第二十五話 吸血鬼救出作戦④〜追跡編〜
朝を迎え俺達は早々に村を出た。今回の作戦は時間との勝負なので早い内に軍隊に追いつきたかったからだ。
それに基本的に村と言うのは閉じられた社会だ。余所者に向ける目は厳しいし、下手に食料を持っている事が他の村に伝わる前にここから立ち去りたい。移動に数日と掛からない場所に村々が点在しているようなので面倒事はごめんだ。そして移動を続ける事半日、目標である軍隊が見え始めた。
「思ったより人数が減ってるな。一万以下、八千って所か」
「戦争が終わったから戦力を維持する必要が無いからでしょう。徴兵された人は村へ戻ってる頃でしょうしね」
軍隊に追いついた俺達だが特に何か行動を起こすことなく、双眼鏡などの観測器具を使って遠くから観察していた。今まで集めた情報と差異が無いか、援軍の有無などを確かめる為だ。
事前情報の重要性を改めて問う必要は無いだろう。軍団の規模、構成、指揮系統、それらが分かっているだけで行動に起こす際の成功率が全然違う。
「残っているのは正規兵や傭兵が中心か……厄介だな」
「そうね、魔法を使えるのは貴族とその従者のみだけど、侮っていい相手でも無いわ」
一般的に魔法が使えるのは貴族やその側近の部下……従者と呼ばれる存在だけだ。魔法を使える様になるにはその為の知識が必要だ。それを独占してしまえば誰からの教えも無く使える様になるのは難しい。極稀に魔力を感じ取れる人物なら出るのだが、知識が無ければ魔法として発現させることは出来ないのだ。
それによってこの軍隊の所属する国……サンドニア王国は政治体制を強固な物にしている。技術の占有、独占は国では普通に行われる事であるので特に驚く事では無い。
それに魔法を使えないからと舐めていい相手でも無い。傭兵や正規兵といった人間は戦う事を生業にしている存在だ。単純な力で上回っていても経験では大きく下回る。
「そろそろ十分か、先回りするために移動しよう」
「そうね」
一番欲しかった情報である野営時の捕虜の配置を知る事が出来た俺達は翌日の朝になると同時にバルコンに乗り先回りする為移動を開始した。
見つからない為に多少遠回りしながらも半日ほど飛ばして距離を稼ぐ。その後、数時間眠って再びバルコンに乗って移動、それを繰り返して目的の場所へ到達した。
「ここだな」
「ええ、そこまで時間がある訳でも無いから早めに行動を開始しましょう」
「ああ」
軍の行軍ペースからしてここに到達するまでに大体二日か三日、時間的にそこまで余裕がある訳では無い。
森の中に拠点となるテントを張り、それから周囲の環境を調べる。どのどのようなモンスターが生息しているかも知らなければならないし、作戦の不安要素となる要因は出来るだけ潰しておく必要がある。偵察はノワールが召喚するバットと妖精二人に任せておく。
俺はその間に大量のモンスターを召喚して命令を覚え込ませていく。一度ダンジョン内で試した時は上手く行ったのだが、今回は数が数だけに念入りに命令しなくては。
今回の作戦、内容としては単純だ。陣地内に密かに侵入してノワールの仲間を救出、その後全員で陣地内から脱出し、追手を防ぐために大量のモンスターに襲わせる。
他にもいくつか策は考えてはいたのだが、これまで得た情報でこれが一番上手くいくと思ったのだ。戦闘を含んだ救出作戦は単純な殲滅作戦よりよっぽど難易度が高い。
この手の荒事に慣れている訳でも無い俺やノワールにはその手の作戦は荷が重いと考えたのだ。
作戦の前半は俺とノワールが密かに陣地内に侵入し、捕まっている仲間たちと合流する、そして後半は大量のモンスターに襲わせて軍を混乱させる。襲うのがモンスターであるので誰かの作戦であると考えるより偶々モンスターの群れに襲われたと考える可能性の方が大きいだろう。逃げ出した姫君がダンジョンマスターの協力を得て仲間の救出に来たと考えるよりはよっぽど。
今回の作戦が現実味を帯びた要因としてここが敵国の領土である事で警戒心が薄い事が大きい、戦争相手であるエルランド王国は撤退した事を知っているので無理は無いと思うが、今回は俺に取って付け入る隙となったのだ。
それでも全くの無警戒という訳では無いのだが、妖精族の魔法を使えば突破できない程の物とはとても思えない。




