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勝利の女神

「これはなんともまぁ……」


 目の前に広がる光景に、聖バレアス教国の司教であり浮遊島に派遣された隊の長でもあるマクレアが呆れたような感心したような声を上げた。


 リオンとジェイグがバレアス軍と戦闘を開始して、すでに五時間が経過している。その間、バレアス軍はマクレアの指示の下、たった二人の冒険者を相手に自軍の主力を差し向け、八百を超える兵で総攻撃を仕掛けた。


 リオン達にも手助けをしてくれる仲間はいた。この島の先住民であるビースト達だ。


 しかし彼らは魔力を持っていない。獣の由来の高い身体能力を持つが、身体強化も属性魔法も使えず、バレアス軍と相対すれば殺されるのは目に見えていた。ゆえに彼らはあらかじめ準備しておいた壁の向こうから、弓や魔力による起動の必要のない魔導具による援護しかできなかった。


 リオン達をやり過ごし、壁に向かわれると厄介だったが、幸いなことにバレアス軍は魔導具の威力を警戒したのか、リオン達を倒すことを重要視したのか、ビースト達を無視してリオン達だけを狙った。バレアス軍からも弓や魔法による多少の牽制程度はあったが、ビースト達に被害は無いだろう。


 だがその分、敵兵力の全ての攻撃、全ての意識がリオン達二人に集中することになる。


 『八百』対『二』。


 言葉にすれば簡単だが、現実はそうはいかない。


 『一騎当千』という言葉があるが、リオン達もそう呼ばれるに相応しい実力は有している。これがそこらの有象無象やただの一兵卒程度であったら、たとえ千人を相手にしてもねじ伏せるだけの力はあるだろう。


 しかし今回の敵はそこらの有象無象ではない。小国とはいえ、国の命運をかけて送り出した千人の軍団。その中でもさらに精鋭を中心に出撃させただろう八百人だ。選りすぐりとまではいかずともその練度の高さは、一般兵でありながらも相応の実力を持っていた。


 その軍団を相手に、四百倍の差をひっくり返すのは、いくらリオン達でも難しい。


 “不利”だとかそんな言葉では言い表せない程の絶望的な差である。


 ――はずだったが……


「一つ聞いてもいいかな?」

「……何だ?」


 軽い口調とは裏腹にどこか焦りとイラ立ちを含んだマクレアの問いに、隠し切れない疲労を感じさせながらも凛とした声が応える。


「キミ達、ひょっとして化け物か何かなのかな?」

「心外だな……ただの冒険者、ただの人間だよ」


 焼き払われた森の跡。焼け焦げた大地が黒く染めていた戦場は、今はおよそ五百人の兵士の血と肉体で覆われていた。全てが死体となっているわけではないが、ほとんどの兵士が重傷を負って倒れており、意識のある者でも戦いを継続するのは不可能だろう。


 後方にいてまだ無事な三百人は戦意喪失とまではいかずとも、攻撃を躊躇うように顔を見合わせている。


 その惨状を作り上げたのが、たった二人の冒険者というのだから、彼らが躊躇うのもマクレアがイラ立つのも無理はないだろうが。


「ただの冒険者二人が五百の兵を討ち果たすなんて、こちらからすれば悪夢としか言いようがないんだけど」

「……そんな文句はあんたの大好きな神様にでも言ってくれ」


 相変わらずの軽い口調で愚痴を溢すマクレアに、リオンが余裕を見せるように口の端に笑みを浮かべ、軽口で応える。


 そのすぐ傍では、その相棒が血まみれの大剣を肩に担ぎ、同じように獰猛な笑みを浮かべている。


 その二人の態度は、五時間にも及ぶ戦いを生き抜き、五百の兵を相手にしたあととは思えない。


 だがその態度とは裏腹に、二人の姿は満身創痍と呼ぶべきものだった。


 二人の体は血に濡れた場所が無いと思えるほどに血まみれだ。その多くは敵の返り血だが、自身のものもかなり混じっている。


 身体には裂傷や火傷があちこちに見られ、服はボロボロ。回復薬を何本か持っていたので、大きな傷は戦闘中に無理やり回復したが、流れた血液までは戻らない。疲労も積み重なっていく。会話中は意識して抑えていたが、本来であれば肩で息をして呼吸を整えている状態だ。


 八百人の敵を相手にし、その半数以上を打ち負かしたと考えれば、疲労もケガも軽すぎるだろうが、まだ目の前には三百人近い敵がいる。しかも敵は後方キャンプにまだ兵力を残している。こちらもまだ戦えるだけの余力はあるが、状況はひっ迫していると言っていいだろう。


 “引き際”としては、もう十分な状況。これ以上二人だけで戦いを続ければ、最悪の事態も考えられた。


(後退するか……だが大将であるマクレアが前線ここにいるうえ、ティア達から作戦失敗の合図もない。つまりティア達はまだ作戦行動中。時間的にはそろそろ結果が出てもおかしくない)


 リオン達がここまで派手に暴れているのは、ティアとファリンが敵本陣に潜入するための陽動だ。その作戦が無ければ、リオン達は壁を二重三重に設置したうえで、二人も戦闘に加えて防衛を行っていただろう。


 だがそれでは今より時間は稼げても、バレアス軍を倒すことはできない。防衛戦の間にミリル達が戻ってくればいいが、もしも間に合わなかった場合、敗北は必至だ。


 リオンとジェイグの二人だけで敵を半分まで減らすことができたが、それはミリルが置いていった魔導具があったのと、二人が多人数を相手にした長期戦に向いていたからだ。


 ティアは、対集団戦は得意だが長期戦には向かない。


 というのも、ティアの得物である魔弓は魔法矢を放つため、魔力の消費が激しい。接近戦もできるが、それだけでは実力の半分も出すことはできないだろう。


 そしてファリンは、戦闘力においては残念ながら黒の翼の中で最も劣っている。メンバー中最年少ということもあるが、得意とする戦い方が闇魔法を使った奇襲戦術ということもその理由の一つだ。一対一であれば、まだ他のメンバーとも辛うじて互角に戦えるが、集団戦には向いていない。


 もちろん四人で戦えば、さらに敵戦力を削ることはできただろう。だがそれよりも前に、四人のうちの誰かに被害が出ることだけは避けたかった。


 だからこそリオンは、多少のリスクを負ってでも二人だけで防衛戦を挑んだ。その結果、敵の半数を削ることはできたが……


「神への侮辱は許さないよ。もっとも、さすがのキミ達もそろそろ限界が近いだろうけど」


 怒りと、それ以上の勝利への確信を滲ませて、マクレアが歪に笑う。確かにこの男の言う通り、リオン達の限界は近い。敵もさっきまではリオン達の戦いぶりに臆した様子を見せていたが、大将であるマクレアが出てきたことにより、落ち着きを取り戻しつつある。


「それに、そろそろボクらの方の援軍も来る頃だ。そうなったら、さすがのキミ達もお手上げなんじゃないかな」


 どうやら、リオン達の抵抗が予想以上のさらに上をいったため、さらに後方から援軍を呼んだらしい。まだ余力はあるが、撤退を考えるなら、ここらが“引き際”だろう。


(壁を利用すれば、まだ多少の時間は稼げる。最終的に撤退するにしても、作戦を続行するにしても、一度退くしかない)


 それはビースト達の犠牲を許容する選択になるが、そうするより他にない。


 ジェイグもそれはわかっているのだろう。リオンの顔を横目で確認すると、さすがに表情には出さなかったが、剣を握る拳が固く握られたのが分かった。


 それでもここまで粘ることができたのは、ジェイグが一度わがままを言ったからだ。二度目は無いと伝えているし、ジェイグもそのつもりはないだろう。


 ゆえにマクレアや敵兵の動きを牽制しつつ、後退を始める――


「全員、突撃ぃいいいいいいいいいいっ!」


 ――よりも早く、その号令が戦場に高らかに響き渡った。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』


 その号令に大地を揺らす雄叫びが続いた。


 同時に、いくつもの足音が大地を揺らして、リオン達の後方(・・)から近づいてくる。


 その声と足音に、ジェイグの顔が驚愕に染まり――


(ちっ……もう少し我慢してくれてればよかったんだが……)


 リオンは内心でそう毒づき、眉を顰めた。


 この大軍の足音も、その前の号令も、バレアス軍のものではない。敵の将であるマクレアはリオン達と対峙しており、ジェイグと同じように驚きの表情を浮かべている。


 だがその驚きの意味合いは、両者で異なる。


 ジェイグは、何故彼らが前に出てきたのかという疑問から。


 マクレアは、何故“今頃になって”彼らが前に出てきたのかという疑問から。


 そう、今まさに壁の後ろから次々と姿を現し、こちらへ向かって進軍しているのは、リオン達が守ろうとし、そして今まさに犠牲を覚悟する判断を下そうとしていたビースト達だった。


「何で、あいつらが……」


 呆然とした様子で自身の疑問を口から溢すジェイグ。


 そんな相棒の姿にリオンは気付いていたが、今はそちらを応えるより望まぬ援軍の状況を把握する方が先だ。


(先頭にいるのは……森長? ダルルガルムならわかるが、どうして彼が?)


 彼らがこのような行動をとる可能性は考えていた。森長はリオンの指示にある程度の理解を示していたが、ダルルガルム辺りは最後まで自分達の手で戦うことを望んでいた。一度は引き下がったが、戦いが長引けばいずれしびれを切らして飛び出してくる可能性は十分にあった。


 だが現在、高らかに咆哮を上げる彼らを指揮しているのは、穏健派だったはずの森長だった。ダルルガルムを従え、ジェイグが作った金属製の手甲をはめた手を高々と掲げ、真っ直ぐにこちらを目指してくる。


(まさか、納得したように見えたのは演技だったのか? いや、そうなら逆に出てくるのが遅過ぎる……だが、一度納得したことを覆すような男でもなかったはずだが)


 戦いが始まる前、森長はリオン達だけが前線で戦うことに難色を示していたが、最終的にはリオンの説得に応じて壁の後方に下がってくれた。あれがその場を誤魔化すための嘘の演技だったというなら、こんな五時間も経ってからではなく、もっと早く出撃していたはず。


 戦いが始まってから、仲間の説得に心変わりした可能性も低いだろう。出撃を強行する仲間を止められず、仕方なく出撃したというならまだわかるが、味方の先陣を切って駆ける姿からは断固たる決意が感じられた。


 彼らの意図が分からず、だが事態はすでに動いてしまっている。迷っている暇はない。


(もうビースト達は止められない……なら、最低限の支援をしつつ俺達は後退を――)


 可能性があった以上、こうなった場合の対応は考えていた。


 一度戦意に火が付いた彼らは、もはや言葉では止められない。かといってこんな疲弊した状況で彼らを守りながら前線を維持するのは、リオン達の身が危険だ。戦線は多少混乱するだろうが、趨勢をこちらに傾けるほどの力は無い。むしろ彼らに好き勝手に動き回られれば、こちらの邪魔になる可能性が高かった。


 ならば全体に後退の号令を掛け、それに従う者だけを守りながら撤退するしかない。


 従う者などわずかもいないだろうが……


 彼らの全滅は必至。ティア達から撤退の信号が上がっていないので作戦デルタは継続するが、たとえ成功しても守れるのは村に残してきた女子供だけになってしまう。


 だが再三の忠告を無視して出撃してきた以上、口惜しくはあるが彼らの選んだ行動の結果だ。リオンにはどうすることもできない。


「……ジェイグ、事前の打ち合わせ通り、ここは退くぞ。彼らが前に出た以上、もう俺達に彼らを守ることはできない」


 撤退の際の最大の懸念事項である相棒には、万が一こうなった場合の方針も伝えてあった。一度自分のわがままを通した負い目もある。何故来たのかと怒りをぶつけたいのだろうが、それを堪えるようにジェイグは歯をギリッと音が出るほどに噛みしめ、肩を震わせながらもリオンの指示に無言で頷く――


「戦え、戦士達よ! 我らが友のために!」


 ――よりも先に、森長の良く通る声と、ビースト達の咆哮が二人の耳に届いた。


「大恩ある友の危機である! 我らの牙を、爪を、奴らの喉元に突き立ててやれ!」


 敵と対峙したままだというのに、ジェイグはその言葉を理解できないように、魂の抜けたような表情で彼らを見つめている。


「我らの命と誇りに賭けて、何としても友の退却する道を作るのだ!」


 対してリオンは、彼らがこのタイミングで出撃した理由を正しく理解して、苦虫を何百匹も噛み潰したように表情を歪めた。


 ――止めろ。


 思わず零れ落ちそうな叫びを、必死に呑み込むリオン。


 森長は、リオン達の意を汲んでくれたが、その心情までは正しく理解していなかったのだろう。


 リオン達はビースト達を守らせてくれと言った。


 そこには冒険者としての立場や思惑、未知への探求心など、利己的な考えも多かった。だが理不尽に蹂躙されるだろうビースト達を助けたいという想いも確かにあった。それは彼らと共に過ごすうちに強いものとなっている。姿形は違う彼らの事を、ジェイグ達三人は間違いなく友として見ている。彼らと一定の距離を置いていたリオンでさえ、少なからず好意的な感情を抱いていたのは間違いない。


 それはビースト達からしても同じだった。先程の言葉通り、リオン達を友と思ってくれていた。むしろ何の見返りも求めず技術や物資を提供し、自分達を守るために最前線で戦ってくれる相手に相当な恩義も感じていたのだろう。守られるだけでなく、共に戦いたいと思いもしたのだろう。


 だがリオン達の想いを理解していたからこそ、状況が悪くなれば見捨てるというリオンの言葉も、その裏にある真意も正しく見抜いていた。


 リオン達がギリギリまで彼らを守る可能性を捨てられないことも。


 ビースト達を見捨てるという選択が、リオン達にとって苦渋の決断であることも。


 いざとなれば“リオン(・・・)”がそれを躊躇わないことも……


 そしていざ戦いが始まれば、リオン達は獅子奮迅の戦いぶりを見せた。守ると言った言葉通り、敵の全てを自分達へ引き付け、ビースト達の方へ向かわせることはなかった。


 それでも敵の圧倒的な数を前に、リオン達は少しずつ傷を重ねていった。ビースト達の優れた視力をもってすれば、壁の後ろからでもリオン達の状態が芳しくないことは一目瞭然だっただろう。


 見捨てると言いながらも、そんな傷だらけになるまで戦いを止めない姿に、リオン達を友と認める彼らは何を思うか。もしかしたらバレアス兵の目標がビースト達に向かわないよう、矢や魔導具による援護がしにくいように壁から離れた位置で戦い始めたことや、支給品の残数を意図的に少なくし、援護をしにくくしていたことにも気づいていたのかもしれない。


 そして彼らが選んだ答えが、この無謀ともいえる全軍突撃だった。


 友がこれ以上傷つく姿を見ていられず、撤退を促すために来たのかもしれない。


 リオン達が撤退を選択するであろう頃合いを見計らったのかもしれない。


 そうすればリオン(・・・)は家族のために撤退を選ぶだろうと。


 その判断は間違ってはいない。


 だが、その想いを、意図を、友愛を、言葉にしたのは間違いだ。


「亜人風情が……神の子であるボクらに盾突く気か……」


 テレパスのないビースト達のペルニカ語は通じてはいないだろう。それでも明らかな敵意をむき出しにして向かってくるビースト達の姿に、神の教えを狂信するマクレアがどす黒い怒りを露わにする。


「大気のマナは少ないが、魔力アウラを持たない下等種には十分だね」


 うっとうしい羽虫を追い払うように腕を振るマクレアに合わせて、バレアス兵の一団が魔法を発動させる。それらの照準は、もう少しでこちらへ到達するであろうビースト達へ向けられている。


「神の怒りを知るがいい!」


 悪魔のような笑みを浮かべたマクレアが命令を下す。空中で射出の時を待っていた無数の炎弾や風刃、雷撃に氷槍が無慈悲に放たれた。


「――っ!?」


 だがリオンの意識は、放たれた魔法にも、それを命じたマクレアにも向いていなかった。


「止せ、ジェイグ!」

「ダオラアアアア!」


 リオンの制止の声を無視して、ジェイグは身の丈を超える大剣を深々と地面に突き刺した。同時に、ジェイグの体から膨大な量の魔力が溢れ出す


 直後、雷鳴のような轟音が鳴り響き、大地が揺れた。地響きと共にジェイグが剣を突き刺した足元から、地面が山のように盛り上がっていく。その現象はビースト達とこちら側を隔たるように横に広がっていき、瞬く間にもう一つの壁を作り上げた。


 その壁はバレアス兵が放った魔法の全てを防いだ。着弾の衝撃で土が抉れたり崩れたりしているが、魔法を維持できる範囲いっぱいまで広がった大きな壁はその形を保っている。


 突然目の前に現れた防壁に、ビースト達の足が止まったのが音でわかる。おそらく壁の向こうでは隆起した分の土が削られ、堀のようになっているだろう。戸惑いが冷たい土壁を通して伝わってくるようだが、今は向こうを気にしている場合ではない。


「ジェイグ!」


 駆け寄るリオンの目の前で、相棒がその巨体を揺らして膝を折った。剣を杖代わりにすることでそのまま倒れてしまうことだけは防いだようだが、その顔色は悪い。片膝立ちの状態だが、そうやっているだけでも苦痛なのだろう。呼吸は乱れ、剣に添えられた手は寒さを堪えるように震えている。


 典型的な魔力の枯渇現象。体内の魔力アウラを限界まで消費したことで、身体に不調をきたしている。


 属性魔法を発動するには、自然中に存在するマナにアウラで干渉する必要がある。その干渉速度は才能や修練により上下するが、あれだけの規模の魔法を普通に発動するならば、どんなに優れた魔法の腕を持っていても発動までに数十秒程度の時間がかかるだろう。


 だが今回、ジェイグはそれをほとんどノータイムで発動させた。本来魔法発動に必要な量以上のアウラを無理やり放出し、強引に地中のマナを変質させたのだ。


 これまでの戦いでこの一帯のマナはほとんど消費してしまっているが、大地のマナは土属性の魔法でしか消費しない。そのため、あれだけ大規模な魔法発動に足りるだけの量が残っていたのだろう。


 ジェイグは黒の翼のメンバーの中では、魔力量も魔法の実力も高い方ではない。だがそれでもそこらの冒険者と比べれば、魔法に関しても遥かに優れた実力を持つ。そのジェイグの魔力量と干渉速度をもってして初めて可能な力技だが、その代償は決して安くはなかった。


「わりぃ……体が勝手に動いちまった……」

「それについてはあとでしっかり殴ってやる! 動けるか!?」

「……ちょいキツイ」


 敵の前でこのような姿を晒すほどだ。状態は悪いとは思っていたが、どうやら動くことも難しいほどに消耗しているらしい。


 ビースト達がやってきた理由を理解した時から、こうなることは予想がついていた。


 人一倍情に厚いジェイグの事だ。どんなに家族を優先していても、自分達のために命を捨てる覚悟で戦いの場に現れたビースト達を前にすれば、反射的に彼らを守るべく無茶をしでかすことは明らかだった。


 だからこそ、ジェイグが冷静な判断をできるうちに行動を起こすべきだったのに……


(全ては、ビースト達の心根を見抜けなかった俺のミスだ……)


 ビースト達がこちらに抱く友愛の情を軽く見ていた。


 森長がジェイグの覚悟を見誤っていることに気付かなかった。


 森長は、ジェイグではなくリオンと接する機会が多かった。ゆえに黒の翼“全員”が家族のためにビーストを見捨てる覚悟ができていると思っていたのだろう。その認識は正しくもあり、間違いでもある。


 確かにジェイグも、相応の覚悟は持っていた。冷静に状況を判断できる状態であれば、ジェイグもこのような無茶をすることはなかったはずだ。土壇場でジェイグが迷わないよう、貸しを作って布石を打っていた。


 にもかかわらず、ビースト達のリオン達のために行った捨て身の突撃を予想できず、このような事態を招いてしまった。


 だがそれも無理もないことかもしれない。リオンは戦局次第で切り捨てる可能性が高い彼らに、不用意に近づこうとはしなかった。共に戦う上での最低限の交流はしたが、ジェイグ達のように友好を深めようとは決してしなかったのだ。


 だからこそ、ビースト達が自分達に抱く想いの深さに気付かなかった。


 そしてまたリオンは気付いていない――


 ――彼らとの交流を避けた心の源泉が、“喪失”への恐怖心にあるということを。


 その本人ですら自覚のない内面に気付いているのは、リオンの最愛の恋人だけだろうが。


 胸にこみ上げる後悔を無理やり押し留め、状況を打開する道を探るリオンだったが、残念ながら時間はそれを待ってはくれない。


「この展開は予想外だったけど、まぁ結果としては最上だったのかな」


 ジェイグの身を削った魔法に呆然としていたマクレアが、状況を理解して歪んだ笑みを浮かべる。


「まさか敵が自滅したうえ、自ら退路を断ってくれるとはねぇ。バカな亜人共には感謝しないと」


 敵を前にして、動けないジェイグを抱えてこの壁を超えるのは不可能だ。ビースト達が混乱から立ち直っても、壁を迂回してこちらに辿り着くまでは多少の時間がかかる。その間、ジェイグを庇って戦い続けるには、敵戦力が多すぎる。状況は最悪と言っていいだろう。


(いや、まだだ……たとえ状況が絶望的だろうと、絶対に諦めてたまるか)


 自分も含め、家族の命を諦めるなどという選択肢はない。たとえ死の瞬間を前にしても、リオンは生の可能性を信じて抗い続けるだろう。


「君達もバカだねぇ。あんな亜人共――それも魔力を持たない下等種賊のためにボロボロになって戦った挙句、無茶な魔法を発動させて自滅するなんて」


 マクレアも正しく理解できているからだろう。すぐさま攻撃を再開せず、追い詰めた獲物をいたぶるように口を開いた。


「……ああ、確かにバカなんだろうな」


 そんなマクレアの発言を聞いたリオンは、動けないジェイグを守るように立ちあがった。口元に薄く笑みを浮かべてマクレアの言葉を肯定する。


 マクレアが怪訝そうな顔で、俯くリオンの顔を見つめてくる。


「散々忠告したのにビースト達に肩入れしまくった挙句、たった数週間一緒だった連中のために魔力使い果たしてぶっ倒れて、結果自分だけじゃなくて家族の身まで危険に晒して……ホント、バカだよ……大バカだ……全部終わったら、ミリルと二人でボッコボコにしてやらなきゃ気が済まないな、これは……」


 静かな、だが隠し切れない怒りの滲む声色に、ジェイグが魔力枯渇とは違う理由で身を震わせたのが感じ取れたが、それを無視してリオンは言葉を続ける。


「あの連中もそうだ。これまでの戦いを見てれば、自分達が殺されることくらいわかるだろうに、それを、少し恩を感じた程度で捨て石になろうだなんて……そんなことしても、こっちの重荷になるだけだってわかんないのかよ」


 それがただの八つ当たりだとはわかっている。自分達のことを棚に上げた発言であるとも理解している。


 彼らがあのような行動に出なければ、間違いなくリオンは後退を決断し、最終的には彼らを切り捨てただろう。


 だが逆を言えば、散々彼らを切り捨てると言っていたリオン自身ですら、限界ギリギリまで彼らを見捨てられなかったわけだ。


 だからこそ彼らが命を賭けてでもリオン達を救いたいと思い、その結果として今の状況がある。


「俺がバカだってのも認めよう。こいつとビースト達の心の繋がりの強さを見抜けず、避けようと思っていた事態を防げなかった大バカだ。こいつやあいつらに腹が立つのと同じくらい、俺自身に怒りを覚える」


 自嘲するように吐き捨てるリオン。死を覚悟しての独白にも思えるが、リオンの体から溢れる闘志はまだ折れてはいない。


 それを感じ取っているからこそ、マクレアはリオンを警戒して動けずにいるし、言葉の通じない兵士達は一様に困惑した表情を浮かべている。


 そんな敵の動揺を嘲笑うように「でもな……」と口の端を吊り上げて、顔を上げたリオンの赤い瞳がマクレアを射抜く。


「自分達と違う連中を恐れる“臆病者”ごときが、こいつらの優しさを、勇気を、誇りを汚せると思うなよ」

「……なん……だと?」


 突然浴びせられた嘲りの言葉の意味を理解できず、マクレアが困惑と怒りを等分に混ぜた呟きを漏らす。


 そんなマクレアを小馬鹿にするように、リオンが肩を竦める。


「亜人だの下等だの言うが、結局お前達は自分達と異なる種族……それも自分達より優れた力を持つ連中を恐れているだけだ。獣人達の身体能力を、エルフ族の魔力と知識を、ドワーフの鍛冶能力を、水中での魚人達の戦闘能力を恐れるがゆえに、彼らを口汚く貶め、迫害することでしか心の安定を保てない。それを臆病者と言わずに何と言う」


 種として総合的に判断すれば、人間が他種族に勝るのは、その数と繁栄力くらいだろう。もちろん個々人の能力で言えば、身体能力で獣人に勝る者も、魔力でエルフに勝る者も、鍛冶の腕でドワーフに勝る者もいる。だが、種の能力としては、確かに人間は他よりも劣っていると言えるかもしれない。


 だからこそ、バレアスの連中は彼らを亜人と罵り、奴隷の身へと貶め迫害することで、自分達こそ優れた人種であると思い込んでいるのだ。


 そんなリオンの指摘を自覚していたかどうかはわからない。しかしマクレアはリオンの言に反論することもできず、その肩を怒りに震わせている。


「他国との交流を拒むのだって同じだ。あんた達は怖いんだ。自分達が他よりも劣っていると認めることが、自分達よりも優れた技術を持つ連中が」

「……黙れ」

「そんな外の世界どころか、自分達の弱さにすら目を向けられないような奴が、よくもまぁ偉そうな口を利けたものだな」

「黙れだまれダマレダマレ、ダマレェエエエエエエエエエエエエエ!」


 リオンの言葉に激昂したマクレアが、残り少ないマナを消費して風弾を放った。直径一メートル規模の風弾を瞬時に作り上げたのはなかなかの腕だが、怒りで制御を疎かにしたのだろう。魔法はリオンのいる位置よりも少し前に着弾した。


 爆音とともに地面が抉れ、弾けた石礫が飛んでくる。


 リオンは動けないジェイグをかばってそれらを全て受け止め――そのまま巻き上がる土煙の中へ飛び込んだ。


 何の予備動作もなく駆けだしたリオンが、一瞬で敵との距離を縮める。


「なっ!?」


 魔法を放った隙を狙われ、接敵を許したマクレアが驚愕の声を上げる。魔法の余波で自ら敵の姿を隠したうえ、リオンの地面を縮めたかのような移動術によって、マクレアの眼には突然目の前に敵が現れたように見えただろう。


 敵が勝ちを確信し、無駄話をしているところを、あえて怒りを煽るような言葉をぶつけ続けたのは、もちろん自棄になった末の暴挙などではない。


 挑発することで相手に隙を作り、敵の大将を討ち取ることで敵を瓦解させる。


 ジェイグが戦闘不能になり、退路を断たれたリオンに残された逆転の一手。


「疾ッ!」


 短い呼気と共に、刃が閃く。


 風切り音が遅れて聞こえるほどの速度で振るわれた切り上げの一閃は、マクレアの胴を脇腹から胸にかけて斜めに斬り裂いた。


「ぐぅっ!」


 胸から血飛沫を上げるマクレアが苦悶の声を上げる。だが……


(っ、浅い!)


 斬られる直前で、マクレアは反射的に後方へ跳んでいた。結果、リオンの刀は深手を負わせはしたが、致命傷を与えるまではできなかった。


 ならば! と、追撃を試みるリオンだったが、さすがにそれを許すほどマクレアも、その周りにいた敵兵も甘くはなかった。


 リオンの視界を奪うように、掌大の土の塊がリオンの顔目掛けて飛来する。おそらくマクレアが咄嗟に放った土魔法だろう。速度も硬度も精度もお粗末な物だったが、ほんの一瞬、それを避けるための動作でリオンの追撃の足が遅くなる。


 その隙にマクレアの側近だろう兵士がリオンとマクレアの間に立ちはだかった。最小限の動作で土塊を避けたリオンへ、複数の剣や槍による攻撃が繰り出される。


「ちっ!」


 これ以上の深追いは危険だと、リオンは逆転の目が潰されたことに舌打ちをしつつも、敵の攻撃を捌き、可能な限りの痛手を負わせたあとでジェイグの元まで後退した。


「悪い、しくじった」


 逆境を切り抜ける一手を退けられたというには少々軽いトーンで、リオンが未だ動けずにいるジェイグに苦笑いを向ける。


 一見余裕のありそうな態度だが、状況は絶望的だ。相手の指揮官に多少の深手は負わせたが、自分達が崖っぷちにどうにか片手をかけている状態に変わりはない。


 総大将であるマクレアは、側近達の奥に隠れてしまった。その側近達は、数時間前にどうにか倒した白銀鎧の騎士達と同程度の実力者だろう。奴らを切り抜けてマクレアを討ち取るのは、今のリオンでは不可能に近い。


 そしてその周囲には、まだ三百近い敵兵が控えている。


 こちらの戦力は戦闘継続困難なほどに消耗したジェイグと、まだ余力はあるが、手負いのリオンだけ。ビースト達は新たな壁の後ろ。仮に彼らの助勢があっても、大した戦力にはならない。そして退路は無い。


 そんな状況にあって尚も強がってみせる――とジェイグには見えた――リオンの顔を見上げたジェイグは、精悍なその顔に隠しきれない後悔を滲ませて小さく頭を下げた。


「すまねぇ、俺がバカな真似をし――」

「くだらない謝罪をしてる元気があるなら、とっとと立て、バカ。戦うのは無理でも、前から来るだけの攻撃を防ぐくらいならできるだろうが」


 だが、その言葉を全て言い切る前に、リオンがいつものような辛辣な言葉を降らせた。


 思わず顔を上げ、目をパチクリさせるジェイグを肩越しに見やり、リオンは呆れたように息を吐く。


「さっきも言っただろう? そのことについてはあとにしろ。どんなに謝っても俺の気が済むまで殴ってやる」


 ミリルが加わっても、止めてはやらないからなと付け加えるリオンに、再度目をパチクリ。


「それとティアへの言い訳も考えておけよ。絶対お説教されるぞ。今回は俺が無茶したわけじゃないから、フォローもしない。数時間の正座は覚悟しておけ」


 刀を正眼に構え、意識を敵に向けながらも、そう言葉を続けるリオン。


 ハッと目を見開くジェイグ。ようやく気が付いたのだろう。


 この絶望的な状況において、リオンがまだ生きることを諦めていないことを。


 おそらく今も作戦行動中の仲間を信じて、抗い続けるつもりであることを。


 もちろんテレパスを持つマクレアの近くにいるので作戦のことを口にはしないが、それでも心臓が鼓動を止める最後の一瞬まで、リオンは生き足掻き、石に食らいついてでも最後の時間を稼ぐつもりなのだ。


 ――そんなリオンの――相棒の背中を前に、何を自分は情けなく膝を突いているのか?


「……ったく、戦う気力が失せるようなこと言うんじゃねぇよ、バカ野郎が」


 自分を叱咤するように膝を叩いて、ジェイグがゆっくりと立ち上がった。両足はまだ微かに震えているが、確かに地面を踏みしめている。


「家族との誓いを破ったんだ。愛想尽かされないだけ幸せだと思え」

「あぁ、まったくその通りだ……」


 心底嬉しそうな笑みを浮かべて、ジェイグが地に突き立てていた大剣を引き抜く。


 実際、リオンはこれまでにないくらい怒っている。そもそも感情をあまり表に出さないリオンが、冗談抜きで怒りを口にしているのだ。今はいつものように――むしろいつもよりも口数が多いくらい――軽口を叩いているが、戦いが終われば間違いなくジェイグはボコボコにされるだろう。


 それくらいバカなことをした。


 家族との誓いを破り、家族の身を危険に晒した。


 それでも見捨てないと、愛想を尽かしたりはしないとリオンは言っているのだ。


 ――なら、どうして自分が膝を折ることが出来ようか!


「ぜってぇ生きて帰る! そんでもって全員に何べんでも頭下げる!」


 そんな決意を、改めて言葉に乗せてジェイグが吠える。


 それを聞いたリオンが、いかにもドSな感じで口の端を吊り上げた。


「当然だ。精一杯土下座しろ。その頭、容赦なく踏みつけてやる」

「……ちょっとくらい手加減してもらえませんかね」


 ちょっと日和ったジェイグへの返答は、鼻で笑った相棒のハッという音だった。ジェイグの頬がピクピクと引き攣った。


「ょ……も……」


 そんな二人の耳に、唸るように揺れる声が届いた。


 その声にリオンとジェイグが揃って正面を向く。


「よ、くも……よくも、よくもよくもよくもヨクモ、ヨクモォオオオオオオオオオオオ! このボクを! 神の子であるこのボクをコケにしてくれたなぁっ! この薄汚い異教徒共がぁっ!」


 自身の血に塗れ、鬼のような形相で、敵の指揮官マクレアが怨嗟の声を上げた。口から唾を撒き散らし、整えられていたはずの黄金の髪を振り乱し、顔を真っ赤にしてリオン達を睨んでいる。これまでに見せていた芝居じみた口調や、自然と相手を見下すような態度は完全に鳴りを潜めた狂的な姿態。激情に狂うこの姿こそ、“狂”信者と呼ぶに相応しいだろう。


「殺してやる……引き裂いて、切り刻んで、抉り取って……その苦しみに喘ぐ姿を、神への慰み者としてやる」

「それを喜ぶ神って……完全に邪神じゃねぇか」

「トチ狂ったあいつにはピッタリだな」


 ギリリと歯が欠けるんじゃないかと思うくらいに食いしばって憎しみを露わにするマクレアの怒りに、ジェイグとリオンが容赦なく油を注ぐ。


 そんな毒を吐く二人に、赤を通り越して紫っぽくなった顔色で、マクレアが総攻撃を命じようと腕を振り上げ――リオンとジェイグが決死の覚悟を決める――


 ――その直前


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 先程のビースト達よりも遥かに大きい雄叫びが上がった。


 それはバレアス兵の後方、奴らのキャンプ地の方から聞こえ――それを聞いたマクレアが愉悦を隠し切れないように歪な笑みを浮かべた。


「はっ、あはははははははは! 来たよ! キミ達にさらなる絶望を与える神の使者が! ボクが呼んでおいた援軍が到着したみたいだ!」


 肩越しに一度後方を確認したマクレア。その視線の先には、確かにこちらに向かってくる大軍の姿が小さく確認できる。


 先ほど言っていた援軍とやらが到着したと、高らかに声を上げて笑うマクレア。既に確信していた勝利がより確実なものになったと叫ぶ。


「これでボクらの勝利は確定だ! キミ達は死ぬ! 壁の向こうの亜人共は全て奴隷にする! 偉大なるバレアスティグル神の名の下に! 神は敬虔なる神の子であるボクらに微笑むんだ! はは、あはははははははは!」


 神に向けて宣言するように天を仰ぎ、両腕を広げてマクレアが叫ぶ。


 ただでさえ残り三百人を相手にするという絶望的な状況に、さらに百人近い敵が増えれば、確かにリオン達に勝ち目はない。




 ――あれが、敵であればの話だが。




「あんた、バカだろ?」

「あはは、あはははは…………は?」


 心の底から呆れたような態度で、そう告げるリオンに、高笑いを続けていたマクレアが動きを止める。


「よーく見てみろよ。あれがあんたの言う神の使者なのか?」

「……何を言って………………は?」


 リオンの言葉に首を傾げながらも、マクレアはもう一度背後を振り返り――目の前の光景が理解できないといった様子で、再び間の抜けた声を上げた。


 マクレア達との位置関係上、リオン達はずっとマクレア達の後方が視界に入っている。リオン達のいる場所はやや低地になっているので、遠くから姿を見せた連中の正体に先に気付いたのは当然だろう。


 特に新たに表れた大軍の先頭に立つ二人(・・)の姿をリオンが見間違えるはずがない。


「やっと来たな。ホント、肝を冷やしたぜ」


 ジェイグもそれは同じようだ。油断なく剣は構えたままだが、顔には安堵の表情が浮かんでいる。


「……な、ぜだ? 何故、奴ら(・・)がここにいる!?」


 未だ理解の及ばない事態に、マクレアが疑問を叫ぶが、周りにいるバレアス兵からの答えはない。


「っ、貴様らの仕業か!? いったい何を……何をしたぁっ!」

「お~お~、さっきまでのキザな態度はどうしたよ? 口調まで変わってんじゃねぇか」


 動揺のあまりどこか芝居がかった口調は鳴りを潜め、荒ぶった様子のマクレアをからかうように、ジェイグが肩を竦める。


 マクレアは金魚のようにパクパクと口を開閉している。ジェイグの言葉で怒りが頂点を越えたのか、それとも自分の理解を超えた状況に処理が追いつかないのか、何かを口にしようとして失敗しているらしい。


「別に俺達が何をしたわけでもないが、まぁあえて言うならそうだな……」


 そんなマクレアの様子を視界の端に捉えながらも、リオンはバレアス兵の後方を真っ直ぐに見つめている。


 その視線の先には――


「あんたらの神様より、俺達の勝利の女神達の方が、ご利益があったってことだろうな」


 ――リオンとジェイグの勝利の女神達――数百人の獣人奴隷達を率いたティアとファリンの姿があった。

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