第十一話 スキルと初戦闘
「そういえばスキルって具体的にどんなものがあるんだ?」
魔法の練習の片手間にノワールに気になっていた事を聞いた。魔法とスキル、それらは俺の知る常識には存在しなかったである。スキル……単純に訳すなら技術や技能と言ったものだが、どうも話している感じだと俺が思っているより明確に存在するものの様に感じるのだ。
ダンジョンマスターの能力を調べた時に見つけた《スキルの付与》の存在もその推測を裏付けている。俺の疑問にノワールは疑問気な顔をしたが、直ぐに何を求めているのかを理解し説明してくれた。
「スキル?……そうね代表的なもので言うと《格闘》《剣術》《棒術》などが有名ね。どんな分野でもいいからある一定以上の能力を持っていると習得できる。いえ、習得したことを理解できると言った方が正確ね」
「習得したことを理解できる……それは漠然とした感じか? それとも明確にか?」
「明確にね。練習をしていた時の事もあるし、他の事をしていた時の事もある。ただ明確に習得出来た事が理解出来るのよ」
「それは前に言ってた《眷属召喚》のようなスキルも同じか?」
「一応は、でも私のそれは習得が難しいとも言われてるスキルなのよね。何故習得出来たのか分からずに急に出来る事が確信できる。さっき例で出したものとは違って完全に才能や素質でのみ決まると言ってもいいわね。まあ私のこれは戦闘ではほとんど役に立たないのだけどね……」
腕を一振り、それだけで手元に一匹のバットが現れる。普通の蝙蝠よりは一回り大きいが……確かにそんなに強くは無さそうだ。
だが、スキルについては何となく理解する事が出来た。スキルとは、技能、技術、体調、特徴などその持ち主の能力や状態を示している、そしてそれが明確に本人に把握する事が出来るみたいなのだ。
詳しく聞くと《貧血》《片腕欠損》なども全てスキルだという。プラス面だけでなくマイナス面も、また体調の変化によって出たり消えてりするスキルもある。
努力で得られるものも、それ以外の素質、体質なども総じてスキル、正直スキルの範囲が広すぎて訳が分からなくなりそうなくらいだ。
ただ、これをダンジョンマスターの能力の《スキル付与》、怖すぎて使えない。せめて途中にある程度の実験を挟まなければならない。まあそもそもDPが足りないが。
そして重要な事がもう一つ……俺は自らのスキルを把握する事が出来ない。この世界の人間では無いからか、いくら頑張ろうが全く分からない。先ほどの言葉と矛盾するがそもそも頑張り方が分からない。
「……まあこれに関しては仕方が無いか、そもそも前提として違う世界の人間だから身体の作りが違うと言われればそれまでだし」
それから四日間は特に何か行動を起こすことなく過ぎて行った。と言うのも現状俺達に出来る事はそう多くない。魔法の練習やノワールからの情報収集は当然として、それ以外の何かしらの行動を起こそうとするには何をするにもDPが必要となってくるからだ。
取りあえず俺が前衛で足止め、ノワールが後衛で止めを刺す形で戦い事を決めても、そもそも武器が無ければどうにもならない。なので剣を買うだけのDPが貯まるまでの四日間は静かに訓練と雑談の繰り返していたのだった。
そして四日目、魔力量に物を言わせてひたすら練習しただけあって、魔力による身体強化はどうにか目途が立ち、刃が付いた武器も用意する事が出来た。今手に持っているこれだけで食費などを抜いた四日分のDPが使われているが、品質的には微妙な物でしか無いのが少しアレだが。
鉄で出来てる武器だけあって、重量はそれなりだが強化済みの俺には軽々と振り回せるところに魔法の便利さを感じた。
「見つかったか?」
「もう少し待ってて……モンスターはそれなりにいるのだけど私たちで安全に勝てそうなのが中々居ないのよ」
そして今ノワールが倒すべきモンスターを探し出している。
《眷属召喚》で召喚したバットとの視覚共有だそうだ。これはスキルとは違って後天的に練習して得た能力らしいのだが、眷属として呼び出されたバットが見たものを本人も見る事が出来るらしいのだ。
バットも蝙蝠の仲間なら視力はそう良いものでも無い筈だが、ノワールには把握する事が出来ている。謎だが今は原因究明に精を出す程の余裕は無いが少し気になる。
「……見つけたわ。後は上手くここまで誘導するわね。敵はジャイアントベアー、熊型のモンスターよ。大きさは4メートルほど、それなりに強力なモンスターだけど火を吹いたり空を飛んだりしないから比較的戦いやすい筈よ」
「頼んだ」
比較的弱いとして選ばれたのが4メートルを超える巨大熊とは……この周囲にいるモンスターの強さが分かるな。
前に倒したドラゴニス……おれの召喚出来るモンスターで一番強いオーガを二体召喚して、ようやく相打ちだったあいつが、この森では割と出会う程度の強さでしかない。あの固体が子供だったことを考えると現実にはもっと厳しい。
それに単純な強さ以外の点、特殊な火を吐いたり、群れで暮らして居たりと一筋縄ではいかないモンスターも多い。
ジャイアントベアーが選ばれたのは群れを作らず、特殊なブレスなどを持たないからといった戦いやすい相手なのだ。こちらの戦力は初戦闘の俺とあまり戦いは向いていないと言うノワールの二人、単純な強さよりも攻撃手段の少なさ、要求される判断の少なさで敵を選んだみたいだ。
10分ほどしてノワールから合図が掛かる。ジャイアントベアーがダンジョンの入り口から入り込んで来た。
正直、足が竦みそうになる威容だ。二メートルサイズの熊、日本でなら立ち向かうなんて自殺行為だし無謀以外の何でも無い。だがやらなければならない。
全身に魔力を行き渡らせて強化する。それだけで身体が嘘みたいに軽くなり恐怖が和らぐ。この状態の俺は嘘みたいな力と速さを持っているので、熊に挑むのも無茶じゃ無いと思わせるものがある。鉄を殴れば凹み石を握ったら砕く事が出来る。
「ノワール援護頼んだ!?」
それだけ言ってジャイアントベア―に向かって疾走する。四日間の間に周囲を偵察し情報を集めていたのだ。こいつと戦う事は想定されていたし、その為の訓練も積んで来た。
武器を力強く握りジャイアントベアーの後ろ足に叩きつける。ジャイアントベアーは格下と思わしき相手と出会った時は後ろ足で立ち上がり威嚇の動作をする。それを利用しての先手での一撃離脱だ。
ガアァァァァ!!
俺の一撃は後ろ足に深く食い込んだ。俺の腕力だけではこうはいかなくても俺の魔力量は規格外らしい。それを使っての全力強化での一撃だ。効かないわけが無い。四割ほどまで到達した一撃は確実にジャイアントベアーから機動力を奪った。あれではもうまともに立つ事も出来ないだ筈だ。
ジャイアントベアーは痛みに怯み腕を振り上げて暴れ出す。それをあらかじめ予想していた俺は深くに食い込み過ぎて抜けなくなった剣を早々に諦め距離を取る。
多少不格好になりながら離脱だが距離を取ると同時に背後から声が掛かる。どうやら魔法の準備が出来た様だ。
痛みから転げまわりながら暴れるジャイアントベアーにノワールの魔法が襲い掛かる。浮かんでいる魔法陣の効力は火、矢、回転、加速、圧縮の五つだ。構成から見て高い貫通効果を持った火の矢だと予想される。熱量で溶かしながら貫通する魔法だ。
ジャイアントベアーの頭を狙っただろうそれは狙いをわずかにそれ右肩に当たる。戦闘が得意で無いとの言葉通り転げ回っている相手にすら急所から外してしまっている。確かにこれだと一人で戦うには危険が大きかったのだろう。
だが、効果は十分にあったようで。肩からは肉の焦げた匂いとそれですら止まらない程の血がドバドバと溢れる。後ろ足の傷を合わせればもう再起は不可能と見ていい。
「終わりだな」
「そうね」
既にこちらに攻撃する余裕を無くして倒れているジャイアントベアーにノワールが魔法で止めを刺して死亡を確認してから近づき後ろ足から剣を抜く。
最初から最後まで予想通りの展望だが、それでいい。殺し殺されの戦いが長引いていい事など無い。そもそも俺は戦闘は初めてなのだ。長引かせないに越した事は無い。
血がしたたり落ちる剣を眺めて生き物を殺した実感が湧くが……特に何の感慨を覚える事も無かった。あるのは緊張から脱した事による安堵のみだ。
だがまあダンジョンマスター生活九日目。ようやく一歩進めた気がした。