第十五話 消えたモンスター
ダンジョンマスター生活十三日目。
モンスターを倒してDPを稼ごうとしていた俺たちは思わぬ事態に直面していた。モンスターが見つからないのだ。まったく見つからない訳では無い。ただ大きく数を減らしているのだ。
一日目を離しただけで外の状況が急変した事に戸惑いながらも、モンスターを探しに行かせていたバットにそのままを偵察して貰っていた。
「原因は分かったか?」
「いえ……ただ何らかの生き物が暴れたのは確かでしょうね。所々焦げた跡などがあるし……ただ足跡などが残っていないのよね」
「残って無い?」
「隠されてるのかしらないけど、綺麗さっぱりね。今索敵範囲を広めてるけど森が広すぎて調べ終わるのに何日掛かるのかしらね……」
「……だが不確定要素は出来るだけ減らしたい……仕方が無いか、俺も手伝うよ」
あまり使いたくは無いのだがDPを使ってゴブリンを召喚する。ノワールと違って視覚情報の共有など便利な真似は出来ないがその分数を用意できる。
「ダンジョンから出て周囲の状況を調べろ。何かあったら俺に報告するんだ……後、日付が変わる時間になったら自害しろ」
酷いようだがこれをやっておかないと大変な事になるのだ。ゴブリンは知性が低く理性では無くて本能で行動する。放置するようなら人里へ降りて被害を出す可能性があるのだ。
命令を受けたゴブリンはダンジョンから出て周囲に広がっていった。報告しろと言っているが正直そこまで期待してはいない。
「……南東で一匹死んだ距離は二キロほどだ」
「分かったわ」
ゴブリンが死んだとすればそれは何かしらの外的要因があることとなる。それを利用して死んだ場所にノワールのバットを送って情報を得ようとしているのだ。
俺のゴブリンで場所に見当を付けてノワールが確認する。外れも多いがそれでも今はモンスターが静かにしている事が多い。この方法で探しても見つける事が出来ると考えたのだ。
ノワールの様に遠距離から命令したり視覚情報を共有したりは出来ないが、俺にも集中すれば何となくの場所を掴めることを利用しての行動だ。
「……どうだ?」
「待って……え?まさかこれって……きゃっ!?」
「どうしたんだ!?」
「い、いえ、大丈夫よ。バットがやられてびっくりしただけだから……それよりモンスターがいなくなった原因が分かったわ」
「そ、そうか。何が原因だったんだ?」
「それはその……妖精族の仕業よ」
「は?」
妖精族とは全長30cmほどの小人に羽を生やしたような外見の種族だ。性格は好奇心旺盛で楽しい事が好き。非力だが魔法が得意なため戦闘力自体はそれなりに強い。森の中で改造した木を寝床にしており滅多に人前に現れない、と言うのが俺が知っている情報だ。暇な時ダンジョンコアに色んな種族の情報を聞き出しておいたのだ。
妖精族がモンスターの姿を見なくなった原因とは思えない。そんな俺の疑問を感じたのかノワールは言いずらそうに理由を教えてくれた。
「その……妖精族って楽しい事が好きじゃない?」
「そうだな」
「妖精族の楽しい事って結構頻繁に変わるのだけど、その中にモンスターの討伐数を競うってものがあって……」
「……ああ」
理解した。好奇心旺盛で楽しい事が好き。これだけ聞くと悪くは聞こえないのだけどその楽しいの内容次第では周りの迷惑を考えず遊び回るって事に繋がるのか……
妖精族は種族的に魔法が得意……妖精族の群れは魔法使いの集団と考える事も出来るのか……
「どうする?交渉は出来そうな相手なのか?」
「……可能だとは思うのだけど妖精族って良くも悪くもあまり深く考えない種族だから……」
……妖精族ってのは子供みたいな連中の集まりって考えればいいんだな。無邪気で好奇心旺盛で楽しい事が好き。ただ全員が魔法を使えてそれなりに強い。確かにこれは厄介な相手だ。どこに地雷があるかも分からず何をしでかすかも予測が付かない。だがこれはチャンスでもある。
子供の様な……と言う事は裏表が無い。裏切る可能性が低い仲間になってくれる可能性もあるという事になる。
「ノワールは良く妖精族の事を知ってたな。ダンジョンコアの情報だと滅多に人前に現れないって聞いてたんだが」
「私のいた国が妖精族と交流があったのよ。森の中では手に入らないものを色々融通してたわね……」
「融通って、ただであげてたのか?それは国としていいのか?」
「確かにただであげてたけど利益は出てたわよ。妖精族って頼めば色々と森から採って来てくれるもの」
「それって結局交換なんじゃ無いのか?」
「そうかもしれないわね。でも向うが何も持って来なくても渡してたし。向うは交換してるだなんて思っていないんじゃないかしら?」
「そんなんでよくいままで無事だったな……直ぐに騙されそうな感じなんだが……」
「どうも悪意に敏感らしいからね。騙そうとして近づきでもしたなら直ぐに魔法の餌食よ」
色々とんでもない種族だな……