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プロローグ ~凶魔の影~

この話から第二章となっております。

プロローグなので、話はかなり短めです。

 ガルドラッドの町の正門から、西へ歩いて十数分。街道と呼ぶには整備が不十分だが、獣道と呼ぶほど荒れてもいない、そんな道を進んだ先に大きな湖がある。北から西側を高い山々に、南側を森に囲まれた自然豊かな湖だ。西側の山を源流とするその澄んだ水は、十年程前まで、ガルドラッドの町の水源として長きにわたって親しまれていた。


 そんな湖の畔に大きな水瓶を抱えた女性が一人。一頭立ての小さな荷馬車の傍で、先ほど顔を出したばかりの太陽の光を浴びながら、せっせと湖の水を水瓶に汲み上げていた。


 彼女の名はアネット。身に纏う、くたびれた茶色い衣服と、薄汚れたエプロンが彼女の年齢をわかりづらくさせているが、年は23になったばかり。頭に巻いた三角巾から伸びたボリュームのある三つ編みは濃い栗色。顔にはそばかすがあり、誰の目から見ても美人、とまではいかないが、素朴な魅力の感じられる女性である。


「これでよし」


 水瓶いっぱいに水を入れ終わると、アネットは瓶の口に素早く蓋をした。しっかりと蓋が閉まっていることを確認した後、瓶の横に付いた取っ手を掴み、「よいしょっ」という掛け声と共に、水瓶をヒョイと持ち上げた。


 荷馬車の上には、すでに同じ水瓶が五つ。六つ目の水瓶も、手慣れた手つきで荷馬車へと乗せてしまう。水が満杯まで入った水瓶は、女性が持ち上げるには文字通り荷が重いはずなのだが、日頃から実家の鍛冶屋の手伝いをしているアネットにとっては、この程度の荷運びはいつものこと。重い鉄の塊が詰まった箱や、剣や槍が差し入れられた樽を運ぶよりはずっとマシなくらいだ。


「ふぅ、これで終わり、と」


 一仕事を終えて、アネットが小さく息を吐く。早朝の爽やかな風が、力仕事で少し火照ったアネットの顔をそっと撫でる。通り過ぎた風を追いかけるように視線を湖へと向けると、穏やかな水面に薄っすらと波紋が広がっていく。


 そんな光景を見つめるアネットの脳裏に、ふとある光景が蘇ってくる。


 それはほんの一週間前の出来事。その時は夕暮れ時だったが、今と同じように穏やかな風が吹いていた。


 湖を背にした見慣れた顔の男性。子供のころからいつも一緒にいた幼馴染であり、家族のような存在。そしてもうすぐ本当の家族となる最愛の人。


 そんな誓いを、この場所で交わした。山間から差し込む夕陽が、世界と彼の真剣な顔を鮮やかな茜色に染めていた。人生最高の瞬間。


 アネットが首に下げたネックレスをそっと外す。細い銀製の鎖の先には、光の魔石の付いたミスリルの指輪。一週間前、アネットの最愛がくれた婚約の証を天にかざす。仕事中は指に通す訳にはいかないので、常に身に着けていられるように鎖も一緒にプレゼントしてもらった。しかも鎖の方は、彼のお手製だ。


 朝の陽ざしを受けて、キラキラと輝く宝物を、そっと目を細めて見つめるアネット。まさに幸せの絶頂といった表情である。


 そうしてしばらくの間、そんな幸福感に浸っていたアネットだったが、さっきよりも強い風が通り過ぎたことで、ふと我に返った。


「いっけない……早く帰らないと、開店時間に間に合わなくなっちゃう」


 鍛冶屋の朝は早い。アネットは職人ではないが、店番の他に実家の家事もしなければならないので、あまりのんびりしている暇はないのだ。


 湖に背を向け、水瓶を乗せた荷馬車へと視線を向ける。馬車を引く馬は、近くの木へと繋いでいるので、こちらにお尻を向けている状態だ。今は、のんきに地面に生えた草をモシャモシャとんでいる。


そんな馬の様子に微笑を浮かべながらも、さっき外したネックレスを首に戻そうと、両手を首の後ろへと回す。


 そんな時だった――


「なっ!? っふ、むぐ!?」


 背後から伸びてきた何かが、一瞬でアネットの口を塞ぎ、両手足とその細い腰に絡みついたのだ。


 それはどす黒い色をした、太い綱のようなものだった。拘束された状態で、どうにか視界に入ったそれは、魔物の触手のようにも、何匹もの蛇のようにも、あるいは植物のつたのようにも見える。


「んー! んーんーっ!」


 突然の事態に混乱しながらも、必死に自らの拘束を振り解こうともがくアネット。塞がれた口から、声にならない悲鳴が漏れる。


 しかし、四肢に絡みついた何かは、アネットの決死の抵抗を嘲笑うかのように、その力を強めていく。身体強化の魔法を施してもなお抗えぬほどの剛力をもって、アネットの体をゆっくりと後ろへと引きずっていく。


(せめて……せめてナイフを掴めれば!)


 得体の知れない襲撃者への恐怖に怯えながらも、アネットは腰に差した護身用のミスリルナイフへと手を伸ばす。それさえ手にできれば、引きずられながらでも拘束を外せるかもしれない。


 そんな一縷の望みを抱いて、アネットはその右手に意識と魔力を集中していく。


 しかし、そんなアネットの希望は、敵の追撃によってあっさりと打ち砕かれてしまった。


(っ! 首が!)


 四肢や腰に巻き付いているのとは別の何かが、新たにアネットの首へと巻き付いたのだ。抵抗するアネットの意識を刈り取るかのように、ゆっくりとその細い首を締めあげていく。


(苦、しい! 息が、でき、ない)


 徐々に込められていく首への圧力は、手足を拘束しているそれよりは明らかに力が弱い。おそらく、今ここでアネットを殺すつもりはないのだろう。だからといって、それで安全などと思えるはずはないのだが。


 アネットの視界が次第に霞んでいく。抵抗も弱まっていき、ついには足を引っ張る力に負け、地面へと倒れ伏してしまった。そのままうつ伏せの状態で、ゆっくりと何かに引き寄せられていく。


 最後の抵抗とばかりに、草の生えた地面を掴むが、すでにその手に力はなく、魔力を集中できるだけの意識もすでに消えかけていた。


(たす……け、て……エク……ト……)


 薄れゆく意識の中で、アネットは自身の最愛の人の名を呼ぶ。


 だが、そんなアネットの願いが叶うことはなかった。


 気を失ったアネットの体から力が抜ける。抵抗がなくなったことを感じ取ったのか、襲撃者は力の方向性を変えた。ぐったりとしたアネットの体が宙へと持ち上がり、森の方へと運ばれていく。


 そうしてアネットの姿が消えると、湖はまるで何事もなかったかのような平穏な姿を取り戻す。湖畔には、水瓶が乗った荷馬車と、主の異変に気付くこともないまま、木に繋がれて食事を続ける馬だけが残されていた。


久々の投稿、そして第二章の始まりだというのに、暗い展開からのスタートとなってしまいましたww

何者かに囚われてしまった新キャラの女の子の行方やいかに!?


そして第二章のおおよその流れとしましては、

異世界転生物らしく、魔物相手にリオン君達が無双する感じにしようと思っています。

一章でメインキャラの内面をかなり描いたので、二章はバトル展開をメインに。

今回は爽快感とかスピード感を出せればなぁと思っています。

スタートはこんな感じでしたが、そこまで暗い話にはならない……はず……


あと第二章はそこまで長くしないつもりです。

第一章が四十三話、文字数は二十七万字以上にもなってしまったので、

もう少し物語の展開のテンポとかも意識していこうと思います。


更新ペースについては週一で、土日のどちらかで投稿予定です。

リアルの事情によっては投稿が遅れるかもしれませんが、

なんとかこのペースを守れればと思っております。

ストックがないので不安はありますし、話の途中で細かいところを改稿することもあると思いますが、応援していただけると幸いです。


次回からは、ちゃんとリオン君達が登場します。

魔空船を手に入れたリオン君達の冒険の始まりです。


感想、ご意見、誤字脱字の報告等お待ちしております。

厳しいご意見なども真摯に受け止めさせていただきます。

よろしくお願いいたします。

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