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プロローグ ~目指せ 浮遊島~

かなりご無沙汰してました。申し訳ございません。

永くエタってましたが、少しずつ執筆は続けてました。

3章を書き終えたので、また更新します。読んでいただければ幸いです。

プロローグなので今回は短めです。

「さて、これから今後の方針を決めたいと思う……が、その前にどうしても一つ、確認しておきたいことがある」


 会議用の黒板の前に立った黒髪の青年、黒の翼のリーダー『リオン』がそう切り出した。部屋の中央に固定された円卓を囲む仲間五人を、赤い瞳がゆっくりと見渡していく。


 冒険者パーティー『黒の翼』所有の魔空船、『大いなる母の愛(リリシアズアーク)』。


 かつて憎きエメネア王国から復讐の末に奪取した船だ。


 鍛冶と鉱山の町ガルドラッドにて改造を施したわけだが、全面取替を行った外装に対して、船内に関してはエメネア王国関連の装飾の全撤去、休憩スペースのフルリフォーム、工房の大幅拡張を行ったくらい。


 元々王族専用の船ということもあって、遊戯室や大食堂にパーティーもできそうな大ホール、展望室や大浴場等、一般の船より遥かに設備は整っている。メンバーが六人しかいないパーティーには豪華すぎるくらいだ。


 さて、そんな船の一室。エメネア王族暗殺の際にボロボロになっていた休憩スペースは、完璧に改修され、今では黒の翼の会議室となっていた。


「何かあったのか、リオン?」


 リオンの言に真っ先に反応を示したのは、狐の獣人『アル』だ。癖のある茶髪の間から覗く狐耳をピクピクと動かし、まだ幼さの残る顔に怪訝そうな表情を浮かべる。


「よっぽど大事なことなんだな。おめぇがそんなに難しい顔するなんてよ」


 そう言って円卓に大きく身を乗り出すのは、黒の翼の最年長、自称『黒の翼のお兄さん』で、鍛冶師の『ジェイグ』だ。炎のように赤い短髪。百八十センチを超す体躯に、鋼のような筋肉を纏うリオンの相棒でもある。


「……わからないのか?」


 リオンはまさかとでも言うように目を丸くした。


 アルとジェイグは揃って首を傾げる。


 そんな二人の反応に、リオンは小さくため息を吐くと、背後にある黒板をバンッと掌で叩いた。


「これを書いたのは誰だ?」


 リオンが示した黒板の上部には、こう書かれている。


『第1回 リオン一家 家族会議♪』。


 やたらとファンシーな文字だった。


「はいニャ!」


 リオンの問いに元気な声で返事があった。「やっぱりお前か!」とばかりに、リオンはその声の主へと鋭く視線を向ける。


「ファリンが書きましたニャ。我ニャがら可愛く書けたと思いますニャ!」


 全く悪びれた様子もなく猫語でそう言い切るのは、金色目の猫獣人、黒の翼の元気印『ファリン』だ。ビシッと手を上げた拍子に、水色髪のサイドテールがピョコンと揺れた。


 そんな最年少の少女の元気溌剌な様子を微笑ましく思わなくもないが、今はそれどころではない。


「何かおかしいのか?」


 リオンの不機嫌な態度に、アルが首を傾げる。ファリンとジェイグも同様に頭にハテナマークを浮かべていた。


「俺達は何だ?」

「何、って黒の翼だろ? 冒険者パーティーの」

「そうだ、アル。そしてこれから始める会議は、パーティーとしての今後の行先を決める大事なものだ。だというのに、この会議名はおかしいだろ」

「ファリン達は冒険者パーティーである前に、大事な家族ニャ!」

「おう、ファリンの言う通りだ」

 

 リオンの言い分にファリンが反論し、ジェイグがそれを力強く肯定した。どうやら三人からはリオンへの賛同は得られないらしい。


「家族なのは当然だけど、さすがにこんな会議名じゃ気合入んないでしょうが」


 と、そこへリオンへの援護射撃。


 リオン同様に眉根を寄せているのは、黒の翼の魔導技師『ミリル』。乱雑に切り揃えられたオレンジ色の髪に、青と緑のオッドアイ。年齢よりも遥かに幼く見える小柄な体で腕と足を組み、呆れた表情をしている。


「だいたい、何でリオン一家なわけ? それじゃあまるであたし達がリオンの子供みたいじゃない」

「リオンはファリン達のリーダーニャ。それにみんニャを引っ張ってくれる大黒柱ニャ。すなわち、みんニャのお父さんと言っても過言じゃニャいニャ!」

「……さすがにこの年でこんな大きな子供はおかしいだろ」


 自信満々に言い切るファリンに、リオンが頭を抱える。


 ミリルもやはり不満そうだ。まぁミリルとリオンは同い年だが、孤児院に拾われた順でミリルの方がお姉さんだと主張している。そういった意味でも、家族的にリオンより下というのはプライドが許さないのかもしれない。


「ティアも何か言ってやってよ」


 埒が明かないと感じたミリルが隣に座る人物に助けを求める。


 腰まで伸びた黄金の髪。晴れ渡る空のように澄んだ色の瞳。女神のように整った顔立ちに穏やかな微笑を浮かべているのは、黒の翼の良心。リオンの恋人でもあるティアだ。


 突然話を振られたティアは、少し困った様子で「そうね……」と呟き、スラリとした手を頬に当てた。あまりこう言ったことにこだわりの無いティアの事だ。どちらに味方するか決めかねているのだろう。


「私は別に、どちらでも構わ――」

「もちろんリオンがお父さんなら、ティアがお母さんニャ!」

「良いんじゃないかしら、家族会議」

「「ティア!?」」


 まさかの裏切り。リオンとミリルの驚愕の声が重なる。


 しかし当のティアはリオンとの夫婦認定に嬉しそうに頬を染めている。とても今のティアに物申せる雰囲気ではない。


「で、ミリルが長女、アルが長男で、ファリンが次女で末っ子ニャ!」

「……あれ? 俺は?」

「ジェイグは伯父さんニャ!」

「俺だけ関係性が薄い!」


 ファリンの語る家族構成にジェイグが声を荒げて文句を言う。普段から兄を自称しているジェイグからすれば、伯父という立ち位置もあながちおかしくはない気がするが。


「別にいいじゃねぇか、オッサンでも」

「それだともはや他人じゃねぇか! 近所のオッサンみたいだろ!」


 どうでも良さそうに両手を頭の後ろで組むアルの発言に、ジェイグがさらにヒートアップする。


「だいたい、年の順にいったら、俺が親父でティアが母親でも――「あぁ!?」――ゴメンナサイもう言いません、だからそんな氷みたいな目で睨むのやめてください」


 討伐ランク三級モンスター、ダイナドランも怯ませた殺気を放つリオン。


 怯えたジェイグが円卓に叩きつけるように何度も頭を下げた。いつもの粗野な口調が完全に壊れ、従順な部下みたいになっている。


 子犬のように怯えるジェイグに、しかし怒りの収まらないリオンは納刀したままの刀でジェイグの赤毛頭をグリグリする。ジェイグの生み出したリオンの愛刀『輝夜』も、まさか自身の生みの親に対して振るわれることになるとは思ってもいなかっただろう。


「うぅ……ティアァ……リオンが怖ぇよぉ……」

「ごめんなさい、ジェイグのことは嫌いじゃないけど、私はリオン以外の人とは……」

「なんかよくわかんねぇけど振られた!」


 仲間に弄られた時のお約束としてティアに泣きついたジェイグだったが、まさかの追い打ちに嘆きの叫びをあげた。しかも「この状況でティアに助けを求めるとは良い度胸だな」と、リオンのグリグリ攻撃が力を増す。


「バカね……このバカップルを前に変なこと言うからよ」

「うぅ……正式に付き合いだしてから、ずっとこんな感じだよ、ちくしょう」


 疲れた様子で肩を竦めるミリルに、リオンの攻撃からようやく解放されたジェイグが、頭を押さえながら小声でそう呟いた。


 結局、賛成多数により、会議の名前は『家族会議』に決まった。ただし、リオンが断固として譲らなかったため、『リオン一家』の部分は『黒の翼』に変わることとなった。





「さて、ずいぶんと無駄な時間を食ったが、さっさと今後の方針を決めるぞ」


 仏頂面のリオンが、『第1回 黒の翼 家族会議♡』と書かれた黒板の前で話を進める。何故か♪が♡に変わっていたが、もはやツッコむ気力も失せていた。


「今回のガルドラッドでの活動によって、魔空船の改造は完了した。燃料となる魔石も食料も、外装修理用の金属のストックも万全だ。よって、次の目的地は浮遊島。夢の旅の始めに相応しい秘境探検といこう」


 浮遊島。


 異世界の空に無数に浮かぶ不可思議な島々。


 いつからこの世界に存在していたのか、なぜあんな巨大な質量を持つ物体が空にいくつも浮かぶことができているのか、あの島にはいったい何があるのか。


 かつては謎と神秘、そして浪漫に溢れた人類の憧れの地でもあった夢の島も、魔空船が開発された今では、探索可能な秘境の一つとして認識され、少しずつではあるが調査も開始されている。


 いくつかの島では、地上とは異なる文化を持った先住民が確認されたらしい。だが探索された島の多くは、地上では見たこともない動植物や魔物が跋扈する魔境や秘境だ。そこでは新しいアーティファクトや、貴重な鉱物の鉱脈も発見されている。それらは空に思いを馳せていた地上の人達にとっては、これまでとは別の意味で夢の大地となったわけだ。


「どの島に行くかは決まってるのか?」

「まぁできることなら、まだ探索の手が伸びてないところが良いな。せっかくの冒険だ。前人未踏の地を目指す方が楽しいだろう」


 アルの問いに、リオンが不敵な笑みを返す。


 他の面々もリオンの強気な発言に対しては同意してくれるようだ。各々が楽しげな、あるいは勇ましいリアクションで応えてくる。


 もっともティアだけは、「あまり無茶はしないようにね」と釘を刺すことを忘れていない。


 当然、探索には慎重に慎重を期す。冒険者としては全員まだまだ若い方だが、地上での秘境魔境探索の経験は豊富だ。決して調子に乗っている訳ではない。


「とはいえ、大きくて有名なもの以外は、実際に行ってみないとどんなところかわからないんだがな」


 浮遊島は大小様々。高度も島によって違い、数は無数に存在する。おまけに決まったルートを通るわけではないので、把握は非常に困難だ。よって今のところ島の詳細が世界に知れ渡っているのは、浮遊島の中でも特に大きかったり、何らかの特徴があるものだけだ。


 ちなみに大きな島にはたいてい先住民が存在している。いつかはそれらの島にも行ってみたいものだ。


「じゃあ上陸する島は適当に決めるのか?」

「まぁ魔空船が着陸できそうな場所がある島の中から決める感じだな。まぁ魔物とか環境とか、遠目から見てヤバそうな感じがあれば避けてく方向でいいだろう」


 アルの問いにそう答えて、リオンは操縦室へと歩き出す。


「ここじゃ外が見辛い。適当に飛び回りながら、良さそうな島を探すことにしよう」

「っしゃあ、オレが良い島見つけてやる!」

「どっちが先に良さそうな島を見つけるか勝負しようぜ、アル」

「ジェイグ、その勝負ファリンも混ぜるニャ」

「言っとくけど、魔空船の舵握ってるのはあたしなわけよ。変な島見つけたって絶対行かないからね」

「ふふっ、どんなところかしら。楽しみね」


 リオンを追い越して駆け出す三人に、ミリルが肩を竦めながら追従し、ティアはリオンの隣に並んで自然にリオンと腕を組んだ。


 こうして黒の翼の次の方針は決まった。


 そして操縦室での浮遊島の物色開始から数十分後、直径二十キロ程の円形の島を発見し、そこを初めての浮遊島冒険の舞台に決めたのだった。

かなり前の話になりますが、過去に、とある新人賞に応募した二次選考落選作品も投稿しています。

タイトルは『魔ガンのアイドル』。

現代物のファンタジーです。

すでに全話投稿し、完結済みとなっています。

この小説との関係はありませんが、そちらも読んでいただければ幸いです。

URL「https://ncode.syosetu.com/n4839em/」

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