弱肉強食の山に引きこもった俺の一日
俺は昔から蔑まれされていた。理由は簡単。俺の容姿だ。別に不細工ってわけじゃない。イケメンってわけでも無いが。まあ、普通の見た目だ。じゃあ何故蔑まれているのか。黒い髪と青い目。これがダメらしい。何でも何百年も昔に倒された魔王が黒髪青目だっらしい。でも、そんな事言われても俺としては普通に困る。兄や妹に罵倒されたことは何千回もある。でも、それはまだマシな方だった。両親からは完全にいない者として扱われた。好きの反対は無関心であるとはよく言ったもんだ。まあ、でも慣れてしまった。それが何年も続いたある日。いつも無視をしていた父親に呼び出された。
「お前みたいな気味の悪い存在を家に置いとくのはもう限界だ。この家から出ていけ」
よっぽど俺と話したくなかったのだろう。かなり淡々と簡潔にそう言われた。そして、あっという間に家から追い出され、どうしようか?と悩んだ結果、ちょっと遠い山に籠った。何で山?と思うかもしれないが、簡単だ。人は信用できない。なら、人のいない&来ないところにいればいい。だから、結構危険だと噂がある山に籠ることにした。
はっきり言って頭のおかしい行動だ。でも、もう誰とも関わりたく無かったし、だからもう何でもいいやという感じで山に行った。
数年の時が流れた。え?省略し過ぎ?いや、そこまで何があったというわけでもないし、あったとしても初めてヤバイ魔物にあった時くらいだ。
あ、そういえば言ってなかったけど、この世界には魔物やら魔法やらがある正にファンタジーな世界だ。これも言ってなかったけど、俺は所謂転生者ってヤツだ。神様特典っていうのは貰ってない。そもそも神様に会ってすらない。いつの間にか俺はこの世界に生まれてきた。
まあ戸惑ったけど、結構順応性は高い方だったらしい。なんやかんやで馴れた。でも、やっぱりいろいろと大変な事もあった。前世にはテレビやら車やらその他諸々の機械がない。ボタン1つでいろんな事ができる便利な暮らしではない。赤ん坊の時期は特に何も思わなかったが、成長して自分で移動できるようになるとその不便さがわかる。
でも、俺が一番大変だったのは、俺の特異体質の事だった。赤ん坊の頃は何もなかった。しかし、一歳になった時、自分でもはっきりと分かる変化が体の中で起こった。ドクン、と一瞬だが体の中を何かが駆け巡った感覚を覚えた。本当に一瞬だったが、俺は確実に自分がさっきまでの自分ではないとわかった。そして、よく分からない感覚に疑問を覚えながら、部屋の壁に手をついた。 そしたら、何故か壁に罅が入っていた。
因みに俺はかなり位の高い貴族の家で産まれた。そんな貴族が暮らしているのはもちろん豪邸。そして、そんな豪邸が建てられるのに使われた材料はどれも一級品の物ばかりだ。つまり、何が言いたいのかというと、この邸の壁はかなり頑丈に作られているという事だ。そんな壁に手をついただけで罅を入れたのだ。
もし、この力を今までの要領で使ったら。
少しそれを試してみようと思い、ドアノブを掴んでみた。
ぐしゃっ
粉々に潰れた。
バキッとドアノブが取れるというのはまだわからなくもない。でも、潰れるってなんだ。
とにかくこれはヤバイと思ったから、力を制御する事に心血を注いだ。しかも、力だけではなく、頑丈さや、速さまでも人間離れしていた。これらを制御するのは本当に大変だった。なのに、俺が成長する度にこの特異体質も成長していく。一々力を抑え直すのもしんどかった。
人がいない場所なら抑えなくてもいいと思っていたら、そうでもなかった。捕ってきた生き物を食べる時も力を抑えないと、ちゃんと食べれない。それ以前に獲物を捕るのも加減しないとそのまま消滅してしまう。もう、潰れるでは済まないレベルになっている。なのに、まだまだ成長していくのだ。今ではもう制御するのは簡単になってきた。でも、やはりしんどいものはしんどいのだ。この世界に転生してからずっとこれだけが唯一の悩みだ。
そして、ある日の昼下がり。なんとこの山に人間が来た。それも一人や二人じゃない。何十人もの人間が来たのだ。群がってやって来たが、先頭の男は剣と盾を持っていた。最初は騎士団かと思ったが、どうやら違う。男の後ろにいるのは、斧を持った厳つい男だったり、杖を持った女だったりとバラバラだった。よく見れば人間じゃないものも混ざっている。
そいつらを見て、俺は思い出した。前世ではファンタジーの作品の中には結構な割合で存在していた奴等の存在。そう、ギルドだ。
でも、一体何故ギルドの奴等がこの山に来たのか。疑問に思い、話を聞いていると、どうやらこの山の魔物を狩りにきたらしい。言っておくが、別に直接尋ねたわけじゃない。この特異体質のおかげで、目と耳も発達したのだ。目は千里眼の如く遠くを見渡せるし、耳は相手の心臓の音が聞こえる程にまでなっていた。俺はこの特異体質のせいで、着実に人間を辞めていっている。もしかしたら、本当に魔王になってしまうのかもしれない。まあ、別に魔王になる気は無いし、世界征服的な事も企んでない。寧ろ人間には関わりたくないのだ。だから、そんな事をする理由が無い。
そんな誰に向けて言っているのか分からない言い訳は置いといて。今は、あのギルドの奴等だ。この山の魔物を討伐するつもりらしいが、正直無理だろう。この山で暮らしている俺だからわかる。あの魔物達は生半可な気持ちで挑むと、あっという間に殺される。きっと何回もいろんな魔物を倒してきたのだろう。いろんな修羅場を潜ってきたのだろう。でも、それはこの山以外の経験だ。俺も世界を知らないから、あまり言えないが、でもこれだけは言える。
この山は格が違うと。
「ぎゃああああっ!!」
「い"だい"い"い"い"い"い"い"!!!」
「いやっ!たすけてぇ!!」
「腕が!俺の腕があああ!」
阿鼻叫喚。正にその言葉ぴったりだ。
俺はギルドの奴等と一匹の魔物との戦闘を見ながらそう思った。いや、戦闘じゃない。これはただの蹂躙だ。蹂躙するのは魔物。されるのはギルドの面々。分かりきっていたことだから、特に驚きはない。でも、あいつらは運が無かったようだ。まだ、弱い魔物だったらもっと被害も少なかったろうに。あいつらと対峙している魔物。それはオークだった。
本来オークは強い魔物ではない。力は人間とは比べ物にならないぐらいに強いが、知能は圧倒的に低い。それに力が強いだけなら他にもたくさんいる。故に、そこまで苦労する相手ではない。少なくともあいつらにとってはそうだったんだろう。だけど、残念ながらここに住んでいるオークは力は当然のことながら、知能も人間並みにある。そして、技術もある。だから、あいつらは気づけない。自分たちが囲まれている事に。周りにオーク達が息を潜めている事に。
更に言うと、オークに限った話ではないが、魔物は基本、本能で動いている。そして、オークは他の魔物と比べて異常に性欲が強い。それに関してはこの山も例外ではない。更に、ギルドというのは基本的に来るもの拒まずな所がある。男も女も亜人も獣人も関係なく、ギルドの一員になることが多い。もちろんこの山に来たギルドにも女が存在する。見たところ美人が多いようだ。で、そんな美人は今まともに動ける状態ではない。それを目の前にして、オークが放っておくのか?答えは
「いやああああああっ!!」
否だ。
ギルドの奴等と戦っていたオークが女の一人に手をかけた。それを見て、周りのオークも他の女を犯そうと出てくる。そして、三十秒もしない内に、男は殺され女は犯されていった。よく見ると、まだオークに殺されていない男がいた。先頭にいた男だ。男はオークの猛攻を掻い潜ると、一番最初に犯された女の所へ向かっていく。
「リーネ!今助けるぞ!」
「クライン!」
「彼女を離せ!この化け物め!うおおおおお!!」
どうやらあの二人は恋人同士だったらしい。犯されて、苦悶の表情を浮かべていた女も男を見て、希望を見いだしたかのような顔になった。男の斬撃がオークに迫る。だが、何度も言うがこの山の魔物は普通じゃない。
「グォア!」
オークの振るった腕が男に直撃した。男の上半身が吹っ飛んだ。地面に男の肉片が飛び散る。
「え?」
女はそれを見て、唖然とした顔をした。そして、何が起こったのか理解すると、その顔が絶望に染まっていく。
「いやっ!クライン!いや、いやあああああああああああ!!!」
女の慟哭が響き渡る。が、誰も助けには来ない。もちろん俺も助けない。何故かって?簡単だ。俺は人を信用できない。そして、関わりたくない。だから助けない。それに、この山の事をちゃんと知らないから悪い。勝手に喧嘩売って、負けただけだ。そんな相手を助けようとする奴はいない。
この山は特に決められたルールは無い。でも、暗黙の了解というか、自然に決められているルールがある。
弱肉強食。
これだけだ。今回あいつらは弱かったから負けた。ただそれだけの事だ。
馬鹿なギルドの末路を見届けた俺は自分の住みかに帰っていった。暇潰しくらいにはなるかと思ったが、何も面白くなかった。ざまあみろとも思わなかった。俺がいかに人間に無関心なのかを再確認しただけだった。とにかく腹減ったから、さっさと帰って飯でも食おう。
とりあえず、俺の今日の一日は終わった。最近少し刺激がほしいと思う俺だった。