国は滅びましたが住民の殆どは生きています。正式な身分を失いましたがその身には大きな価値があるのです。その姫様を身近に置いている事をゼロ様はどのように考えているのか聞かせて貰っても構わないでしょうか?」


 直球に聞いて来たな。さて、どう答えるか?


「そうだな……まず前提として俺は吸血鬼と言う種族全体をそのまま味方に引き込みたいと考えている。その事についてはノワールも納得している。そもそもノワールから提案された内容だしな。それとノワールを近くに置いているのは単純に協力者としてだ。俺がこの世界の常識に疎い事はハンナも気付いているだろ? 俺一人だと国民全員を養う事は出来ても統治する事は出来ないんだ。だから助言者として側にいて貰っている」

「そこに他意は無いと?」

「いや、他意が無いと言ったらそうでもない。できればこのまま側にいて欲しいと思う程度には好意も持ってる。ただノワールが望まないと言うなら素直に引き下がろうとは考えてるな」


 お互い数秒の間見つめ合う。


「ふぅ……そこまで考えてるのでしたら素直に告白したらどうなのですか?」

「いや、俺から言ったら断る選択肢が無いだろ。だから状況を見計らってたんだが……」


 少しだけ非難の意を込めてハンナを見つめる。ハンナは少しだけバツが悪そうに視線を逸らす。


「まあいい。そういう訳で協力して貰えないか?ノワールが俺の事をどう思ってるか聞くだけでいいから」

「それくらいでしたら構いませんが……姫様頑固はですよ?」

「それが分かってるから悩んでるんだよ……利害関係抜きでとなると断られかねないし、逆に利害関係を含むならノワールの意思を無視する事になる。だから話を持ち掛ける前にあらかじめノワールの意思を知っときたかったんだが……」

「そのことに関しては謝らせて貰います。ですが姫様が深夜にゼロ様の寝室まで向かわれた事を見かけましたので、もしかしたら、と少し邪推してしまいました」

「……見てたのか、あれはノワールに頼まれて少しだけ血を飲ませてたんだ」

「血……ですか、それはどのような意図があっての事ですか?」

「二人でいた頃は単純に魔力不足を補うためにやってたんだが、何でかしらないが今もそれが続いてるんだよな……」

「そうだったのですか、いえ、別に悪い事では無いと思いますよ」

「何か含む所のあるような物言いだな……まあいい、ノワールの件頼む」

「畏まりました」


 このハンナを経由した行動でも一悶着あったりしたが、最終的には無事に話は纏まり、ノワールは正式に俺の婚約者と言う立場になるのであった。





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