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納得のいかない成長の証

投稿が遅くなり申し訳ございません。

思いのほか文字数が……


あと、今回は作者の中二病が若干の暴走をしてしまいましたww

中二が苦手な方は、適当に流してください。

 ガルドラッドは、ラナーシュという国にとって重要な経済の要所である。そのため、他国よりも全体的に治安の良いと言われるラナーシュにおいても、ガルドラッドの治安の良さは頭一つ抜きんでている。


 それはガルドラッドが経済的な安定を手に入れていることも、もちろん要因の一つだが、やはり一番の理由は、このガルドラッドが首都を除くどの町よりも、治安維持の強化に努めているためだ。


 ガルドラッドの男性人口の半分以上が鉱山夫、あるいは職人である。鉱山と鍛冶の町と呼ばれるくらいなのだから、それも当然だろう。そして、そういった職業の男というのは、血の気の多い者や気の強い者も多い。またそういった連中は腕っぷしもそれなりに立つため、ガルドラッドが今ほど発展していなかった頃は、街中での喧嘩騒ぎは日常茶飯事だった。


 だが、魔空船での定期便が運用されるようになると、状況は一変した。


 移動手段の発達により、他国からも多くの人が出入りするようになったためだ。そういった他国の人間は、ガルドラッドの質の高い加工品に多くの金を落としていってくれる上客である。そのため、他国の人間が安心して訪れることができるように、また国際的な問題が起こらないように、治安維持のための兵力は必要不可欠だったのだ。


 現在は、人通りの多い街中でそういった騒ぎを起こせば、すぐにラナーシュの兵士が飛んできて、厳重に処罰されるようになっている。


 当然、町の中の治安維持だけでなく、外の魔物の掃討などにもかなり力を入れている。しかし、その兵力は主に鉱山や町周辺の警備に偏ってしまうため、手の回らない部分も多い。


 また魔物の素材というのは、武器や防具の材料にもなる。そのため、冒険者への依頼も必然的に増え、仕事を求めて、多くの冒険者たちが集まってくるようにもなった。


 ただ、やはり冒険者というのは、色々と問題のある連中も多いわけで……


「姉ちゃん達、俺達のパーティーに来ねぇか?」

「そんな弱そうなガキ二人と組むよりは、俺達と一緒の方が良いと思うぜ」

「そうそう。俺達が色々と教えてやるぜ」


 ガルドラッドの冒険者ギルドで依頼を眺めていると、三人組の男がリオン達四人……いや、ティアとファリンに近寄ってきた。


 ジェイグの剣ほどではないが、十分に大きな両手剣を背負った図体の大きな髭面の男、片手剣を腰に下げ、左手に盾を持った長髪の男、短弓と小剣を持った狼の獣人の三人。顔つきは違うが、全員がティアとファリンを相手に下卑た笑みを浮かべているところは三人一緒だ。


 ティアは昔からだが、ファリンもここ数年で随分と女らしく成長したため、こういった連中に絡まれることは多い。年は十四で、リオン達六人の中では最年少であり、唯一成人もしていないが、大人びた容姿のティアと比べて、年相応の可愛らしさがある。間違いなく美少女と呼んでいいだろう。


(またか……どこに行っても、こういう冒険者っているんだよな)


 そんな男達の様子に呆れた表情を浮かべるリオン。男達の視線はティアとファリンにしか向いていないので、リオンの態度が気づかれることもなかった。


 もっともティアはともかく、ファリンのあからさまに嫌そうな表情にも、男たちが気づいた様子は見られないが。


 五年前の時点では、リオンもこういった事態を心待ちにしており、内心で「テンプレキター!」と喜びの声を上げていたわけだが、今ではそんな様子は微塵も見られない。表情も心の内も、自身の得意とする氷の魔法のように冷え切っている。


 何せこういった連中は、この五年の間にも何度も合っている。あんな事件の後ですさみ切っていたリオン達の心の内などお構いなしに寄って来るのだ。その人を不快にさせる様は、まるで繁殖のために人間の女をさらうゴブリンやオークのよう。倒しても報酬が出ない分、ある意味ゴブリン達よりも面倒くさい。


「冒険者ランクはいくつですか?」


 そんな実にウザったい男達を相手に、ティアが実に落ち着いた様子で微笑を浮かべて問う。


 別に男達に興味を示したわけではない。こういった連中はどんなに断っても、しつこく食い下がってくるのだ。なので、諦めさせるために一番効率的な手段を用いる。


「俺達の冒険者ランクは五級だ」


 髭面の男が誇らしげに冒険者カードを見せつけてくる。横書きに何行も文字が並んだカードの二行目。名前の下に確かに五級と書かれている。五級といえば、中級冒険者と呼ばれる中で最もランクが上だ。ポイントを見る限り五級になってからはそれほど経っていないようだが、一応それなりの実力は持っているのだろう。


「今はまだ中級だが、すぐにでも上級になるだろうな。そんな連中よりは、よっぽど頼りになるぜ」


 長髪の男がリオンとアルを小馬鹿にするように一瞥する。リオンもあまり体格は大きくないうえ、アルはそれ以上に小柄なのでどうしても見くびられやすい部分がある。


 それにティア達も含めて、四人は冒険者としては若い。一般的に冒険者として大成するのは二十代前半から中頃が多く、十代のリオン達は新人だと思われることがほとんどだ。


 だが……


「何だ……偉そうなくせして、全員オレよりランク下じゃん」


 ティアの後ろから男達の冒険者カードを覗いたアルが告げる。両手を頭の後ろで組んで、呆れた様子を隠しもしない。


「出まかせを言うなよ、ガキが」

「冒険者カードは偽造や細工はできないんだぞ」


 アルの発言も、男たちには子どもの戯言ざれごと程度にしか聞こえなかったのだろう。髭面の男は馬鹿にしたように鼻で笑い、長髪の男と狼の獣人は絶世の美女二人を前に邪魔されたことに対し、不快感を露わにした。


「出まかせじゃないって、ほら」


 そんな男達の態度を意にも介さずに、アルは淡々とした口調で自身のギルドカードを掲げる。


 三人組は心底めんどくさそうな表情でアルのカードに視線を向ける。


 そして同時に叫んだ。


「「「冒険者ランク、四級だとぉ!」」」


 男三人の大きな叫び声がギルドのロビーに高らかに響いた。ガルドラッドの冒険者ギルドは結構大きく、ロビーもかなりの広さがあるのだが、おそらくロビー内の全員にその叫びは届いただろう。


 現に、視線の届く範囲にいる全員の視線が、アルの冒険者カードを凝視する三人組のへと向けられている。


「バ、バカな……こんなガキが四級?」

「嘘だ! 何かの間違いに決まってる!」

「テメェ、どんな小細工しやがった!?」


 目の前の事実を受け入れられないのか、長髪の男が狼狽えた様子で後ずさり、反対に髭面の男と狼の獣人は犬歯を剥き出しにして、アルに食って掛かる。


「いや、偽造も細工もできないって言ったのはそっちだろ?」


 先ほど、自身に向けられた言葉を用いて反論するアル。そのことを思い出したのか、狼の獣人の詰め寄る勢いが弱まる。


「だ、だったら、ギルドに嘘の報告を――」

「いや、それ無理だから。あんたらも五級の冒険者なら、それくらいわかるだろ?」


 髭面の男がなおも食い下がろうと発した言葉を遮るように、アルが口を挟む。


 アルの指摘で、自身の発言の矛盾に気付いたのだろう。まだ何か言おうとした髭面の男だったが、結局何も言えないまま悔しそうに歯噛みするだけだった。


 なお、アルが嘘の報告が無理だと言ったのは、上級冒険者と呼ばれる四級に上がるには、ポイント以外に条件が必要だからだ。


 冒険者は基本的にポイントを稼ぐことで昇級する。それなりの実力がある者がそれなりの時間をかければある程度のランクまで到達することは可能だ。


 また、高ランクの冒険者とパーティーを組んで依頼をこなせば、より早く冒険者ランクを上げることができる。本来、その制度は上位の冒険者と組むことで、下級冒険者の実力のより安全に底上げするためであり、実際にそういった目的でパーティーを組む者も多い。


 しかし、中には金で上位冒険者を雇って自身の昇級を図る者や、仲間のお陰で実力が付くよりも早く昇級してしまう者なども出てきた。そのため中級冒険者と呼ばれる七級、上級冒険者と呼ばれる四級、一流と呼ばれる二級に上がる際には、ギルドが用意する試験が課せられるようになった。


 試験の内容を簡単にまとめると、ギルドが派遣する試験官が同行のうえで依頼を受け、その実力を認めさせるというもの。


 それはギルドが依頼者に、依頼を受ける冒険者の実力を保証すると同時に、将来有望な冒険者の命を守るための制度でもある。


 ちなみに、最高ランクである一級に昇級するためには、ポイントではなく、二級の冒険者が何らかの偉大な功績を残すことが条件になっている。たとえば未発見のアーティファクトを発見する、秘境や魔境の踏破などだ。


 アルは半年ほど前に、四級に上がっていた。別に昇級を目的にしていたわけではない。復讐のために、死に物狂いで訓練と実践を重ねた結果だ。


 アルの隣では、猫耳を誇らしげにピンッと立て、尻尾をフリフリさせたファリンが、同じようにギルドカードを掲げている。ファリンもアルとほぼ同時期に試験を受け、同様に合格しているので、男達にもその事実が伝わっているだろう。


 もっとも、その事実を受け入れられるかどうかは別だが。


「あり得ねぇ……こんなガキが、俺達よりも上だと……」

「言っておくけど、そっちの二人はオレ達よりもランク上だぞ」

「「「何だとぉ!?」」」


 アルの発言に、グリンッ! と音がしそうな勢いで、三人組が一斉にリオンとティアの方を向く。正直、アルとファリンのランクを見せただけで十分な効果があったとは思うが、ダメ押しとばかりに、リオンも自分のカードを取り出す。


 そこには……


「「「に、に、ににににに、二級だあ!?」」」


 耳障りなユニゾンを奏でながら、男達が本日一番の叫び声をあげた。あまりの驚きに目玉が飛び出すのではないかと思うくらいに目を見開いている。


 もっともそれも無理のない話かもしれない。何せ格下だと思っていた相手が、実際は自分達よりも遥かに格上。上級を超えて、一流冒険者と呼ばれる二級だったのだから。


 そして、それは絡んできた三人だけの話ではない。ギルドにいたリオン達以外の全員が、リオンに驚愕と猜疑の視線を向けてきている。


 ちなみにだが、六人の中で二級にまで上がれたのはリオンのみだ。ジェイグとティア、それにミリルは三級。昇級のためのポイントは貯まっているのだが、昇級試験は保留している。今はまだ合格するだけの実力が不足していると判断したためだ。


 別に冒険者ランクにこだわりはなかったが、復讐計画のための資金稼ぎと、自分たちが強くなるために強敵を求めているうちに、いつのまにか昇級していたというのが実際のところだ。また、二級くらいにはならないと、エメネア最強の騎士であるシューミットには敵わないだろうという思惑もあった。


 自身の目を疑うように、髭面の男がもう一度リオンのギルドカードに目を走らせる。どんなに穴が開くように見つめても、目の前の事実は変わらないが。


「み、見間違いじゃねぇよな……本当に、二、級……」


 だが、そんな男の視線がある一点でピタリと止まった。


 それはギルドカードの一番下側、記載された情報の最後部。ちょうどパーティー名の辺りだ。冒険者によっては空欄になっていることもあるような場所だ。


「く、黒の、翼……?」


 何故か髭面の男がかなり狼狽えた様子で、そこに書かれている文字を読み上げる。


 『黒の翼』とは、リオン達がギルドに登録しているパーティー名である。リオン達が育った孤児院『黒ふくろうの家』の名前から取ったパーティー名であり、リオン達六人や先生達との絆の証でもある。


 結成当初はリオン、ジェイグ、ティア、ミリルの四人だけだったが、アルとファリンも冒険者になると同時にパーティーに加入している。パーティー人数には制限はないので、特に問題はなかった。せいぜい、二人が加入してしばらくは、パーティーの平均ランクが下がったくらいだ。二人の頑張りのお陰で、そんな問題もすぐに解消できたが。


 しかし……


「何でそんなに驚いてんだ?」


 アルがキョトンとした顔で、髭面の男の顔を見つめる。アルの隣ではファリンも同じように頭にハテナマークを浮かべて、首を傾げていた。


 そして、それはアル達の少し後ろで、様子を見ていたリオンとティアも同じだ。『黒の翼』という名前は、冒険者のパーティー名としては特におかしな点はない。そもそもギルドにはパーティー名に関する決まりなど無いので、皆かなり自由に決めている。リオン達は他のパーティーとあまり関わったことはないが、聞いたことのあるもので言えば『竜士団りゅうしだん』だとか『風炎ふうえんの槍』だとか。中には『偉大な剣士ベルフルトとその従者達』なんて珍妙な名前のパーティーもあった。


 なので、髭面の男の驚愕は、黒の翼という名前に対する反応としては少々過剰とも言える。


 だが、よく見ると、髭面の男や他の二人だけでなく、周囲にいた他の冒険者たちも、髭面の男が口にしたリオン達のパーティー名に、驚愕の表情を浮かべていた。ギルドロビーのあちこちからも「あいつらがあの『黒の翼』だと?」とか、「本当にいたのか……」とか呟く声が聞こえてくる。理由はわからないが、知らないうちに『黒の翼』という名前は、冒険者の間で知れ渡っていたらしい。


(まさか、俺達がエメネアの反乱に関わっていることがバレたのか……?)


 一瞬、そんな可能性が脳裏を過るが、リオンはすぐに否定する。エメネアの反乱はわずか数日前。仮にリオン達の関与が知られても、こんなに早くに冒険者の間で噂になるとは思えないからだ。


 そもそも王族や要人を全てが死んだ時点で、反乱軍の勝利はほぼ決まったようなものだった。負ければただの反乱だが、勝てばそれは革命となる。仮に反乱に加担したのがバレたとしても、リオン達がギルドのお尋ね者になることはない。


 それに、そんな簡単にバレるようなヘマをした覚えなどない。エメネアの将軍ですら、実際に相対するまでリオン達の関与に気付いていなかったのだ。奪った魔空船を改造してしまえば、証拠も隠滅される。何も心配はいらないだろう。


「じゃ、じゃああんたが……」


 そんな風にリオンが思考を巡らせている間に、三人組の男達もようやくショックから少し回復したらしい。髭面の男が、震える指をリオンに向けて告げる。


「あんたが、あの『黒の獅子帝くろのししてい』なのか?」

「…………………………何だって?」


 耳慣れないワード。それも前世でよくやっていたRPGの中に出てくるボスキャラのような言葉を向けられ、リオンにしては珍しく反応が遅れた。


「だから、あんた黒の獅子帝なんだろ? あの黒の翼の……」

「いや、黒の翼の一員なのは確かだが、そんな中二病をこじらせたような言葉は知らないぞ」


 中二病という単語に、周りにいる人々はティア達も含めて全員首を傾げる。しかしそれ以上に、今のリオンの頭の中には圧倒的な数のハテナマークがグルグルと回っていた。


 だが、そんなリオンの疑問に答えたのは、三人組の男達ではなかった。


「あんたの二つ名だよ。黒の獅子帝ってのはね」


 少し楽し気な色が混ざりつつも、威厳に満ちた声が響く。その声にその場にいる全ての者が、いっせいにその人物へと視線を向けた。


「久しぶりだね。確かこの町に来たのは、一年半くらい前か」


 視線の先には、一人の妖艶な女性が腰に右手を当てて、仁王立ちをしていた。


 年のころは二十歳前後といったところ。しかし彼女はダークエルフと呼ばれる種族の血を引いており、実年齢はその見た目とはかなりかけ離れている。エルフやダークエルフなどの種族は長命であり、平均寿命は三百年ほど。彼女の正確な年齢は知らないが、少なくとも六十歳は超えているはずだ。


ダークエルフ特有の黒真珠のように艶やかな色黒の肌。腰まで伸びた銀色の髪を左手でかき上げると、エルフやダークエルフの特徴である長い耳が露わになった。色町で客引きでもやっていてもおかしくないくらいの露出の高い衣装を纏い、男だけでなく同性さえも魅了してしまいそうなほどの魅力を放っている。


 だが、その身から放たれる空気は紛れもない強者のそれである。数多くの戦いを経験しているはずの周囲のベテラン冒険者が気圧されるほどだ。


 その女性は、自身に向けられた視線の数々を気にも留めずに、真っ直ぐにリオンを見つめている。


「ええ、それくらいだと思います。お久しぶりです、シルヴェーヌさん」


 唐突に声をかけられたリオンだったが、特に気にした風もなく淡々と言葉を返す。今のリオンには突然の登場人物よりも気になることがある。それに相手が見知った顔であり、この場にいても驚くような相手でもなかったからだ。


 なぜなら彼女、シルヴェーヌはこのガルドラッドの冒険者ギルドの最高責任者、いわゆるギルドマスターである。以前、リオン達がこの町に来た時に、依頼の関係で何度か顔を合わせている。あくまで仕事上での関係でしかなかったが、しばらくこの町に滞在する以上、一度顔を見せるくらいはしておこうと思っていたので、向こうから来てくれたのは、むしろありがたかった。


「噂には聞いていたが、見ない間に随分立派になったみたいじゃないか。まぁあんたたちなら、すぐにこれくらいになるとは思っていたけどさ」

「立派かどうかはわかりませんが、どうにかやってます。ところで二つ名というのは?」


 誘惑するような妖しい笑みを浮かべて、シルヴェーヌがリオンの方へと歩いてくる。そんなシルヴェーヌの賛辞と色香を、当たり障りのない言葉で受け流すリオン。シルヴェーヌの登場で逸れてしまっていた話を戻す。


「そのままの意味だよ。あんたは、冒険者の間で今、ちょっとした評判になってるのさ。冒険者パーティー黒の翼の二級冒険者、黒の獅子帝としてね」

「……何故、そんなことに?」


 驚愕の事実に思わず頭を抱えたくなるのを堪えながら、リオンが重い口調で問いかける。


「そもそも二級にまでなれる冒険者が少ないうえ、その若さだ。二級になるまでの最年少記録をもう少しで更新できるところだったんだよ? 評判になるのも当然さね」


 そんなリオンの苦々し気な態度が面白いのか、片側の口の端を吊り上げてニヤリと笑うシルヴェーヌ。ちなみに二級の最年少記録は十六年と十一ケ月らしい。リオンは十七年と数日。しかも孤児であり、生年月日が後付けのため、仮に記録を更新しても認められなかっただろうが。


 だがそんなからかうような顔で当然と言われても、当然それでリオンが納得できるはずもない。


「いや、だからってそんな大げさな二つ名が付くほどとは……」

「そもそも二級以上の冒険者にもなると、何らかの二つ名が付くことは多いね。ギルドとしても良い宣伝になるから有り難いし、冒険者にとっても名前が売れるから、二つ名があるってことは喜ばしいことのはずなんだけどね。まぁあんたの場合、よそのパーティーと組むことがなかったから、本名とか容姿の情報は広まらずに二つ名だけが知れ渡っちゃったみたいだけど」


 まぁ逆にそれが、謎の天才冒険者として話題になった原因かもしれないけどねぇ、とシルヴェーヌが口元に手を当てて笑った。


 そんなシルヴェーヌの説明に、リオンは背中を冷たい汗が流れるのを感じていた。


 計画のためにエメネアに戻った際に、上級以上の冒険者だと知られれば、ギルドや軍の目にも留まってしまう。そのため、リオン達はエメネア王都ではずっと身分を隠していた。ギルドには行っていないし、冒険者カードも誰にも見せていない。だが、もし自分の容姿や名前までもが知れ渡っていたら、エメネアでの復讐計画に支障をきたしていたのは間違いないだろう。


(強くなるためとはいえ、どうやら目立ち過ぎたみたいだな……色々焦っていたとはいえ、不用意だったか。まぁ復讐は無事に終わったのだから、それで良しとしよう)


 これまでの自分達の行動を省みて、リオンが小さく安堵の息を吐く。もっとも周りからはため息を吐いたようにしか見えなかったが。


「まぁ二つ名が付くのは百歩譲ったとしても、そのネーミングセンスは何とかならなかったんですかね?」

「二つ名なんてどれも似たようなもんさ。私だってかつては『光の槍ブリューナク』なんて呼ばれてたしねぇ」


 リオンの零した不満に、シルヴェーヌが肩をすくめる。ちなみにシルヴェーヌは元一級冒険者だ。魔空船が開発されたあと、冒険者ギルドが各国に拡大するための礎になった人であり、その活動が評価され一級となったらしい。


「そもそも、『獅子帝』って何ですか? 黒の翼だから『黒の』の部分はまだ理解できますが、獅子って基本的に翼ないじゃないですか」

「あんたたちがこれまでに倒した魔物の中に、銀獅子とバードレオがいたことも理由の一つだが、一番は二級昇級の時にあんたが受けた依頼だね」


 四級の魔物、雪獅子の単独討伐。それがリオンの受けた昇級試験の依頼だ。雪山に住む、体長四メートル近い大型の獅子。魔物の強さだけでなく、その極寒の環境の中で戦うということもあり、依頼の難易度は高い。リオンでもかなりギリギリの戦いだったことは間違いなかった。


 ちなみに銀獅子とは、体毛が鋼鉄のように固い銀色のライオン。ランクは二級。パーティー全員で何とか討伐に成功した強敵だ。


 バードレオとは、頭がライオンになっている大型の鳥をイメージしてもらえばいい。こちらは三級で、武器の製造に忙しかったジェイグとミリルを除いた四人で討伐した。


「それと、獅子のように勇猛果敢なメンバーを率いるパーティーリーダーってのが『帝』の由来かね」

「……一応、登録してるパーティーリーダーはジェイグなんですが?」

「そこまで詳しいことはわかんないだろうからね。他の冒険者からは、あんたがリーダーに見えたんだろうさ」


 いまいち納得はいかないが、シルヴェーヌに文句を言ったところでどうしようもない。すでに広まってしまっている以上、これからリオンがギルドで依頼を受けるたびに、この恥ずかしい二つ名が付いて回ることになるのだろう。そんな未来予想に、リオンは鈍い頭の痛みを感じていた。


「ところで、あんた達はしばらくこの町にいるのかい?」


 リオンをからかって、ある程度満足したのだろう。シルヴェーヌが何事もなかったかのように、そう尋ねてきた。


「ええ、そのつもりです」

「そうかい。まぁ実力のある冒険者は歓迎するよ。といっても、最近はあんた達の手を借りなきゃいけないほどの依頼はないんだけどね」

「平和で何よりです」

「そうなんだけどね。まぁ折角だし、ゆっくりしていきな。時間があれば、今度飲みにでも行こう」


 右手を軽くヒラヒラと振って、シルヴェーヌはギルドの奥へと戻っていった。どうやらギルドマスターの仕事で忙しいだろうに、わざわざリオン達の顔を身に来てくれたようだ。


「さて、それじゃあ依頼を……って、どうしたんだ、お前達?」


 シルヴェーヌを見送ったあと、依頼ボードの情報を確認しようと振り返ったリオンだったが、そこには何故か目をキラキラと輝かせてリオンを見つめるアルとファリンの姿が。


「黒の獅子帝……すっげぇカッコいい!」

「さすがリオンだニャ」


 どうやらリオンの恥ずかしい二つ名が、二人の琴線に触れたらしい。尊敬のまなざしを向けられて、ちっとも嬉しくないのが実に悲しい。


 ティアはリオンの隣で、そんな二人に優しいお姉さんスマイルを向けていた。さりげなくリオンのコートの袖を掴んでいるのは、突然現れた妖艶な美女、シルヴェーヌへの警戒心ゆえだろう。恋人同士になっても、心配性はなかなか治らないらしい。


 ちなみに先ほど絡んできた三人組の男達はいつの間にかいなくなっていた。どうやらギルドマスターの登場に皆が気を取られているうちに、ギルドから逃げ出したらしい。


「まぁその二つ名のことはとりあえず置いといて、今は依頼の確認を……」


 苦笑交じりにアルとファリンの頭に手を置いて、リオンが依頼ボードの方へと視線を向ける。


「あの……すいません」


 と、そんなリオンの背に、気弱そうな声がかけられた。喧騒を取り戻し始めたギルドの中では、どうにか聞こえるくらいの小さな声だったが、何故かリオンの耳にその声ははっきりと届いた。リオンは振り返り、その声の主を見つめる。


 そこにいたのは、声のイメージ通りの気弱そうな青年だった。短く切り揃えられた黒に近い灰色の髪。体型はやや細身だが、筋肉はしっかり付いているようだ。おそらく冒険者ではなく、この町の職人だろう。作業用の薄汚れたつなぎを着ている。


「あなたは?」

「あ、じ、自分はこの町で鍛冶師をやっているエクトルという者です。その……先ほどの一件であなた方が高ランクの冒険者だと聞きました。それで、その、……あなた達に受けていただきたい依頼があるのですが……」


 たどたどしい口調で自身の要件を告げるエクトルと名乗る青年。割と気の強い者が多い鍛冶師で、この気弱な態度は少々珍しい。


「依頼、ですか……それはどのような?」


 突然の話だったが、リオンは特に驚くこともなく、エクトルに話の続きを促す。高ランクの冒険者に直接依頼の話を持ち掛けるというのは割とよくある。内容は護衛の依頼か、入手が難しい素材の調達依頼がほとんどだ。リオン達も何度かそういった話を持ち掛けられたこともある。


 リオンの問いかけに、エクトルは逡巡するようにわずかに視線を彷徨わせる。だが、やがて意を決したように、リオンの目を真っ直ぐに見つめて、その依頼の内容を告げる。


「行方不明になった自分の婚約者を探して欲しいんです」


今回のような中二な二つ名ってのも、異世界転生・転移物では定番ですよねww

大抵の場合、主人公は恥ずかしさに悶絶するような気がするのですが、

リオン君の場合、クールなので若干リアクションが薄めです。

むしろ私自身のセンスの無さに自分が悶絶したくなりましたww


次回は、新キャラであるエクトルとの交渉がメインになります。


感想、ご意見、誤字脱字の報告等お待ちしております。

厳しいご意見なども真摯に受け止めさせていただきます。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 尊敬のまなざしという、ファリンとアルによる無邪気な追撃。 [気になる点] ~下級冒険者の実力のより安全に底上げするためであり、 実力のより→実力をより でしょうか。 [一言] シルヴェーヌ…
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