第十八話 妖精族との関係
時間が過ぎ、ダンジョン内が茜色に変わり始めた頃フェスカが自宅にやって来た。少し疲れてる様子が見えるのははしゃぎ過ぎたのが原因だろう。他の妖精達は疲れて寝てしまっているので一応フェスカなりに自重してくれているのだろう。
「取りあえず妖精たちの寝床を作ろうと思うんだがどんなのがいいんだ?」
「んー、みんな一緒に住める場所がいいかな」
「樹木に寝床を作って暮らしてると聞いてが、それは?」
「そっちの方が楽だからね。別に木じゃ無くても構わないと思うよ」
「そうなのか?」
樹木に寝床を作るのはとくにこれといった理由は無く、単純にその方が楽だからと言うだけのようだ。思うが儘に生きる妖精は一か所に留まるという事をしない。なのでその都度新しい家を建てるという発想は無い様だ。ダンジョン内に住む事を了承してくれたのも楽しそうだから。面白い事を教えてくれるからでずっと定住してくれるとは思わない方がいいようだ。
利用したりしようとしたらダンジョンから居なくなってしまう。いや、それで済めばマシな方で報復される事も考えられる。子供の精神年齢のまま高い戦闘力を持つ、そしてそれを振るう事を躊躇しない。する理由が無いからだ。ただ精神年齢は低くても頭が悪い訳では無く悪意にも敏感であるから騙されることはそうそう無い。全く無いと言わないのは人間が狡猾だからと言っておこう。善意しかない人間を上手く利用して上手く利用したと言う事例も少数だが存在するようだ。
「なら、どんなのが望みだ? ここに住んで貰えると色々助かるから何でも……とは言わないがそれなりには希望を叶えたいと思うが」
「あ、それならこんなのは出来る?」
そう言ってフェスカは一枚の紙を取り出して渡して来た。紙は渡した玩具の中にあったお絵かきセット的なやつだろうがこれは……木?
渡された紙に描かれていたのは巨大な木の根元に穴が空いて住居として使われている様子、妖精と思わしき人物が遊んでる様子が描かれていて非常に上手い。失礼なだが正直ここまで上手い絵を妖精達が描けるとは思わなかった。話してる感じ完全に子供だし……
「これは何だ?」
「みんなにどんな家に住みたいかって聞いて絵を描いてもらったの。その中で一番良かったのがこれ」
昨日軽くだが、住むならどんな家がいいかと聞いた気がするが正直あまり期待して無かったので驚いた。だがありがたいのたしかなので素直にお礼を言ってみんなに見やすいようにテーブルに広げる。
「……木ね。でもこんなに巨大な木って存在するの?」
ノワールの言う通り、近くに書かれてる妖精と比較して考える描かれている木のサイズは少なくとも百メートルを超えるだろう。高さでは無く円周で。
ノワールには思い当たらないみたいなのし、俺にも当然そんなものは知らない。それでも一応調べてみるかと思いながらダンジョンコアを取り出し探してみると見つかった。
「世界樹、今はもう失われた大量の魔力を内包する巨木。その成長に限りは無くいずれ世界を覆いつくすであろう。……どんな説明文だよ」
「世界樹自体は無いみたいだけど種はあるみたいね。どうする?」
「流石に駄目だろ、説明文を見る限り成長の為に周囲の養分を吸い続けるみたいだから不用意に植える訳にはいかないだろ」
絶滅した理由も周囲の栄養を吸い尽くす事から危険視されたのが原因らしいので、俺が再びそれを繰り返すわけにはいかない。兵器としてなら……いや、制御出来なかった時の事を考えると駄目だ。放置すれば不毛の地を生み出してしまう存在を生み出すわけにはいかない。
「でもそんなの良く知ってたわね。私も初めて聞いたわよ」
「知らなかったよ?」
「いや、知らなかったのかよ」
なら何でそんなものを望んだ。
「こんなのがあったらいいなーって。欲しい物があったら言ってって言われたしね」
「限度があるだろうが」
「でもそうするとどうするの。流石に世界樹を買うのは反対よ」
「そうだな……ならこれなんかどうだ? 『世界樹のレプリカ』サイズだけ真似た偽物だけど見かけだけはそっくりだ」
「ん……それでいいと思うよ。本物かどうかを気にする子なんていないとおもうし」
「ならこれで決定だな」
取りあえず妖精たちが住む場所についてはこれで終わりだ。細かい調整は後回しにする。今は要望を聞いて現実的に可能なものに落とし込むのは後の仕事だ。
「それでみんなの反応はどうだった?」
「んー殺風景なのはみんなあまり好きじゃ無さそうだったなー。後おもちゃの数が足りないって」
「数が足りない? 百以上あったと思うが」
「そうじゃ無くて人気があるものが取り合いになって足りなくなってたの」
どんなものが足りないかを聞くと一人で遊ぶものより多数で遊ぶもの……パーティーゲームの類が人気の様だ。一人用のも最初は楽しそうにやるのだが、少しするとある程度人数のある方に行ってしまうのだとか。
殺風景の方は俺も感じていた事で対処の必要があると感じていた。今後ダンジョン内で住んで貰える人を増やすとなると閉塞感のある環境は好ましくはない。最終的には視覚上は奥行きが必要になるだろう。
「他にはあるか?」
「んー特にはないかなー」
「そうか……なら次は食事だな。普段はどんなものを食べて過ごしてるんだ?」
「ほとんど果物だね。偶に魚なんかも食べるけど滅多に食べないし」
「頻度は?一日でどれくらい食べるんだ?」
「一日一個か二個だね。食べようと思えばもう少し食べれるけど無理してでも食べたいって訳でも無いし」
なら一日二個として考えるとして……一日辺り600前後位か?収入が一日10000ptと考えると随分余裕がある。問題は無さそうだ。だが、いっそ果物園でも作ってしまうのもアリかもしれない。
「そうか……後は仕事だな。妖精達はどんな仕事なら出来ると思う?」
「え、仕事? 無理だと思うよ」
「……そうか」
この反応に内心嘆息する。
分かってた事だが妖精達に何か決まった仕事をさせる事は難しい。そもそも継続的な何かをさせると言うのに根本から向いていないのだ。生きる為に必要な物が少なく戦闘力が高い。そのため社会を構成する必要が無い、単体の種族だけで完結し他に合わせる必要性を感じていない。
これを無理に変えようものなら妖精達は反発する。かと言って放置すれば今後の運営に支障をきたす。もしも他の人間がダンジョン内で暮らすことになったとしたら、特に何の仕事もせず享楽的に生きるだけの妖精達をいい目で見る事は出来ないだろう。
「無難にモンスターの討伐などを頼むか。妖精たちのとってはモンスターとの戦いも娯楽なんだろ?」
それを防ぐために何かしらの役割を果して欲しい。それにはモンスターの討伐が妥当だろう。殆どの種族には取っては危険が大きいが妖精族に取ってはそれ程でも無い。妖精族に取っては遊びの延長程度の事でしかない。これを任せることによってある程度不満の緩和は出来るだろう。社会に適合している種族と言えない妖精族を仲間に引き入れ馴染ませるにはこちら側の努力が必須だろう。これにはフェスカも文句は無いらしく心地よく頷いてくれた。
「だが街に住むならある程度守って貰わないといけない決まり事があるのだが大丈夫か?」
「んー、難しいと思う」
「ルールを覚えられないのか?」
「どちらかと言うと、ずっと守るのは無理って感じかなー、ほら、私達って決まり事とか苦手だし」
「……それなら他の街に入ってる間なら守るならどうだ? 基本的には自由にしていいが、他の街に立ち入る際にはそこのルールを守るなら」
「それなら多分平気」
「多分か」
「ほら、えーと何て言ったっけ、姫様の国に入ってた時も特に問題は起こさなかったし」
「エルランド王国ね。でも確かにこれといって問題は無かったわね」
そして一番重要な点、街でのルールを守れるか。いくら優秀な種族で精神的に幼いとは言っても住民としての最低限のルール、法律を守れないなら共存は難しい。好き勝手されて無罪放免という訳にはいかないのだ。
だがその問題は思いのほか簡単に解決した。妖精族はそもそもエルランド王国と交流があった。長期的に滞在していた訳では無く、偶に訪れて森で採れるモンスターの素材や植物などを渡して代わりに色々な物を貰っていく程度の交流だったらしいのだが、それでもその際、大きな問題を起こしていないのだから街で過ごす事も不可能では無い。精神的に幼いから我慢などが苦手なだけで頭が悪い訳では無いので街に訪れている間のみなどに限定すれば大した問題は無いらしい。
ただそうすると妖精族は他の種族と同じ空間で生活するのは難しいと言う事になる。自由に過ごさせるには妖精族以外がいる環境では難しいので、妖精族には妖精族の集落をつくって貰うことになるのだ。
そして作り上げても浮浪の種族である妖精族が居座り続けてくれる保証も無いと言う問題も残っている。色々考えなければいけない事は多いが少しずつ頑張っていくしか無いだろう。