魔空船の朝
前半、甘味多めです。
魔空船での朝は思いの外静かだった。
魔空船は魔術の力で空を飛ぶ船だ。船体の動力部に施された様々な魔術陣に、船に積まれた大量の魔石から魔力を注ぐことで長時間の飛行を可能とする。魔術の発動には騒音などが発生しないので、飛行している間、聞こえる音と言えば、船の巨体が進む際に生じる風の音くらいだった。
昨夜、リオン達がエメネアを脱出し、王都から遠く離れてからは、どこにも進むことなく上空で停止している状態だ。ミリルが言うには、魔空船には飛行モードと浮遊モードがあり、浮遊モードにすれば空中で静止することが可能らしい。風の動きを感知し、よほどの強風でもない限り流されたりもしないとのこと。魔術というのは実に便利なものだ。
昨夜の時点で、魔空船の中が静かだということはリオンも十分に思い知っている。しかし、リオンは前世で何度も乗った飛行機のイメージがなかなか拭えなかった。朝、船内の自室のベッドで目を覚ました今も、ベッド脇の窓から外の景色を見るまで、自分が魔空船で空を飛んでいるという実感を持てなかったくらいだ。
「本当に、魔空船を手に入れたんだな……」
ベッドで起き上がり、窓の外を流れる真っ白な雲を眩しそうに見つめながら、リオンが感慨深げにそう呟いた。
誰に向けたわけでもないリオンのひとり言に、すぐ隣から小さな反応が返ってきた。それは「うぅん……」という、何とも艶めかしい声。それと共に、もぞもぞと何かが身じろぎ、ベッドに使われている高級そうなシーツがサラサラと衣擦れの音を立てる。
リオンは外の景色から、その声と音の主へと視線を移す。
そこにはリオンの隣で安らかな寝息を立てる最愛の人が。リオンの方を向いたまま眠る横顔は、天の園でまどろむ天使のよう。窓から差し込む光を受けて輝く金色の髪は、一晩眠っていたというのに癖の一つもない。シーツから少しはみ出た肩は、純白のシーツに負けないくらいに美しくキメ細やかな艶を放っている。
(そうか……昨日はティアと……)
昨夜の展望スペースでの一幕を思い出して、少し照れくさいような、くすぐったいような、そんな気持ちになる。しかしそれ以上にリオンの胸は、温かく穏やかな幸福感で満ちていた。
これまでにもティアはずっとリオンの隣にいてくれていた。傍で支えてくれていた。そう考えれば二人の関係は、これから劇的に変わるというわけではないのかもしれない。
それでも……ただ想いが通じ合っただけ、二人の気持ちを確かめ合っただけで、こんなにも満ち足りた気持ちになる。目覚めたときに、一番大切な人が隣にいる、ただそれだけのことが、リオンには堪らなく嬉しかった。
(ずっと一緒に、か……そのために、俺ももっと強くならないとな……)
昨夜交わした二人の誓いを胸に、リオンは眠るティアの髪を優しく撫でる。愛おしむように、慈しむように。
そうして少しの間、リオンがティアの柔らかな髪の感触を楽しんでいると、ティアの瞼がわずかに揺れた。それを目にしたリオンは髪を撫でる手を止めて、ティアの顔を見つめる。
わずかに身じろぎをしたあと、ティアはゆっくりとその目を開けた。まだ寝ぼけているのか、目元がトロンとしており、いつもは知的で大人びた顔が少し幼く見える。まだ半分くらい夢の中にいそうな意識で、それでも自分の頭に置かれた手の感触には気付いたのだろう。その空色の瞳が、目の前で自分を見下ろしている人物へと向けられていった。
「…………リ、オン……?」
寝起きだというのに、実に透き通った声でリオンの名を呼ぶティア。リオンが目の前にいることに安心したのか、わずかに口元がほころんだ。
そんなティアのちょっとした反応でさえ愛おしくて、リオンはティアの頬をそっと撫でる。
「すまない、起こしてしまったみたいだな」
リオンはティアの睡眠を邪魔したことを謝罪する。しかし、ティアにとっては睡眠よりもリオンが目の前にいて、自分を撫でてくれていることの方が大事なのだろう。自分の頬に伸ばされたリオンの手を、愛おしそうに自分の手で包み込んで微笑む。
「こんなに幸せな気持ちになれる朝は、生まれて初めてよ」
そっと目を閉じて、リオンの手のぬくもりを味わうように、ティアが頬擦りをする。そんなティアの反応に、胸の奥がくすぐったくなってきたリオンは、そんな気持ちを誤魔化すように、少しお道化た口調でティアに告げる。
「じゃあこれから一緒に寝た時は、こうやって起こすか?」
そんなリオンの提案に、ティアは首を横に振った。
「ダメよ。それだとずっと、私はリオンの寝顔を楽しめないもの」
目を開いたティアが、いつものいたずらっぽい笑顔でリオンを見つめる。そんなティアの表情に見惚れつつも、今のティアの却下理由にリオンは苦笑いを浮かべた。
「見ても楽しくないぞ」
「そんなことにないわ。リオンの寝顔、とっても可愛いもの」
リオンの照れ隠しの発言に、ティアが追い打ちをかけてくる。男の寝顔が可愛いなどというのは、リオンからしてみれば理解はできない。ティアの笑みからは、冗談なのか本気なのかもわからない。しかしティアに手玉に取られているのは確かなようだ。
気恥ずかしさに耐えられなくなったリオンが、ティアから視線を逸らす。そんなリオンの反応でさえもティアにとっては楽しいものだったらしい。クスクスという笑い声が聞こえる。
(やれやれ……どうやらこの先も、俺はティアには敵いそうにないな……)
敗北宣言とともに、内心でため息をこぼすリオン。エメネア王国最強の騎士を打ち倒したリオンだが、ティアとの勝負では連敗記録を更新中である。もっとも、こんなティアの笑顔が見られるなら、負けても惜しくはないが。
(まぁ、ティアに起こされるのも悪くない……かな)
ティアの優しい声と、温もりで目を覚ます朝。目を覚まして最初に見るのが、ティアの笑顔だったら、どんなに幸せだろう。寝顔を見られるのは、やはり少し気恥ずかしいが、そんな朝を迎えられるならば、それくらい大した問題ではないかもしれない。
そんな風にリオンが考えていると、笑いが収まったティアに名前を呼ばれた。その声にリオンが振り向くと、ティアが体を起こしたところだった。シーツを胸のところで押さえ、少し恥ずかしそうに頬を染めている。
「おはよう、リオン」
さっきまでのいたずらっぽい笑みとは違う、穏やかで優しい笑みを浮かべるティア。改まって言われて、リオンは少しキョトンとしてしまった。「そういえば、まだ言ってなかったな」と、指で頬をかく。前世も含めた人生の中で、こういった朝の経験は初めてだったので、リオンも珍しく少し舞い上がっていたようだ。
「おはよう、ティア」
ティアの空色の瞳を見つめて、リオンが挨拶を返した。そうしてどちらともなく体を寄せていく。先ほどのようにティアの頬にそっと右手を添えると、それを合図にティアはゆっくりと目を閉じた。
ティアの艶やかな唇に、リオンが口付ける。昨夜から、もう何度交わしたかわからないが、いまだに少し緊張してしまう。しかし、そんな緊張以上の温かさがリオンの胸に満ちていた。そんな愛おしさを伝えあうように、二人は甘いキスを何度も繰り返す。
だが、そんな甘い空気に浸る二人は、とても大事なことを忘れていた。
この船には、間の悪さに定評のある、一人のポンコツが乗っているということに……
バンッ! という乱暴な音とともに、リオンの部屋のドアが勢いよく開かれる。ノックという人類の叡智を理解できない赤い髪の大男が、ドカドカと室内へと乱入してきたのだ。
「リオーン! 起きろー!」
乱入者がリオンの名を呼ぶ。室内の広さには不釣り合いな程の大きな声が、リオンの部屋に響き渡った。
驚いたリオンとティアが、一斉に扉の方へと振り返った。二人が乱入者の方へと顔を向けたのと、乱入者が二人の方を向いたのはほとんど同時だった。魔空船の個室は一つ一つデザインや物の配置が異なるので、リオン達の姿を見つけるまでにわずかのタイムラグがあったのだろう。
「いつまで寝て、ん、だ…………」
ベッドの上で身を寄せ合う二人と目が合った瞬間、間の悪い闖入者、ジェイグの大きな体が完全に固まった。人間が本当に驚いた時の、見本のような反応だ。
もっともその反応は仕方のないことだろう。リオンとティアの今の状況を見れば、昨夜、この部屋でどのようなことが行われたのかは、誰の目から見ても明らかだ。そして、ジェイグと二人は同じ孤児院、本当の兄弟のように育った。家族のこういった場面に遭遇した時の気まずさは、少し想像すれば誰でも理解できると思う。
そして、それは見られた方も同じだ。ティアも完全にフリーズしている。おそらく我に返っても、羞恥で余計に混乱するだけだろう。
戦いの場では常に冷静なリオンですら、すぐに言葉も出てこない程度には困惑している。前世を合わせると、三十五年にもなる人生だが、恋人と二人で朝を迎えるのも、情事を知り合いに目撃されるのも初めての経験だ。対処の方法が何一つ思い浮かばない。
(誤魔化すのは……無理か。やはり口止めを……いや、口封じするのが一番か?)
リオンの思考が、若干物騒な方向へとシフトチェンジしていく。
しかし、そのようにリオンの思考が混乱している間にも、事態は進む。
それも、リオン達の望まぬ方向へ。
「そんなところに突っ立って、何してるわけ?」
「リオンはまだ寝てるのか?」
「リオンの寝惚け顔を見るチャンスニャ!」
ドアの傍で固まったままのジェイグの後ろから、ぞろぞろとリオンの部屋へと入ってくるミリル、アル、ファリンの三人。黒の翼メンバーがリオンの部屋に勢ぞろいである。そして、三人はリオン達の姿を見た瞬間に、一人の例外もなく、その場で硬直した。
もう誤魔化すとか、口封じとか、そういったレベルの話ではなかった。最悪の展開に、さすがのリオンも明後日の方向を向いて、遠い目をする。
ミリル達が入ってきたことで、我に返ったらしいティアは、リオンの予想通り、あっという間に羞恥心が限界を迎えたようだ。胸の辺りで押さえていたシーツを頭から被って、全身を隠してしまった。
(もうなるようになれ……)
リオンは、ティアのフォローもできないまま、心の内でやけくそ気味にそう呟くのだった。
「何だ、その顔は」
不機嫌さを全身で表したリオンが、苦々し気にそう呟いた。あまり感情を表に出すことの少ないリオンにしては、なんとも珍しい光景である。
「「「べっつに~」」」
そんなリオンの問いに、ティアとジェイグ以外の三人が声を揃えて返してきた。全員がニヤニヤとした笑みを浮かべて、不機嫌顔のリオンと、顔を真っ赤にして俯くティアを見つめている。まるで「昨夜はお楽しみでしたね」とでも言いたそうな表情だ。
ここは魔空船内、国王の寝室。昨夜、エメネア王国を脱出した後、リオン達が集まっていたのと同じ部屋だ。
先ほどの一件から少しあと、リオン達はその部屋に集合していた。他に手ごろな部屋もないので、リオン達はとりあえずこの場所を暫定の会議室として使うことにしている。
集まった目的は、もちろんリオン達を冷やかすため……ではなく、今後の黒の翼の具体的な行動について話し合うためだ。魔空船で冒険をする、という大雑把なものではなく、目指す目的地を明確にする必要がある。
だが、リオンとティアの関係が思わぬ形でバレてしまったため、二人は会議を始める前に、ミリル達の生暖かい視線に晒される形になってしまったのだ。別に隠すつもりはなかったので、折を見て打ち明けるつもりだったのだが……さすがにあんなことになるとは、リオンも思ってはいなかった。
「……で、今後の方針についてだが……」
このままでは埒が明かない、とばかりにリオンが強引に話の軌道修正を図る。別に、リオンが話を誤魔化そうとしているわけでは、断じてない。
「結婚式はいつやる、とかそういう話?」
「気が早すぎるぞ、ミリル」
「じゃあ、子どもは何人くらい欲しいとかかニャ?」
「それを何故お前たちと話し合わなきゃならない?」
リオンの意図を明確に汲み取ったミリルとファリンが、実にキラキラした表情で話を妨害する。普段はあまりそんな素振りは見せないが、やはり二人とも年頃の女の子だけあって、こういう恋愛話は好きなのだろう。復讐という悲願を達成した直後ということもあって、テンションが高いのも原因かもしれない。
「二人の子どもとか、すっげぇ強くなりそうだなぁ」
「アル、お前は生まれてもいない子ども相手に闘志を燃やすな」
両手を頭の後ろで組み、高価そうな椅子をロッキングチェアのように揺らすアル。女性陣二人とは異なり、ワクワクといった表情である。もしリオンに本当に子どもが生まれたら、絶対にアルは自分が稽古をつけたがるような気がした。
「あ~、お前ら、そろそろこの話題は止めてやろうぜ……」
何とも気まずそうな声で、ジェイグがリオンに助け船を出す。いつもなら真っ先にリオンをからかうジェイグだが、この事態のきっかけとなったことに、やはり責任を感じているのだろう。
今回の一件で一番悪いのは、部屋の鍵をかけ忘れたリオンだ。各個室は、全て鍵を使わずに内側から施錠できるのだから。
いつものリオンならば、絶対にこんなミスはしない。とはいえ、さすがのリオンも長年の想い人と、色んな意味で結ばれた夜。しかも人生初めての夜に、少しくらい舞い上がってしまい、普段はやらないようなミスをするくらいはあるだろう。
かといって、ジェイグを責める気にもなれなかった。リオンとジェイグは、孤児院でも旅先の宿でも部屋を同じくすることが多かったので、部屋が分かれた時も、他の人の部屋に行くのとはお互いに感覚が違う。おそらくジェイグは、いつも通り自室に入るような感覚で入ってきてしまったのだろう。
「まぁ、そうね。そろそろティアも限界みたいだし」
ミリルが、リオンの隣に座るティアの方を向きながら、そんなことを言う。それに釣られて、リオンがティアに横目で視線を向けると……
「こ、子ども……リオンと……」
プルプルと肩を震わせ、ゆでだこみたいに顔が真っ赤になっていた。いや、この部屋に集まる前から顔は赤かったのだが、その時に比べてもさらに赤い。今にも顔中から湯気が出てきそうである。
まぁ若干嬉しそうにも見えるのは、おそらく気のせいではないのだろう。もっともこれ以上この話を続けると、ミリルの言う通り、本当に限界を迎えそうだが。
「……とりあえず、次の目的地を決めるぞ」
今のティアにリオンが声をかけるのも得策ではないので、気づかなかったことにして、リオンは本題に入る。
「目的地って、浮遊島じゃないのか?」
不思議そうな表情でアルが訪ねてくる。孤児院を旅立つ前から、ここにいる全員は、リオンが浮遊島に興味を持っていたことを知っている。なので、魔空船を手に入れた以上、次の目的地が浮遊島になると思っていたのだろう。
「いずれは浮遊島を目指すつもりではあるが、その前にやるべきことがいくつかある」
「リオンの新しい刀とかな」
リオンの言葉を受けたジェイグが、リオンの腰の辺りを寂し気に見つめる。
かつてジェイグが作ったリオンの愛刀は、残念ながら先の戦いで折れてしまった。代用品として、エメネア騎士から奪ったミスリルサーベルを使っている。材質は騎士のサーベルの方が上等なのだが、やはりリオンとしては刀が欲しい。鍛冶師であるジェイグも、リオンには自分の打った刀を使って欲しいのだろう。
「それも当然ある。だが、それよりも先に考えなければならないことがある」
「この魔空船のことでしょ?」
リオンの考えを読むように、ミリルがあっさりと告げる。そして、そのミリルの問いが正解だったと言うように、リオンは小さく頷きを返した。
「やっぱり、ミリルは気づいてたか」
「と~ぜんでしょ。あたしを誰だと思ってるわけ?」
左右色違いの瞳を細め、ミリルがいつものように不敵に笑う。ある意味ではリオン以上に魔空船について考えているミリルならば、気づいても当然だろう。
「どういうことニャ?」
「この魔空船に、問題でもあるのか?」
二人の話に付いていけないファリンとアルが、首を傾げる。猫耳と狐耳だけあって、何とも小動物っぽい仕草である。
「やっぱり脱出の時に故障でもしたの?」
いつもの調子を取り戻したティアが、少し不安そうな瞳でリオンを見つめてくる。
「魔空船の故障とかは俺にはわからないが……」
「外装に傷ができた程度だから、船自体には全く問題はないわ」
リオンに視線を向けられたミリルが、代わりにティアの問いに答える。リオンは魔導具に関しては不得手なので、魔空船の整備についてはミリルに頼るしかない。
「じゃあ、何が問題なんだ?」
ジェイグが、訳が分からないといった表情でボリボリと後頭部を掻く。そんな相棒の様子に、苦笑交じりの視線を向けて、リオンが答える。
「この魔空船の形状だよ」
端的なリオンの答えに、ますます訳が分からなくなったのか、ミリル以外の四人がリオンに困惑した視線を向ける。
「形状……って、この龍の形のことか?」
ジェイグの問いに、「ああ」とだけ頷いたあと、リオンは右手を上げ、ジェイグ達の背後の壁を指さした。
リオンが指し示したのは、壁に刻まれたエメネア王国の紋章。王国の栄光を誇示するように、巨大な翼を広げた黄金の竜が描かれている。
「現存する魔空船の多くは、空の魔物を寄せ付けないように、船体を装飾する。だが、そのほとんどは単純な形状の船体に、大型の有翼生物を描く程度のものだ」
船体に描かれるような大型の魔物には効果がないが、ハーピーやファイアバードのような小型の飛行魔物くらいには十分効果がある……と言われている。
実際、小型の魔物は、描かれた魔物よりも、大型の魔空船そのものに恐れを抱いているという説もある。そのため、魔空船の装飾については、実利よりも持ち主の趣味的な部分が大きい。国によっては、自国の崇拝する神とか、天使を描くところもあるくらいだ。
「で、この船みたいに、船そのものを生物の形状にするのは、魔物除け以上に、自身の威光を示したいっていう権力者達の下種な考えによるってわけ。おまけに龍は龍でも、エメネアのシンボルでもある黄金龍。こんなのに乗ってたら、エメネア王国の王族から奪いましたって自白しているようなもんなわけよ」
リオンの説明を引き取って、ミリルが先を続けた。
「なるほどな。つまり、この船で旅を続けるなら、まずはこの船の形を改造しねぇとなんねぇわけだ」
二人の説明に納得した様子で、ジェイグが壁の紋章からミリルの方へと向き直った。正解した生徒を褒めるような笑みで、ミリルが「そゆこと」とだけ告げる。
「というわけで、船体の改造は最優先事項だ。その他にも、魔空船で改造しなければならない部分は多い。旅を続ける以上は、武器や船の整備のための設備は必要だろう。何せ、必ず町まで辿り着ける保証なんてないんだからな」
リオンが真剣な表情で、全員の顔を見つめていく。
あまり無茶なことはしないとはいえ、危険の多い旅であることは間違いない。最悪の場合、旅先で船が壊れて戻れなくなる可能性もあるのだ。事前の準備として、町以外の場所でも、船や武器の修理をできる工房は必須だ。リオンの刀は、船に工房を設置してからでも遅くはない。
「それと、魔空船が飛行するための魔石の確保も必須よ。エメネアで奪ったものがあるから、しばらくは大丈夫だけど、旅を続けるなら予備はいくらあっても多すぎるってことはないんだからね」
ミリルがリオンの説明を補足する。なんだかんだで、一番付き合いの長い二人なだけあって、こういうときの息はピッタリである。
「というわけで、今後の最優先事項としては、魔空船の改造と魔石の確保。そしてそのための資金調達となる」
「しかも、エメネアの船だってバレないように、船の外装の修理までは自分達でやらないといけないわけ。だから、ジェイグは色々忙しくなるだろうけど、しっかりやんなさいよ」
ミリルが気合を入れるように、ジェイグの背中を叩く。ジェイグもミリルの喝に応えるように、「おう!」と大きな声をあげて、野性的な笑みを浮かべた。
実に頼もしい二人の様子に、リオンやティア達四人が笑みを交わす。
実際、改造作業が始まれば、リオン達はサポートくらいしかできないだろう。下手に素人が手を出して失敗したら元も子もない。なので、リオン達の主な仕事は材料や資金の調達となる。
「まぁ、最低限の材料を調達するまでは、六人で行動。改造が可能になり次第、ミリルとジェイグは作業に。残りの四人で、二人のサポートと、材料や資金、魔石の調達をすることになると思うから、そのつもりでいてくれ」
リオンが話をまとめると、他の五人がそれぞれ了承する声をあげた。
そんな五人の返事に小さく頷くリオン。そして、少し説明が遠回りしてしまったが、この会議の結論である目的地を告げる。
「次の目的地は、ここから北西。鉱山と鍛冶の町、ガルドラッドだ」
感想、ご意見、誤字脱字の報告等お待ちしております。
厳しいご意見なども真摯に受け止めさせていただきます。
よろしくお願いいたします。