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王都の夜

 王国歴一〇二七年。

 孤児院焼失から五年後。

 エメネア王国王都、貴族街三番通り。

 

 丁寧に舗装された石畳の上を一台の馬車が進む。ゆっくりと石畳を打つ馬蹄の音と、車輪が回るカタカタという音が、魔導灯に照らされた薄暗がりの道を通り抜けていく。


 馬車の周囲にはエメネアが誇る王国騎士が八人。前後左右に二人ずつ配置され、馬車の周囲を固めている。


 騎士達は全員が物々しい雰囲気で、周囲の様子を探っていた。その空気は刃を思わせるほどに鋭く、馬車に近づけば誰であろうと容赦なく切り捨てられることが容易に想像ができた。


「やれやれ、こう周囲を警戒しながらではやはり速度は出ぬな。馬車がちっとも進まんではないか」


 馬車の内部で愚痴を零すのは、エメネア王国軍務卿の右腕とも呼ばれる実力者、ギュスターブ侯爵。綺麗に切り揃えられた顎鬚あごひげを右手で擦りながら、同乗する護衛騎士の隊長、レミントンに辟易とした視線をぶつける。


「申し訳ございません。ですが、これも侯爵の身の安全を最優先してのこと。ご理解いただければと……」


 本来は王都の、ましてや貴族街の中で、これほど護衛に騎士を配置することは異例であった。


 エメネア王国も大国だけあって、その内部も一枚岩ではない。王国の重鎮ともあれば護衛を付けるのは当然だ。だが、実際に政略のために暗殺を企てるような輩は、少なくとも王国貴族の中にはいないだろう。


 現に、ここ二十年の間で、王都内において貴族が襲われたという話は誰も聞いたことがなかった。


 しかし、そんな平穏はわずか数日前に、いとも簡単に破られた。


「そこまで警戒する必要があるのか? たかが賊が数人。これだけの騎士が周囲を固めていれば、近づくことさえできぬだろう」

「先日暗殺されたデリシャール子爵は、護衛に私兵を六人つけておりました。ですが、その全員が倒されております。侯爵であるギュスターブ様を護衛する以上、この程度の警戒は当然かと」


 ギュスターブの不満に、レミントンは丁寧だが厳然とした口調で説明を返す。


 デリシャール子爵とは、ギュスターブ侯爵と同じく軍務に携わる貴族で、実務的な部分で騎士団の運営に携わっていた。数日前の夜、王都内にある自身の邸宅に戻る途中で、何者かの襲撃にあい、殺害されるまでは……


「子爵の私兵と、王国軍のエリートである騎士ではそもそもの格が違う。お主や、これだけの数の騎士がいて、この私が暗殺されるなど考えられんな」

「その期待にはかならずや応えてみせましょう。ですので、いましばらくはご辛抱願います」


 レミントンに丁寧に頭を下げられたギュスターブは、不承不承ながらも引き下がって、壮年の侍従が入れたハーブ茶を口にする。茶に使われたハーブの爽やかな香りが車内を満たした。


 車内には再び沈黙が流れ、馬車の進む音だけが不気味に響く。


 馬車が王城を出発して三十分ほどが経っていた。ギュスターブ侯爵の邸宅まではもう十分ほどで到着するだろう。レミントンは警戒を緩めることなく、周囲の気配を探り続けていた。


 そんなレミントンが馬車の外の不審な気配に気付いた。それとほぼ同時に馬車が急停止。慣性の力によってギュスターブの持つカップからハーブ茶がわずかに零れた。


「何事だ!」


 ズボンにかかった茶を気にも留めずに、ギュスターブが声を荒げた。


 立ち上がったレミントンが御者に指示を出すための小さな窓から前方を窺う。


「……馬車の前方に誰かいます」


 剣呑さを帯びたレミントンの声に、ギュスターブが怯えを滲ませた大きな声を返す。


「暗殺者か!? 数は何人だ?」

「数は……おそらく一人」

「一人だと!? バカな! たった一人でこれだけの騎士を相手にしようというのか!?」


 レミントンの報告に、信じられないといった顔で声を荒げるギュスターブ。普段のギュスターブならば愚か者と呆れるか、無謀な行為を嘲笑っているだろう。だが相手が一人だというのに、レミントンが安心するどころか、さっきよりも警戒心を引き上げているため、ギュスターブも不安を抑えられなかったのだ。


「……いえ、気配を殺して周囲に潜んでいるのでしょう。こちらの油断を誘う罠という可能性もあります」


 冷静に状況を分析しながらも、レミントンは底知れぬ悪寒のようなものが体の奥から湧き上って来るのを、ヒシヒシと感じていた。


 暗殺者らしき人影は、フード付きのマントを羽織っている。魔導灯の光の死角にいることもあって、その顔も装備も馬車からは確認できない。


 だが、体格などはおおよそ把握できる。周囲に配置された騎士よりも、その背丈は明らかに小さい。肩幅もやや細身で、シルエットだけならば男にも女にも見える。


 その姿だけを見れば、それほどの脅威には感じられない。今もこちらに襲い掛かるでもなく、剣を構えるでもなく、自然体で立ち尽くしている。そのあまりに無防備な姿は、ただ偶然に出くわしただけの冒険者と言われても、そのまま納得してしまいそうだ。


 しかし、レミントンはその人影を目にした瞬間に察した。


 あれは暗殺者だ、と。


 武器を確認したわけでもない。


 殺気を感じたわけでもない。


 それはただの勘のようなもの。だが、これまでに数多くの強者と相見えてきたレミントンの感覚の全てが、激しい警鐘を鳴らしていた。


(あいつは危険だ……たとえ私でも一人では絶対に勝てない……纏う空気だけで、私がここまで気圧されるなど……)


 周囲に配備した騎士だけでは荷が重い。八人全員で束になれば、あるいは退却させるくらいまでは持ち込めるかもしれない。だが、討ち取ることは不可能だろう。こちらにも間違いなく犠牲が出る。


 そう判断したレミントンは、ギュスターブへ振り返ると、鬼気迫る声で進言する。


「私が出ます。侯爵はここを動かないでください」

「敵は一人なのだろう? わざわざお主が出るまでもないと思うが、相手はそれほどの手練れなのか?」

「ええ、顔は見えませんが、間違いなく」

「そうか……お主がそういうのなら、それは事実なのだろう。ならば、お主の判断に従おう」


 レミントンは最下級の貴族である準男爵家の三男でありながら、その実力を見込まれ、若くして騎士隊長にまで上り詰めた人物である。身分の低さからレミントンを見下す者も多いが、王国上層部からの信頼は厚い。


 今回の侯爵の護衛も、軍務卿直々の任務である。軍務卿の右腕であるギュスターブ侯爵がレミントンの判断を尊重するのも、自分が尊敬する上司が付けてくれた人物であるがゆえのことだ。


「だが、お主が打って出るからには、確実に賊の身柄を捕らえてくるのだぞ。仲間の居場所やその所属など、聞き出すべきことは多いのだ」

「仰せのままに」


 ギュスターブの言に、右手を左胸に当てる騎士団の敬礼で答え、レミントンは馬車を降りた。


 秋の初め頃の生温い風が頬を撫でる。魔導ランプに照らされた車内から、暗い夜の街へと出たため、視界が闇に慣れない。道路脇の魔導灯と貴族の屋敷から漏れる光、そして月明かり。いつもと変わらないはずの貴族街が暗く感じるのは、暗殺者に気圧された自分の心のせいなのかもしれない。


(私が剣を交える前にここまで恐れを抱くなど、本気のシューミット将軍を相手にした時以来か……まさか、こんなところでそれほどの相手と相見えることになるとは)


 そんなことを考えながら、レミントンは馬車の横を通り過ぎ、未だに身動き一つせずに立ち続けたままの襲撃者へと歩を進める。


 馬車の前方を警護していた騎士二人は既に剣を抜いて、暗闇に佇む人影を油断なく睨み付けている。


 この場にいるのは騎士団の中でも、レミントン自身が選んだ者達だ。まだ少し若いが、弛まぬ訓練によって培った剣の腕と、放たれる威圧はかなりのものである。相手が並の敵であれば、即座に斬り伏せることができる実力者だ。


 そんな二人だからこそ、目の前の人物の力量までは仔細には計れずとも、敵の放つ重圧は敏感に感じ取れてしまうのだろう。両刃のサーベルを正眼に構えたまま、その場を動けずにいた。その頬を冷や汗が伝う。


「奴が動けば、三人がかりで押さえるぞ。絶対に奴を馬車へと近づけるな」


 まだ相手とは距離があるので、普通の声でも聞こえることはないだろう。だが、二人の騎士にかけたレミントンの声は、音を潜めた小さなものになっていた。


 二人の騎士は緊張した視線を前方に向けながらも、小さく頷いた。


 騎士二人を背にし、漆黒の闇を纏った暗殺者らしき人物と対峙したレミントンは、おもむろに口を開く。


「我はエメネア王国騎士、三番隊隊長、レミントン・ヴィル・ダーグラスだ! 貴様の目的が何かは知らぬが、これ以上我々の行く手を遮るというならば容赦はせぬ! 速やかに立ち去るがいい!」


 叩きつけるような声。歴戦の猛者であるレミントンの恫喝にも、前方の人影は微動だにしない。


「貴様の目的は何だ!? 何故、我らの進行の邪魔をする!?」


 答えるはずもない問い掛け。容赦はしないと口にしながらも、そんな無意味な問いを投げるのは、レミントン自身が相手の纏う冷たい空気に飲まれている証拠だ。


 だが、そんなレミントンの態度を嘲笑うように、前方の闇から静かな声が届いた。


「目的か……」


 それは男の声。


 思っていたよりもずっと若い。澄み切った氷を思わせるような凛とした声音。


「そうだな……とりあえずの目的なら――」


 その口調は軽い。


 だがその声を耳にしたレミントンは、これまでに感じたことの無いほどの戦慄が全身に突き刺さるのを感じた。


「すでに果たしている」


 男がそう言い切ったその瞬間、背後から轟音が鳴り響いた。


 甲高い金属質な音に、思わずレミントンは振り返る。


 敵を前にして、その行動はあまりにも不用意。


 だが振り返った彼が目にした光景は、そんなことも忘れるほどの衝撃をレミントンに与えた。


「バ、カな……」


 そこにはさっきまで自分が乗っていた馬車。ただ一点を除いて、先ほどまでと何ら変わったところはない。


 馬車の高さを上回る程の長大な剣が、その中心を貫いている以外は――


 目の前にあるのは貴族専用に作られた馬車だ。魔物や賊の襲撃に備えて、その外装はかなり堅固な造りとなっている。魔鉄にミスリルを混ぜた硬質な金属で作られ、防御魔術によって通常の馬車の数倍の防御力を誇る。普通の銃弾や矢などは歯が立たず、普通の剣で突けば、逆に剣の方が折れてしまう。それこそ、純ミスリル製の剣でもなければ貫くことなどできないはずだった。


 その馬車を突き抜け、地面にまで達するほどの長さの直剣。


 そしてその剣が貫くその場所にいるのは、果たして誰なのか……


「すぐに中を確認しろ!」


 馬車の側面にいる騎士にレミントンが指示を飛ばす。


 あまりに突然の事態に固まっていた騎士の一人が、その声に我に返り、馬車の扉に手をかける。上部からの衝撃で扉が少し歪んでいたのか、力任せに引き開けるような形になったが、どうにか扉は開いた。


「侯爵様! 侯爵様!」


 馬車の中を見た騎士が、悲鳴に近い声を上げて中へと入っていく。


 入口へと駆け寄ったレミントンも、馬車の中の光景を目撃した。


 馬車の縦幅の三分の一を占めるほどの鉄の塊。それが天井を斜めに突き破り、侯爵の胸から腹にかけて縦に貫いていた。驚愕の表情を浮かべたままの侯爵の眼には、すでに光はない。これだけの太さの剣にその身を貫かれたのだから当然だ。助かるはずはない。


 傍で控えていた侍従は無事のようだが、腰を抜かし、ほとんど意識のない状態だった。着ているエプロンドレスは侯爵の血で赤に染まり、反対に侍従の顔色は血の気が引いて真っ白になっている。


 一応、戦闘の心得は身に着けているとはいえ、このような状況ではそれも仕方がないだろう。目の前で仕えていた主人が殺され、下手をすれば自分もともに死んでいたかもしれないのだから。


(奴の狙いはこれだった……? こんな……こんな大それた方法で暗殺を企んでいたというのか!?)


 レミントンの脳裏に先ほどの男の言葉が蘇る。


『目的ならすでに果たしている』


 その言葉の意味が今ならはっきりとわかる。


 馬車の前に堂々と姿を晒したのは、馬車を足止めするため。暗殺を企んでいるのにこちらに手を出さなかったのは、目標をその場に固定するため。


 そして、もう一つの目的は……


(私を馬車から誘い出すため……攻撃に気付いて、侯爵を車外へ連れ出される可能性のある私の注意を引きつけるための罠……だったというのか)


 仮にレミントンが、暗殺者の力量を見抜けないような愚鈍な人物だった場合は、攻撃に気付かれる恐れなしということで問題にすらされなかったのだろう。


 唯一、侯爵を救う可能性があったとすれば、敵の策を見抜き、攻撃を防ぐか回避する以外にはない。


 だが、その責をレミントンに問うのは酷というものだろう。この国のどこにも、こんな馬鹿げた方法での暗殺を事前に見抜くことができる人物はいないはずだ。


 この方法を考えた人物以外は……


(こんな大剣を持って馬車の上空から襲い掛かるなんて……いや、そもそも敵はいったいどこから攻撃してきた? 馬車の前方は平坦な道が続いているだけのはず……)


 レミントン達は暗殺を警戒して、侯爵邸までのルートはその日ごとに違うものを選んでいた。時には少し遠回りすることさえあったし、この道を通ることを決めたのも今日になってからだ。侯爵邸付近で待ち伏せされたのならともかく、こんな場所でこんな大がかりな方法を取られること自体がおかしい。


(まさか騎士の中に内通者が……? いや、そんなはずは……)


 そんな疑念が湧き上がってきたが、それについてゆっくりと考えている時間はなかった。


 馬車の中の惨状に気を取られていたレミントンの耳に、トンッと何かを蹴るような軽い音が届いた。その音は馬車の天井から聞こえたもので、音と同時に馬車がわずかに揺れる。


 それは間違いなく暗殺の実行犯の足音。逃亡に不利な大剣をそのままに、馬車を飛び下りたのだろう。


(このまま逃がしてなるものか!)


 レミントンは慌てて周囲の気配を探った。


 囮役と実行役、その他に数名の気配が感じ取れる。


 そこでようやく囮役となっていた男のことを思い出して、レミントンは悔しげに歯噛みした。


(クソッ! あまりの事態に混乱していたとはいえ、何たる失態! あんな危険人物から目を離すなど……)


 この状況で落ち着いていられる者などそう多くはいないだろう。ましてやレミントンは剣の腕も知性も確かだが、ここ数年は血生臭い戦も襲撃もなかった。平和な空気に浸りきった騎士が、警戒していたとはいえ、突発的な危機に冷静に対処できるはずもないのだ。


 だが、その混乱の代償のほとんどは、すでに支払われていた。


 そのことにレミントンが気付いたのは、周囲の気配の数に違和感を覚えたからだ。


(気配が少ない……? 護衛の騎士は馬車の中の一人を除いて、残り七人はいるはず……)


 馬車の外はやけに静かだった。


 夜もとっくに更けているのだから、静かなのは当然のこと。


 だが、今、この時においては、この静寂はあまりに異常だ。


 馬車を背に神経を研ぎ澄まし、味覚以外の五感を全て強化して周囲の様子を探る。


 耳が痛くなるほどの静寂。


 ピリピリと肌を突き刺すような空気。


 周囲を満たす死の臭いが満ち、魔導灯の明かりに照らされる街は、圧倒的な赤と絶望に染まっていた。


「馬鹿な……いつの間に……?」


 レミントンの位置から見えるだけでも、倒れている者が四人。全員が同じ騎士服を身に纏い、全員がその身を血に染めていた。暗くて詳しい傷の深さまではわからないが、流れ出た夥しいまでの血の量を見れば一目でわかる。


 全員死んでいる、と……


 そして、その凄惨な光景は馬車を挟んで反対側も同じだろう。人の気配が全くしないのだから。


 生きた人間の気配は、馬車の前方に二人と後方に二人。あとは馬車の中の侍従と騎士のものだけだった。


(侯爵を殺害した暗殺者には騎士を襲っている時間はなかった。つまり、七人の騎士をたった三人で全滅させたというのか……それも音も出さず、声も出させずに……)


 いくら突然の事態に混乱していたとはいえ、王国の精鋭である騎士をこんな一瞬で音もなく葬る。それは囮役だった男以外の襲撃者も、並外れた実力の持ち主だということだ。


(それほどの実力者達が王国に牙を剥いているとは……何としてもこの場を切り抜け、城にこの情報を伝えねば……)


 デリシャール子爵暗殺の際には、暗殺犯は少なくとも七人以上で、護衛を数で上回っていると思われていた。それは六人の私兵が護衛時の配置からほとんど動くことなく殺されていたのが分かったからだ。


 しかし今回の暗殺犯たちはわかっているだけで四人だ。仲間はまだいるだろうが、それでも見立てよりも少ない実行人数と、予想を遥かに上回る圧倒的な実力。


 騎士団にこれらの情報を持ち帰り、早急に対策を練る必要がある。


(気配は四人。全員が実力者だろうが、あの囮役だった男だけは何としても避けたい。ならば後ろへ――)


 だが、そのレミントンの目論見が果たされることはなかった。


 何故ならレミントンが動き出そうとするその瞬間に、その胸を鉤爪状の四本の刃が貫いていたからだ。


 その背中から胸へかけて、真っ直ぐに――


 無警戒だった背後から突き刺された刃。レミントンの背後には当然、大剣に貫かれた馬車しかない。


 つまり、この攻撃は馬車の中からのもの。


「な、ぜ……」


 信じられないというような表情で、肩越しに後ろを振り返ったレミントン。


 そこには今の自分と同じように胸を貫かれた最後の騎士の死体。


 そして、その右手に鋭い鉤爪を着け、レミントンに向かって真っすぐにその腕を伸ばす侍従の姿があった。


 その侍従は侯爵に何年も仕えてきた女性だ。侯爵の護衛についてから何度も言葉を交わしてきたが、その優しい人柄にはレミントンも好感を持っていた。


 そんな女性が何故、自分を殺そうとしているのか。それがレミントンには信じられなかった。


 背中からゆっくりとその刃が引き抜かれる。


 噴き出す血をその身に浴びながら、その侍従が最後に小さく呟いた。


「これでさよならニャ」


 その声は、今までに何度も耳にした侍従の声とは似ても似つかない、可愛らしい女の子の声だった。


 そんな死者を天界へ導く天使、あるいは悪魔のような声を最後に、レミントンの意識は深い闇へと沈んでいった。


本日23時過ぎに、もう一話投稿します。



感想、ご意見、誤字脱字の報告等いただけると幸いです。

ご批判なども真摯に受け止めさせていただきます。

よろしくお願いいたします。

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