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森の防衛前線

 バレアスの連中が森に火を放った。


 その一報がリオンの下に届いたのは、バレアス陣営のキャンプ地の方角から上がる煙を視認した直後の事だった。


 黒の翼のメンバーやビースト達のトップである森長、森の戦士長ダルルガルム達とその報せを聞いたリオンは、中性的なその顔にわずかにイラ立ちを滲ませた。


「ちっ……まさか一手目から焼き討ちをかけてくるとは……大人しそうな顔の割に、敵の大将は随分と過激なやり方がお好きなようだ」


 数時間前に顔を合わせた敵官の姿を思い浮かべ、そう吐き捨てる。人懐っこい笑みの裏に狂的な色を宿した男、というのがリオンのマクレアに対する印象だ。それが悪い方向で的中していたらしい。


「ポイント一から十までに設置した魔導具は全て回収。ただし可能な限りで良い。火が迫り危険だと判断すれば放棄しろ」

「……仕方ないな」


 すぐさま気持ちを切り替えてリオンが指示を出すと、戦いの場を奪われたダルルガルムが不満そうな顔をしながらも渋々頷いた。


 森の中には、先程使った『もう一つの太陽(リトルサンライト)』の他に、ミリルから渡された魔導具が罠として仕掛けてあった。


 本来であれば、それらの罠を駆使して少しずつバレアスの兵力を削っていくつもりだったのだが……


 当初の作戦通りには使えなくなったが、回収すればまた利用することはできる。貴重な魔導具を失う訳にはいかない。


「回収が終われば全員、“壁”の内側まで下がれ。作戦アルファ、ベータを飛ばしてガンマに移る」


 その場にいた全員に聞こえるように、リオンが少し声を大きくして今後の方針を口にする。


 ちなみに作戦名をギリシャ文字にしているのはリオンの趣味だ。最初の頃は首を傾げていた黒の翼メンバーも、小さい頃からリオンが使っているのですでに慣れている。ビースト達に関しては、言語は同じでも共通の文字や符号などは無かったので何でもいい。


 リオンの指示を聞いた黒の翼メンバーは特に異論なく、了承の意を返す。


「待ってくれ」


 だが、この場にいたビースト達の代表である森長が、それに待ったをかけた。


 そちらに顔を向けると、ゴリラ型のビーストが、その屈強そうな顔を悲嘆に歪めてこちらを見ている。


 そのすぐ後ろでは、もう一人の代表、森の戦士長ダルルガルムが虎の牙を剥き出し、不満の意を露わにしていた。森長が先に声を発しなければ、こちらに食ってかかっていたかもしれない。


「……何か問題でもあるのか?」


 何となく彼らの言いたいことを察しつつも、気付かないふりをしてそう問いかける。


「敵の行動が予想以上に苛烈で悪辣だったことは理解している。我らでは魔法とやらを使う奴らに及ばぬことも、悔しいが事実なのだろう」


 森長の発言に、ダルルガルムが鋭い視線を森長に向ける。戦う前から自分達の方が弱いと口にしたのだ。誇り高い森の戦士としては、看過できなかったのだろう。


 そんなダルルガルムの怒りに気付いているのか、口を開きかけたダルルガルムを手で制すると、リオンの眼を真っ直ぐに見つめたまま森長が話を続ける。


「だが、作戦が前倒しになり、我らは直接奴らと戦う機会を失った。そのうえ、我らとは何の縁もなく、何日か前に出会ったばかりのそなたたちが戦う後ろで、ただ守られているだけというのは……」


 最後の部分は言葉を濁したが、言いたいことは理解できた。誇り高い彼らの事だ。たとえ危険を承知でも、正々堂々バレアスと戦いたいということだろう。


「別に守られているだけじゃない。あんた達には後方から支援攻撃をしてもらうことになっているだろう?」

「それもいつまで続けられるかわからないであろう。そなたたちに補充してもらったが、矢の数は十分とは言えない。そうなる前に、せめて我らのうちの何人かだけでも、共に戦った方が良いのではないか?」


 彼らのプライドを刺激しないよう遠回しに断るが、なおも共に戦おうと食い下がる森長。その言葉の中には自分達の誇りのためだけでなく、“リオン達と共に戦いたい”という想いも見え隠れしている。


 そのことを嬉しく思いつつも、だからこそ彼らを戦わせるわけにはいかないのだが。


「魔法を使ったときの俺達の強さは見せたはずだ。あれだけの速度で動き回り、さらに魔法が飛び交う戦場であんた達にうろちょろされたら、逆にこっちの動きが制限される」

「それは……」


 闘儀の場では魔法無しで彼らと戦ったリオン達だが、一緒に戦う戦士の連中には、魔法を使った状態のリオン達の戦いを見せている。


 それは敵の強さを教え、不用意に戦いを挑まないようにさせるため。


 そして、いざ決戦の時に、自分達が足手まといになると理解させるためだ。


 そのことは森長達も理解しているのだろう。納得はできないのかもしれないが、それでも反論の糸口を見いだせず、言葉を詰まらせる。


 そんな森長に畳みかけるように、リオンは話を続ける。


「それに敵は千人以上。さすがに全員は出てこないと思うが、それでも数百人規模の軍隊だ。そんな数の敵を相手に、バラバラに動くあんた達をかばって戦う余裕はない」

「かばう必要、ない! 我ら、戦う時、いつも、死ぬ覚悟、してる!」


 我慢の限界だったのだろう。ダルルガルムが特徴的なその口調で自分達の覚悟を吠えた。


 それは間違いなく彼の、いや彼らの共有する想いなのだろう。戦士と名乗る彼らにとって、戦いの中で死ぬことは名誉なのかもしれない。それはリオンも理解できる。


 残念ながら、共感はできないが。


「ならなおさら、あんた達を戦わせるわけにはいかないな」

「なんだと!?」


 自分達の覚悟を否定されたように感じたのだろう。怒りに声を荒げたダルルガルムが、リオンに詰め寄り胸倉をつかみかかる。


「我ら、覚悟、バカに、するか!」


 狂暴な虎の顔を咬み付かんばかりの距離まで近づけ、リオンの赤い瞳を睨みつけるダルルガルム。


 普通の人間であったら震えあがるほどの形相を間近にして、しかしリオンはその顔に苦笑を浮かべて首を横に振る。


「あんた達からすれば情けなく感じるかもしれないが……俺達はあんた達と違って、戦いに命なんて賭けていない。戦いに臨む覚悟はあるが、それはあんた達とは逆。何があっても死なない覚悟、そして大切な家族を死なせない覚悟だ。だから――」


 そこで一度言葉を区切ったリオン。


 そしてわずかの逡巡ののち、小さく息を吸って続きを口にする。


「だから、もし自分や家族の身が危険だと感じたら、俺達はたとえ戦いの途中であろうとも、あんた達を見捨てて逃げる。たとえそのあとで、あんた達がどうなろうとな」


 あえて感情を消して、冷たくそう告げるリオン。「まぁもちろん負けるつもりは無いがな」と付け加えるが、ダルルガルムは目を見開き、言葉を失っていた。裏切られたと感じたのか、リオンの言う通り情けないと思ったのか。多少わかるようにはなったが、虎の顔を相手ではやはり細かい感情の動きは読めなかった。


 視界の端では、ティアとファリンが少し悲痛な表情を浮かべ、ジェイグが何か言いたげに口を開閉しているが、それを無視してリオンは言葉を続ける。


「それに別にあんた達がわざわざ前に出なくても、あの数を相手だ。いずれは俺達も後退せざるを得なくなるだろう。そうなればあんた達も戦わざるを得なくなる。一人の犠牲も出さずに全てを守れるほど、俺達は万能じゃない」


 作戦が成功したとしても、こちらの犠牲を零にするのは難しいだろう。無理を押し通した結果、家族を失う最悪の事態になるのだけは何としても避けねばならない。


 だから戦いが劣勢になれば、リオンは後退を選ぶことになる。


 魔法を使えないビースト達に犠牲を強いることになっても……


「それでも最初に俺達だけで戦うのは、あんた達を一人でも多く家族の元に帰すためだ。もしあんた達が死を覚悟して前に出てしまったら、俺達が危険を承知で単身戦う意味が無くなる。だからその時までは、悪いけど俺達に守られていてくれないか?」


 それは、傍から聞いていればさぞや無責任で滑稽な言葉だっただろう。


 最後まで守るつもりが無いなら、最初から手を差し伸べなければいい。


 途中で見捨てて逃げ出す程度の覚悟なら、初めから戦いを挑むな。


 後で裏切るくらいなら、期待させるようなことをするな。


 そんな風に罵られても仕方ないことを言っている。


 もちろんリオン達も、最初から全く勝算のない戦いなら、初めから関わることはなかっただろう。ビースト達がバレアスに奴隷にされ、迫害されるとわかっていても、彼らを見捨てて旅を続けたはずだ。


 だが少しでも勝算があるのなら、それを無視することなどできない。


 もしかしたら、最初から全てを見捨てる方が楽かもしれない。少しでも関われば情も沸く。途中で切り捨てるというのは、こちら側にも負担が大きくなる行為だ。それは理解している。


 だがたとえどれほどの罪悪感に苛まれようとも、どれだけの憎しみを集めようとも、自分達以外の全てを無条件に、無感情に切り捨てて生きていけるほど、リオン達は人間を辞めてなどいなかった。たとえ中途半端だろうと、たとえそれが自分達のエゴだとわかっていても、たとえ最後には見捨てることになろうと、手の届く限りは守りたいし、ギリギリまで抗うことをやめたくない。


 それが、リオン達の選んだ生き方だった。


 申し訳なさそうな苦笑を浮かべて、だが視線だけは逸らさずにダルルガルムと向き合うリオンに、誇り高き森の戦士は言うべき言葉を探すように、小さく口を開閉している。


 しかしダルルガルムが言葉を発するよりも早く、彼と同じ立場である森長が答えを返した。


「……わかった。そなた達の判断に従おう」

「森長!?」


 何も言わずリオンの指示を承諾する意思を示した森長に、ダルルガルムが困惑の声を上げる。


 だが森長はそれ以上の反論を視線で制すると、リオン達四人の顔を見回して穏やかな表情を浮かべた。


「何らかの思惑はあったのだろうが、元々この者達には、命を賭けてまで我らを助ける義理も義務もない。我らより仲間を優先するのは当然であろう。にもかかわらず、我らのために危険を承知で戦ってくれるというのだ。ならば、その想いに応えることこそ、我らの誇りに準じることであろう」


 静かに、優しく、芯の通った良く通る声で、森長がゆっくりとそう告げた。


 その森長の言葉を聞いたジェイグの表情が、痛みを堪えるように歪んだのをリオンは視界の端で見逃さなかった。


「……こちらの意を汲んでくれて感謝する」

「なに、感謝するのはむしろ我らの方だ。そもそもそなた達がいなければ、何もわからぬまま蹂躙されるだけだったのだ。それを思えば、戦う機会を与えられただけ幸運というもの。だから――」


 一度言葉を切った森長が、横目でジェイグの様子を確認した。だがすぐに視線をリオンの方に戻し、黒くしわだらけなその顔に微笑みを宿して言葉を続ける。


「たとえこの戦いの結果がどうなろうと、そなた達が我らのために戦ってくれたことを、我らは決して忘れまい」


 その力強い言葉に、リオンはありがたい気持ちを覚えると同時に、同量の不安も感じていた。


 森長からもジェイグの表情の変化は見えていたのだろう。それでこちらの心情などは少なからず見透かされていると思う。


 だからこそ、ジェイグを筆頭にリオン達が敗走しビースト達を見捨てても、責任や罪悪感を覚えないように言葉を尽くしてくれたのだろう。


 ……ジェイグを相手には、完全に逆効果だが。


 そんなリオンの内心までは見抜けなかったのだろう。話を終えた森長は、まだ納得のいかない顔をしたままのダルルガルムを連れて、リオンの指示を仲間に伝えるべくその場を離れた。残ったのは黒の翼のメンバーのみとなる。


「……思うところは各自色々あるだろうが、今は切り替えろ。でなければ、“最悪”の事態も起こりかねないからな」


 森長との話をまだ引きずった様子のある仲間へ、リオンが鋭い視線を向けた。


 リオンの言う“最悪”の意味は、皆正しく理解している。ゆえに全員が表情を引き締めて、リオンの話に耳を傾ける。


「壁の状態は?」

「きっちり仕上げてあっから問題ねぇよ。偽装も取っ払ってっから、あとは風の状態にだけ気ぃ付けてりゃいい」

「弓兵隊の配置は?」

「元々壁の内側にいた人達は、そのまま待機してるわ。火が消えるまでは出番もないし、集中が切れても困るから、今は休んでもらってる」

「作戦デルタの準備は?」

「準備万端いつでもいけるニャ!」


 全員が自分の役割をしっかり理解し、準備を進めている。そのことに小さく笑みを浮かべるが、すぐに表情を引き締め全員の顔を見渡す。


「作戦デルタのカギはティアとファリンだ。負担をかけることになるが、よろしく頼む}


 力強く頷く二人にリオンも信頼を込めて頷きを返す。危険な作戦ではあるが、二人ならば必ず成し遂げられる。あとは自分とジェイグの働き次第だ。


 だがそれでもこれだけは言っておかなければならない。


「作戦が前倒しになった以上、今後の作戦の危険性も上がるだろう。ビースト達のためにも全力は尽くすが、絶対に(・・・)引き際は間違えるな。別行動するティアとファリンは特にな。さっきの話を聞いた後では心苦しさもあるだろうが、ガルドラッドの時みたいなことは御免だぞ」

「わかってるわ」

「気を付けるニャ」


 以前、他の魔物を操る力を持った深緑の女帝と呼ばれる魔物が、操った魔物の大群を使って町を襲った。依頼のためにリオン達と別れてその町を訪れていたティアとファリンは、町を守るための戦いに参加。だが討伐ランク三級や四級の魔物等と立て続けに戦ったことで追い詰められ、死にかけた。もしリオンが無理と無茶を通して駆け付けなければ、二人の命はなかった。


 そんな前科があったので、リオンの指示に応える二人の表情はいつになく真剣だ。リオンの恋人であり、ずっと共にと誓い合ったばかりのティアは特に反応が顕著である。再び“引き際”の判断を誤ることはないだろう。


 むしろ心配なのは……


「…………」


 考え込むように顔を下に向けて立つジェイグ。先程、リオンが森長と同様の話をしていた時にも反応していたが、その時とは少し様子が違う。何かを思い出すように右掌を見つめたまま、握っては開いてを繰り返している。


 おそらく――いや、間違いなくリオンが口にした“引き際”という言葉に反応したのだろう。


 それが、この島の住人達を諦めるということだと理解して。


(やはりビースト達に情が沸いたか……まぁ予想してたことだが)


 ジェイグとは幼少期から十年以上の付き合いだ。親友として、相棒として、家族として、その性格や行動は誰よりも理解している。


 リオンにとっては、家族の命以上に優先すべきものはない。容易くそれ以外を切り捨てられるほど非情ではないとは思っているが、それでも決断を迫られればそれを実行することに迷いは無い。その覚悟は、五年前のあの夜に済ませている。


 だが仲間全員が、リオンと同じように全てを割り切っているかと言われれば、それはノーと言わざるを得ない。他の五人の内、リオン同様に動けるのはミリルくらいだろう。


 中でも特にジェイグは、元々人との精神的な距離が近いという本人の性質も合って、必要以上に他人に肩入れしてしまう傾向にあった。ガルドラッドで鍛冶師のエクトルに同調したときのように。あるいは先日の闘儀でダルルガルムの心意気に、身を挺して応えたように。


 今も、親交を深めたビースト達やその子供達のことを考えているのだろう。それが闘志となっているだけならプラスだが、その思い入れがリオンの言う“引き際”を見誤らせないか、リオンが気がかりとするところだった。


(最悪、力尽くで押さえる必要があるかもな……ミリルがいれば楽なんだが)


 いくらリオンでも、ジェイグに本気で抵抗されれば取り押さえるのは容易ではない。リオンが本気で訴えれば大丈夫だとは思うが、常にその可能性は頭に置いておこうとリオンは内心でそう呟いた。


「ん? どうかしたか、リオン?」


 視線に気付いたのだろう。ジェイグが首を傾げてリオンを見返す。


「……いや、何でもない。この後の作戦の成否は、俺とお前の働きで大きく変わる。気を引き締めろよ」

「任せろ、相棒。久々に二人で大暴れしてやろうぜ!」


 突き出した拳に、より大きな拳がぶつけられる。リオンは内心のもやもやを押し隠して、いつも通りの不敵な笑みを浮かべた。









 バレアスの放った炎は、丸二日燃え続けた。緑豊かな森は、今では文字通り焼け野原となり、黒く炭化した草木の残骸に埋め尽くされている。まだあちこちで煙が上がり、業火に炙られた石が赤く熱を放っている。森の動物たちの死骸も散見しており、その光景はまさに地獄絵図と呼ぶに相応しいものだろう。


 そんな黒と赤に埋め尽くされた世界は、しかしある場所を境に唐突に終わっている。


 それはそびえ立つ壁。弧を描くように広がる土の防壁が、炎を阻み、世界を地獄と現実に分けている。


 それはリオンの指示のもと、ジェイグが土魔法を使って建造した即席の城壁。バレアスの軍勢がこの島に帰ってくるまでの時間で用意した。魔空船から見えないよう、木の枝でのカモフラージュも忘れていない。


 リオンはバレアスを迎え撃つにあたって、可能な限りの対策を準備していた。それはミリル作の魔導罠や兵器に始まり、落とし穴やワイヤートラップなどの古典的なもの、金属武器によるビースト達の戦力強化など。敵を全滅させるのは難しくとも、消耗戦を挑むことによって時間は十分に稼げるだけの戦力はあっただろう。


 だが、敵がやられっぱなしでいるはずもない。消耗戦にしびれを切らせば、森に火を放つ可能性は十分に考えられた。その対策として用意したのが、この土壁だ。同時に、火が収まった後の防衛線では、防壁としての役割も果たす。壁の上から弓や魔導具を用いて攻撃ができるので、身体強化を使えないビースト達の姿を敵に晒さずに済むというわけだ。 


 まぁこんなに早く敵が火攻めに切り替えてくるとは予想外だったが。


「やれやれ、こちらの動きも予測済ってわけか……冒険者よりも、軍を指揮する方がよっぽど向いてるんじゃないかなぁ、キミ」

「そんなお荷物、空を飛ぶには邪魔なだけだ」


 そんな地獄絵図の中で、距離を置いて対峙したマクレアとリオンが、そんな軽口を交わす。


 マクレアはバレアスの軍勢を背に。


 対するリオンはジェイグが後方に控えるのみ。


 ただし、壁の裏側にはダルルガルムと森長を筆頭に、森の戦士達が身を潜めている。姿は見えずともその気配は感じているのだろう。マクレアはリオンに視線を向けつつも、しっかりと壁の向こうへも意識を割いていた。


「まぁ少々驚いたけど、見たところあの壁は土魔法で作った即席のもの。突破するのは簡単だ。なんなら魔空船から砲弾でも放ってみようか?」

「その時は、こっちもこうするだけだ」


 リオンが指を鳴らす。


 パチンという乾いた音が響いて三秒後、壁の上部が赤く瞬いた。


 直後、マクレアの左斜め後方に控える部隊の眼前で、地面が轟音と共に弾けた。巻き上がる瓦礫と衝撃がバレアス兵を吹き飛ばしていく。


 騒然となる兵士達。部隊長と思われる者達が、大きな声を上げて慌てふためく兵達へ指示を飛ばす。


 肩口からわずかに振り返ってそんな光景へ視線を向けるマクレア。だが意識は対峙するリオンから外れていない。


 隙を見せれば即座に斬り伏せてやろうと思っていたのだが、そう簡単にはいかないようだ。流石に多少の驚きはあったが、大きな動揺は見られない。


「……冒険者というのは、誰もがこんな兵器を所持しているのかい?」

「身内に天才がいてな。そいつの特別性だよ」

「なるほど……この前の閃光弾も、その天才君の作品かな?」

「ああ、そうだ。ちなみに女だから、“くん”ではないな。他にも色々あるぞ。威力については既にお見せの通りだ」

「素晴らしい頭脳と技術だ。良い仲間に恵まれているようだね」


 自重という言葉も一緒に爆散させてしまうのが玉に瑕だがな、と内心で呟きつつ、リオンが強気な笑みを返す。


 実際、今の砲撃はほとんどハッタリに近い。威力は文句なしであり、射程内に入れば魔空船であろうとダメージを与えることが可能だ。


 しかし現在残っている弾数は三発だけ。バレアスの魔空船五隻を撃ち落とすことは不可能だ。その他にも攻撃性の魔導具はあるが、魔空船を相手にするのは難しい。


 だが魔石や鉱物資源の不足しているバレアスにとって、魔空船を撃墜される可能性がある中で戦闘に用いるのは避けたいだろう。魔空船が航行不能になれば、こんな空の孤島で取り残されるはめになる。


 だからこそ、貴重な魔導具の一発を牽制で放った。脅しで使うだけの余裕があると思わせるために。


(敵軍のど真ん中に放てれば一番良かったんだがな)


 不敵に笑ってみせてはいるが、戦況はこちらに不利だ。行うはずだった作戦は前倒しになり、敵戦力を削っていく前に森を焼き払われ、壁の防衛線――最終線まで進軍されてしまっている。ミリルとアルが呼びに行った応援もまだ到着していない。敵兵の数はこちらの四倍以上。しかもこちら側で魔力を使えるのは、この戦場ではリオンとジェイグだけ(・・・・・・・・・・)だ。


(ミリル達が戻るのが先か、ティア達が作戦を成功させるか……どちらにせよ、俺達が先に力尽きるわけにはいかないな)


 厳しい戦いになるのは間違いない。それでもやる前から逃げを考えていては、冒険などできるはずもない。この先も空の旅を、冒険者を続けていくならばリスクを最小限に抑え、攻め際と引き際の境界を見極めていかなければ。


「とはいえ、あれだけの魔導具だ。おそらく弾に限りがあるはず。空への警戒に使用する以上、直接こちらに放つ余裕はないだろう?」

「さぁどうかな? 開戦と同時に乱発するかもしれないぞ?」

「まぁ仮に数発こっちに飛んできても、この戦力差だ。まさかたった二人でこの人数を相手にできるとは思っていないよね?」

「いや、むしろちょっと物足りないと思ってたくらいだ。なんなら援軍を追加しても構わないぞ? それまで待っててやってもいい」

「そうやって時間稼ぎしている間に、キミ達の方にも援軍が来るってことだろ? そうはさせないさ」


 互いが互いの腹の内を探り合う。だがそれもわずかの間だけだ。時間が経てば、利するのはこちらなのだから。


「さて、では最後に一度だけ訊ねさせてもらうよ。今すぐ武器を捨てて投降する気はないかな? 今ならまだ、バレアスティグル神も慈悲をくださるはずだよ」

「そんなくだらない神の慈悲なんていらないさ。俺達には“勝利の女神”がついている」


 自身の信じる神を再び侮辱され、マクレアの顔から笑みが消えた。


「……では、今度こそ審判の時だ。慈悲深き我らが神も、神の子であるボクらに逆らう者には容赦はしない」

「ご自由に。自分に利する人間しか救わない独裁的な神なんて、あんた達ごとまとめて斬り伏せてやるよ」


 マクレアが放つ無機質な怒りを軽く切り捨てたあと、リオンはジェイグの隣まで後退する。壁の内側で指揮を取りたいところではあるが、直に戦える戦力がリオンとジェイグのみなので、リオンは前線に立つ必要がある。


 一方、マクレアは後方で指揮に専念するつもりなのだろう。白色に輝くの鎧姿は、鈍色の鎧の群れに隠れて見えなくなった。


「さてと……それじゃ暴れるか」

「おう!」


 淡々と、まるでこれから散歩にでも行くかのような口ぶりで、リオンが相棒に告げる。赤毛の相棒は、その燃えるような髪色に負けないくらいの闘志を燃え上がらせて応えた。


「そういえば、お前と組んで全力で戦うのは、何気に久しぶりだな」

「確かに。こないだのは魔法も武器もなしだったしな」


 エメネア王都襲撃の時は他にティアとアルがいた。深緑の女帝討伐の時もその後のガルドラッドでの資金稼ぎも、常にジェイグとは別行動をしていた。先日の闘儀の際にも共闘したが、状況的に全力とは言えなかった。そうやって思い返してみると、最後にジェイグと二人だけで戦ったのは三カ月以上も前だった気がする。


 まぁ厳密に言えば、壁の向こう側にいるビースト達からの支援攻撃もあるので、二人だけではないのだが、彼らには壁の左右に散ってもらっており、リオン達を直接援護することはない。彼らの腕では、高速で動き回るリオン達の援護はできないからだ。下手をすれば背中から射抜かれる危険もある。そのため壁の中央部はリオンとジェイグに任せてもらっていた。


「今度は何の制約もない。思う存分暴れてやろう」

「おうよ! 派手に行こうぜ、相棒!」


 いつものように笑みを交わし、いつものように拳を突き合わせる。


 これから五百を超える軍勢を相手にするというのに、そこには気負いも怯えも何もない。


 あるのはお互いへの信頼のみ。


 そしてそれ以上二人が言葉を交わすことはない。この後の動きをわざわざ確認する必要もない。


 氷の刃のように冷たく、鋭く。


 炎のつるぎように熱く、雄々しく。


 互いに闘志を研ぎ澄まし、滾らせ、二人の戦士が戦場へと駆ける。


 それを合図にしたかのように、五百の敵軍が一斉に咆哮を上げた。


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』


 戦場に響き渡る怒号。それと同時に、視界を覆い尽くすような無数の魔法が、走り迫るリオン達目掛けて発射される。


 石礫、氷矢、炎弾、風刃、光線……


 壁が迫ってきたかのような魔法の嵐。


 それを前にリオンは“加速”した。一瞬でジェイグの前に走り出て、連なるように嵐の中へ飛び込んでいく。


 轟音が戦場を揺らす。炎が爆発し、地面を粉砕し、瓦礫と粉塵を巻き上げる。高々と舞い上げられた煙と塵でリオン達の姿は見えない。


 その光景を前に、敵軍の中から嘲笑と安堵の声が漏れ始める。あれだけの魔法の暴風雨に呑み込まれたのだ。死んではいないかもしれないが、無事ではないだろう。


 そう思い、武器を下ろし――




 ――直後、粉塵の中から傷一つない状態のリオンが姿を現した。そのまま突風のような速度でバレアス陣営との距離を詰める。


「――――――!」


 リオンの接近に気付いた敵兵が、慌てた様子で何かを叫び、再び魔法を発動しようとする。


「――遅い」


 だがそれよりも速く敵との距離を零にしたリオンが、愛刀『輝夜』を抜刀した。


 世界最硬の金属『オリハルコン』で作られた刃は、青銅の鎧など紙のように容易く斬り裂き、音速を超える一撃は、斬られた側の認識さえも置き去りにする。


「……あ?」


 何が起こったかわからず、呆然とするバレアス兵。


 だが敵が状況を理解するよりも早く、リオンは敵兵を蹴り飛ばした。近くにいた仲間を巻き込んで、敵兵の体が後方へと吹き飛んで行った。


(やはり、個々の実力はあっても、大規模な戦闘の経験が圧倒的に不足しているようだな。あんな数だけの魔法、中級以上の冒険者なら簡単に防げる)


 周囲からは驚愕と困惑、焦りの感情が感じられる。リオンがあれだけの数の魔法の中を無傷で突破したことが信じられないのだろう。


 だが、リオンからすれば、あんなものは愚策中の愚策でしかない。


 属性魔法は、自身の魔力だけで放つものではない。自身の魔力(アウラ)大気中の魔力(マナ)に干渉することで発動する。魔法の威力や数を増やすには、それだけ多くのマナに干渉する必要がある。だが、本人の才能と鍛錬によって魔力量の異なるアウラと違い、マナは基本的に大気中または地中に一定量しか存在しない。そのため発動できる威力や数には限界があった。


 あれだけの数の魔法を撃ち出せば、必然的に一発一発の威力は落ちる。低威力の魔法など遠距離からいくら放たれようと、リオンやジェイグの実力ならば突破は容易だ。


 今回は無駄を省くため、リオンが前に出て対処した。体の前に風の防壁を張り、直撃するはずだった敵の魔法を全て自分達の後ろに受け流したのだ。敵との距離が近すぎればマナの奪い合いが起こり、魔法の発動も困難だっただろうが、さっきのように距離があれば互いの干渉領域の外。対処は容易だ。


 また一度干渉して変質したマナは、しばらく再使用できない。敵は自分で自分の首を絞めたようなものだった。


 そして敵の動揺に更なる追い打ちをかけるように、猛々しい声が降ってくる。


「オォラアアアッ!」


 大剣を振りかぶったジェイグが上空から奇襲。リオンから少し離れた敵陣の中へと飛び込んだ。着地の瞬間に自慢のツーハンデッドソードをフルスイング。周囲にいた敵兵をまとめて薙ぎ払った。まるで爆弾でも爆発したかのように、敵兵が吹き飛んでいく。


「さぁ、ふっ飛ばされてぇ奴からかかってこいやぁ!」

「吠えるのは勝手だが、こいつらに言葉は通じないからな」


 怯んだ敵を威嚇するように叫ぶジェイグに、近くの敵を戦闘不能にしながら駆け寄ったリオンが冷めたツッコミを入れる。


 そんなリオンの発言に、剣を肩に担いだジェイグがフンッと鼻を鳴らす。


「そんなもん気合でどうにかする」

「言葉の壁は、気合ではどうにもならないと思うが」

「壁ってのは壊すためにあんだぞ?」

「名言みたいに言うな」


 数百の敵に囲まれた状態で軽口を叩き合う二人。もちろん視線は油断なく敵の様子を伺い、放たれる闘志は敵兵の精神を容赦なく飲み込むほどの威圧感を放っている。臆した敵は、全員二人の刃の餌食だ。


「それにやっぱ、戦いにはノリや勢いって大事だろ?」

「言葉のチョイスはどうかと思うが、まぁ否定はしない」


 確かに自分を鼓舞する意味でも、そういった雄叫びや気合は大事だ。こうして軽口を交わしているのだって、適度な余裕と緊張感を保つための一つの手段でもある。


「なら俺も、お前に倣って口上の一つでも述べてみようか」


 刀の輝きを見せつけるように構えを取ったリオンが、口の端を吊り上げて告げる。


「さて、本当なら『斬られたくない奴は下がれ』と警告するところだが、言葉が通じないのでは仕方がない。問答無用で押し通らせてもらう!」


 その言葉を合図に、二人は同時に地を蹴った。


 漆黒の影が、戦場を縦横無尽に駆け巡る。獲物を狩る獅子のように身を屈め、敵と敵の間をすり抜けざまに刀を振るい、次々と敵を斬りつけていく。リオンの動きに翻弄され、戸惑ったままの敵兵ではなすすべもない。戦闘続行不可能な傷を負わされ、その場に倒れていく。


 何の加減もせずに輝夜を振るえば、ほとんど無防備な相手など容易く殺せる。人間の体を頭から縦に真っ二つに斬ることさえ造作もない。それだけの切れ味、それだけの実力がある。


 だがリオンはあえて敵を即死させず、無力化させる程度に留めていた。放っておけば半刻もたずに死ぬ程度には重傷だが、それでも息があることは一目でわかる。そうすることで、敵の行動を阻害するのが目的だ。


 周りに息のある仲間が倒れているため、遠距離からの魔法を放つことができない。槍などの長物も乱戦では邪魔なだけだ。そのうえ時折リオンが倒れた敵兵を盾にするため、攻撃を躊躇してしまう。


 その隙を狙って、リオンは刀や魔法、時には敵が落とした武器を蹴り飛ばしたりと、様々な攻撃を繰り出す。先程の一斉攻撃によりマナが枯渇気味だが、小さな魔法を数発程度ならまだ何とか使用できた。


「ウラァ! デリャッ! オォラァ!」


 一方それとは逆の方向では、暴虐の嵐が吹き荒れていた。


 裂帛の叫びと共にジェイグが剣を振るえば、敵がまるで紙屑のように弾け飛んで行く。飛ばされた敵兵が周囲の味方を巻き込むため、被害は増える一方だ。


 知略や技を駆使して立ち回るリオンと違い、ジェイグはその圧倒的な膂力と大剣という武器の重量と長さを利用しての暴力。斬られた側はほとんど即死に近い。


 とはいえ一見、雑で大雑把な戦い方に見えるが、敵やリオンの動きや状況を見ながら的確な攻撃やポジションを選択している。力押しではあるが、敵の討伐数はリオンよりも上だった。


 さらに二人は、互いが互いをサポートするように魔法を使っている。常に高速で動き回り、二人の距離も離れているが、相手とテレパシーでも送り合っているように的確な連携だ。


 またリオン達が大暴れする中央部とは別の場所では、ビースト達からの援護も始まっていた。


 弓矢による一斉射撃。ミリルの造った魔導具の中でも、魔石の魔力のみで発動できるタイプの物もいくつか使用している。とはいえそれらのほとんどは、壁の防衛に使うように言ってあるので、敵へ与えるダメージはそれほどでもないが。


 そうして一方的に敵を蹂躙していくリオンとジェイグ達。


 だが、その勢いが続いたのは最初の数分だけだった。


「――――っ! ――――――――――――っ!」 


 最初は戸惑っていた敵兵達も、隊長格と思われる男の一喝で冷静さを取り戻した。無事な者達が、二人から距離を取り陣形を整えていく。


(さすがにこれ以上単独で突っ込むのは無理か)


 経験不足とはいってもやはり一国の軍なだけある。指揮官の指示の下、何人もの人間が一個の生き物のように動きを合せている。リオンとジェイグの実力でも、迂闊に飛び込むのは危険だろう。


 ならば――


「ジェイグ!」

「おう!」


 名を呼んだだけでその意図を理解した相棒が、整い始めた敵陣形の僅かな隙を、その優れた観察眼で見抜いた。そして口の端に好戦的な笑みを浮かべると、大剣を肩に担ぐように構えて突撃を仕掛ける。


 だが敵もやられっぱなしではない。前衛に大型のタワーシールドを持たせてジェイグを迎え撃つ。


「ウラァッ!」


 袈裟懸けの一撃。ジェイグのご自慢の逸品『スーパージェイグ――なんたらソード』は、オリハルコンとミスリルの合金製であり、重量、強度、切れ味のどれをとっても至高の業物だ。


 しかし敵はタワーシールドを二人がかりで押さえることで、それを受け止めた。強度で劣る魔鉄製の盾だが、二人分の魔力を注ぐことでどうにか破壊を免れている。


 そしてジェイグの攻撃の隙を狙って、近くにいた敵兵が襲い掛かる。


「甘いな」


 さらにその隙を狙ったリオンが、ジェイグの背中を守る様に立ち塞がった。輝夜を高速で振るい、ジェイグを狙った剣を全て弾き逸らす。


 背中合わせに敵と向かい合ったリオンとジェイグ。そのままダンスを踊るように回転し、互いの位置を入れ替える。


「オラァッ!」

「はっ!」


 短い呼気とともに、二人は回転の勢いを乗せた横薙ぎを放つ。


 上からの圧力に耐えていた盾兵は、真横からリオンの剣戟を受け弾き飛ばされた。


 リオンに攻撃を防がれた連中は、一度距離を取ろうと動いていた。だがジェイグの大剣の間合いから完全に逃れるのは難しかったようだ。防御は間に合っていたが、ジェイグの一撃は盾代わりにした剣を容赦なく叩き折った。


「悪ぃけど、俺達の背中――」

「――容易く取らせはしない」


 威圧するようにそれぞれの得物を振るい、獲物を狙う肉食獣のように口の端を吊り上げる。背中合わせの二人には互いの顔は見えない。だが、対峙した敵からは、その攻撃的な表情は鏡合わせのようにそっくりに見えただろう。


 そんな二人の姿に気圧されながらも、取り囲むように敵軍が陣形を変えていく。


 現時点で二人が先頭不能に追い込んだ敵兵は、五十に満たないだろう。剣を合わせた感触としては、倒した連中は実力の低い者達ばかりのはずだ。つまりまだ四百人以上の敵が残っているうえ、その中には総大将であるマクレアを筆頭に、実力の高い者が控えていると考えられる。


 一方で、こちらの戦力はリオンとジェイグのみ。ビースト達は敵兵を壁に近づかせないだけで精一杯。それもリオンとジェイグが敵軍をかき乱し、敵の大部分の注意を引きつけているからこそ保てているのが実状だ。


 戦況は圧倒的にこちらが不利。


 それでも二人は余裕を崩さず、不敵に笑う。


 単独でこれだけの数の敵軍に囲まれれば、いかに高ランク冒険者といえどリスクが高い。だが二人で背中を守り合うことができれば、いくらでも戦いようがある。そのうえ、ここにいるのはリオンとジェイグだ。声をかけずとも、視線を合わせずとも、呼吸をするような自然さで連携をすることが可能だ。


 そして何よりも、二人は”仲間”を信じている。


「「さぁ(おらっ)、戦いはこれからだ(ぜ)!」」


 数百の敵に囲まれた戦場で、二人の戦士が高らかに吼える。


 その言葉通り、二人の戦いはまだ始まったばかりだった。



 




 バレアス軍陣営後方。即席の司令部として設置したキャンプ地にて。


「追加で部隊を、それも我が軍の主力を出すと?」


 大将椅子に座ったマクレアの前で膝をつく隊長格の一人が、マクレアの顔を見上げて眉を寄せる。


「たかが二人を相手に必要ないのでは? 現時点ですでに五百の兵を出しています。いくら矢による援護があっても、それだけの兵がいれば討ち取るのは時間の問題でしょう」


 恐れながら、と前置きをしてから、そう進言する部下にマクレアは「わかってないなぁ……」とでも言うように大きなため息を吐く。


「彼らの強さを甘く見過ぎだよ。出し惜しみなんてしてたら、こっちの戦力を無駄に浪費するだけさ」

「それほど、ですか……」

「ああ。だからキャンプに二百ほど残して、残りは全軍出撃。各部隊の精鋭を選抜して前線配置しておいて。他の兵は少し後ろに下げて彼らのサポートに回そう」

「さらに三百の兵を投入すると!?」

「もちろん。早急に叩き潰さないと、彼らが呼んだ応援が到着しちゃうかもしれないしね。全戦力をもって彼らを討ち取りに行くよ」


 納得がいかない顔ながらも上官がそう判断するなら従う他ない。


 こうして二人の冒険者を相手に過剰と思われる戦力が集結する。


 この島を巡った戦いはまだまだ始まったばかりである。

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[気になる点] ~攻め際と引き際の境界を見極めていかなければ。 攻め際は誤用かとおもわれます。
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