第三十話 吸血鬼救出作戦⑨〜公開〜
「ダンジョンマスター……ですか?」
「そうなるな。黙っていたのは悪かったがと、下手にこの事を告げるとパニックになっていただろうからな」
訪ねて来た二人の少女、シンディとミティはそれを聞いて、まじまじといった様子でこちらを見て来た。多分イメージと違うとでも思っていそうだ。
二人のお礼を言いに来た、その言葉には偽りは無かった。ただそれだけでは無かったのだろう。お礼の言葉の後にも俺と友好的な関係になろうと言う意図が含まれる会話を振って来た。
新天地と言えば聞こえはいいが、二人からすれば右も左も分からない場所に行くのと変わらない。女の、しかもまだ若い二人が庇護者になってくれる存在を求めるのもそんなにおかしな事では無いだろう。
だが、そんな二人の行動は俺に取っても渡り船でもだった。軍隊から逃げ出した500人近い人間、その七割近くは吸血鬼でありノワールが説得してくれる事になっているのだが、残りの三割人族の人間に対しては同じような手段は難しい何せ取り持ってくれる存在が居ないのだから。
だが、素直にダンジョンマスターだと告げても上手く行くとは到底思えない。それをどうにかするための協力者が欲しいと考えていた。
そう言ったお互いの打算も合わさり、話はそれなりに弾んだ。そして一時間程度の会話の末、俺の目的である人族との関係を取り持ってくれるように頼むためにこうして俺の正体を明かしたのであった。
当然の事ながら俺の正体を明かすにあたって、それなりの保険はしてある。ここでの会話が漏れないように魔法で防音したり盗み聞きを防ぐために気配を探ったりだ。最悪の場合は口封じする事だって視野に入れている。ダンジョンマスターと言うのはそれだけ忌み嫌われている存在で簡単に敵視されてしまうような存在だからだ。何の備えの無いままバレると「騙していたのか!」などと俺を糾弾するような流れになるだろう。
二人の想像と違う。と言った感じの反応なのはありがたい。拒絶や恐怖などと言った反応をされたら他に広まる前に口止めしないといけなくなってしまうし、何より協力が得られない。今の状況でそうなったらこの集団は簡単に纏まりを無くし暴走するだろう。
「それで二人に頼みたいのは、俺の事をどう思ってるのか、または俺の事を受け入れられるかなどを調べて欲しいんだ」
「え、でもそんな難しい事言われても上手く出来ないと思うよ。それに……」
活発そうな茶髪の子、シンディは視線を彷徨らせて何か言いにくそうな表情をする。
「俺を信じられ無いびg¥は最も事だと思ってる。だが、失敗しても俺は特には困らない。逆に困るのはそっちだと思うんだ。俺がこうして動いているのは統制が取れなくなって散り散りになるのを避ける為なんだ」
「で、でもその……」
大人しそうな黒髪の子、ミティも何か言いたそうな様子で口籠る。二人は俺がダンジョンマスターであったことに対してそこまで大きな悪印象を持たなかった様に思える。それでもここまで協力する事に拒否感を覚えるのだ。ダンジョンマスターが如何に悪印象を持たれる存在かが分かるだろう。
それに仕方が無いとも思う。二人に取ってはここで好印象を与えておけば後々役に立つかもしれないくらいの思考だったのだろう。それなのにその相手が実はダンジョンマスターで、しかも協力してくれないかと言われた。いきなりにも程があるだろう。
俺としては協力してくれるなら無下には扱わないし、それどころかそれ相応の対価で報いるつもりであ
るが。そんな事二人には分からないだろう。
「ええ……と、もし私達がその事をみんなに伝えるって言ったらどうします?」
「そうなったらパニックになる人は見捨てて、付いて来る人だけを連れてダンジョンに戻るな。まだ追手が来ている可能性は捨てきれない、全員死ぬか確実に救える人だけを救うの二択なら俺は後者を選ぶ」
まあそうなったらノワールから予め聞いてるであろう吸血鬼は着いて来てそうでない人族の人間の大半は見捨てる事になる。だが納得していない人を無理矢理連れて帰った所で後々問題が起きるだけだろう。それならば見捨ててしまった方が後腐れがない。
別に全員を助けたいと思っている訳では無いんだ。あくまでノワールの意思に共感して協力したいと思っただけ、それ以外の人は助けられるなら助けたいといった程度だろうか。
「し、シンディ……」
「ごめんミティ……これは完璧に想定外だった……ええと、もし少し考える時間が欲しいとか言ったらどうします?」
涙目のミティがシンディに助けを求める。今のやり取りでシンディが発案、ミティがそれに協力した関係だと言う事が分かる。性格から言ってミティはシンディに連れて来られたのだろう。
「そうだな。……ここから目的地に着くまでは四日か五日、説得するための時間も考えると明後日の夜までに決めてくれるなら構わない」
これが時間稼ぎでみんなに俺の事がバラされてしまうならそれはそれで構わない。そうなったら諦めて着いて来てくれる人だけ連れてダンジョンに帰ろう。ただ俺のみた所シンディは本気で迷っているように見えた。これが嘘だったなら俺の見る目が無かっただけと言う事だ。
深夜の訪問者は訪れた二人が大きな悩みを抱える事で終わった。口封じをする事も考えたのだが、それをすると二人の行方は分からなくなる。話していた感じシンディは割と頭が回るので、いざという時に備えて誰かに伝言を伝えていた可能性も捨てきれない。
そうなると逆に真実を話して二人に自分から話しにくい状況にした方がかえって上手く行くと思ったのだ。バレたらバレたでさっき話した通りに行動すればいい。
「あ、手伝いますよ」
「……そうか、なら頼んだ」
そして翌日、いつものように朝起きて朝食の用意をしていると何気ない顔でシンディが協力を申し出て来た。後ろにミティも追いかけるように着いて来て同じように手伝ってくれるようにみえる。
ダンジョンマスターの能力により簡単に用意が出来ると言っても500人分だ。用意にはそれなりに手間が掛かる。こうして手伝ってくれる分にはありがたいと感じるのだが、何しろ昨日の今日だ。よくそんなに何事も無かったような態度で接する事が出来るものだ。
「寝る前に色々考えたんですけど……」
俺に背を向けたまま、シンディは独り言のように呟く。
「正直、私には分かんないです。事情を聞いて私は嘘では無いと思ったんですけど、ゼロ……様?が嘘ついたらみんな死ぬ事になるんですよね? そうなったらと思うと怖くて協力は出来ないです。でも私個人は嘘だと思って無いので着いていくってのは大丈夫ですか?」
「……ミティもそれでいいのか?」
「えっと、はい。私なんかよりシンディの方がよっぽど頭がいいし……」
「そうか……」
自虐的にそう告げるミティの言葉を聞きながら内心考える。
シンディは俺の言った事を嘘では無いと感じている。だが嘘だと考えると怖くて協力する事は難しいとも感じているらしい。仕方が無いか。協力して、もしもそれが騙されていたとすると、間接的にシンディが皆を死なす要因になってしまうのだから。
だから自分の命以外の重みは背負いたくはないと言う。それなら騙されていても死ぬのは自分一人の命で済むのだからと。
「分かった。それならこれからは俺から特に何を求めたりはしない。ただ俺から時期を見て話そうと考えているから俺の事については口に出さないで貰えるか?」
「あ、うん。お願いします」
協力者は得られなかったけど、これはこれで悪く無い結果だ。少なくともダンジョンマスターであるだけで無根拠に言い分が否定される訳では無いと分かったのだから。
これならこれから二日は信頼を得られるように行動すれば、ダンジョンマスターであると知って尚ついて来てくれる人もいるかも知れないと期待する事が出来る。
それからの二日間は瞬く間に進んだ。そもそも移動時間に大半の時間を取られるに加え、更には空いた時間も全て信頼を得る為の行動に取られるのだ。疲労は蓄積し、徒労に終わる事も多いが、それでも充実した時間でもあった。
だが、経った二日しか時間がなかったとも言える。とても全員と会話するだけの時間は無かったし、そもそも会話を拒否してくる人間も居た事も否定できない。そして運命の日が来た。
「ダンジョンマスター……そのゼロ様が?」
「ああ、黙っていたのは悪かったと思ってる。だが、先にそれを告げたら話すら聞いて貰えなかったと思ってな。
そこでみんなには自分の意思で決めて欲しいと思う」
「何を……ですか?」
伺うような視線で俺を見てくる人たち。
「これから先、俺に付いて来るかどうかをだ。
強制はしない。別に着いて来ないからと言って、俺からは何もしないと誓おう。だが、俺に着いて来るとしたら住む場所はダンジョンの中と言う事になる。それでもついて来てくれるかどうか、それを決めて欲しい」
「ダンジョン……」
誰かがポツリとそう呟く。それからざわめきは広まり、俄かに騒がしくなり始める。
「な、なあ、もしついて行かないって言ったら俺達はどうなるんだ? 正直俺達は見捨てられたら死ぬしか無ない。それだと選びようが無いじゃねーか」
「一緒に来ないと言うなら、しばらく困らない程度の食事を渡して出て行って貰うことになる」
その言葉に一部、横暴だ。などと言った声も上がったが、直ぐに他の人間に鎮圧された。この辺はこれまでの行動の結果だろう。少なくとも話を聞いて貰える程度には信頼される事が出来たみたいだ。
「……いきなりこんなことを言われても難しいだろう。ここからダンジョンに着くまでの二日か三日の時間がある。その間に結論を出してくれ」
最後にそう告げて俺からの話を終えた。




