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盗賊強襲

殺人シーンがあります。

苦手な人はご注意を……

グロ描写はありません。

 下卑た笑みを浮かべた男達が林の影から次々と姿を現す。その手にショートソードやダガー、短弓を持ち、リオン達を囲むように広がっていく。


(人数は十五人。林の方にまだ二人隠れているが……こいつらよりは気配の隠し方が上手いな。気配は感じるが、大体の方角しか特定できない)


 こちらの四倍以上の人数に囲まれているというのに、リオンは特に慌てたりはしない。冷静に状況を分析する。他の三人も同様で、慌てた素振りなど微塵も見られない。


(こいつらはただの雑魚だな)


 盗賊の接近には少し前から気付いていた。盗賊もリオン達に気付いてからは気配を消そうとしていたようだが、そもそもリオン達に気付くのが遅すぎる。おまけに気配の消し方も下手で、盗賊たちの動きを察知するのは容易だった。気配察知、遮断能力は下の下だ。


 さらにはリオン達が武器を持っているというのに、子どもだからと油断して堂々と姿を晒す無能っぷりだ。動作の一つ一つも雑。数にものを言わせるだけの盗賊の典型ともいえるような連中だった。


(隠れている二人さえ気を付ければ問題はないな。まだ近くに来ていないだけで、他に仲間がいるかもしれないが……まぁそれはこいつらから聞き出せばいいか)


 状況を冷静に分析し、今後の方針を立てる。


 盗賊たちと違い、リオン達は雑魚を相手でも油断などしない。戦いの場ではちょっとした油断が命取りになることを、先生から嫌というほど教わってきたのだから。


「ダメじゃねえかガキども。こんなところにガキだけでくるなんてよぉ」

「ちょっと戦えるようになったガキが、調子に乗って腕試しに来たってところか」

「そんなガキ共には俺たちが世の中の厳しさを教えてやらないとなぁ」


 実に小者くさいセリフを口にしながら、リオンの正面に立つ盗賊たちが笑い声を上げる。


(テンプレなかませ犬って感じだな。どこの世界も盗賊ってのはこんなもんなのか?)


 自分達の優位を疑わない盗賊達に内心で呆れかえるリオン。今のうちにさっさと斬ってもいいのだが、別に慌てるような相手でもないので、とりあえず言わせるだけ言わせておくことにした。


「てか、こっちの女はスゲエ美人だぜ!」

「エルフみたいな上玉だ!」

「こっちの狼の獣人も中々だぜ。ガキだけど」


 ティアとミリルを見た盗賊が興奮した様子で大声を上げる。特にティアは十三歳ながらかなり大人びた容姿をしているので、盗賊にも人気らしい。特にその成長著しい胸元に注がれる視線が多い。


「よかったなティア、美人だってよ」

「こんな人達に褒められてもちっとも嬉しくないわよ、ジェイグ」

「ミリルも人気みたいだな」

「気色悪いこと言わないでよリオン。こいつらと一緒にあんたも撃っちゃいそうだから」

「何をゴチャゴチャと言ってやがる! この状況がわかんねぇのか!?」


 いつも通りの四人のおしゃべりに盗賊がイラついた様子で声を荒げる。


 不意打ちをせずに姿を現したのは、リオン達が怯える姿が見たかったのかもしれない。下種の考えだが、数の暴力という力に溺れた連中が辿り着く快楽の一つなのだろう。だからこそ、怯えるどころか落ち着いた様子で軽口を叩くリオン達に怒りを露にしたようだ。


「ビビって頭がおかしくなっちまったんじゃねえのか?」

「なんなら今すぐ腕の一本でも斬り落としてやろうか?」

「おい、女はやめろよ。腕のない女なんて犯す気になれねぇ」


 リオン達の余裕な態度を見ても、自分たちの優位を全く疑っていない。そろそろティアとミリルの不快指数も溜まっているみたいなので、そろそろ黙らせようか、とリオンが刀に手をかけたところで事態は動いた。


 林の中に残っていた二人が同時に動く気配がしたのだ。このタイミングで動く理由はわからないが、弓や短刀が飛んでくる可能性もある。


 リオン達四人が周りの盗賊に気付かれないように気配の方に視線を向ける。


 そして、全員が固まった。


「この悪党め! オレが成敗してやる!」

「リオン達に手を出すニャー!」


 双剣を手にしたアルと、鉤爪付きの手甲を着けたファリンが林の中から颯爽と飛び出し、盗賊達に突進していったのだ。


 盗賊達が全員ギョッとした顔でアルとファリンの方へ振り返る。今なら完全に隙だらけだが、正直リオン達も今はそれどころではない。


「アル!? ファリン!?」

「何であいつらがこんなとこにいんだよ!?」

「知らないわよバカ!」


 慌てた様子で叫ぶティア達三人。盗賊の出現にも一切動揺しなかった三人だが、アルとファリンの登場には度胆を抜かれたようだ。


 リオンもかなり驚いたのだが、それでも頭はどうにか冷静に状況の分析を始めている。


(朝から姿を見なかったのはこういうことか。三人も慌てているようだが、それは盗賊も同じ。一対一の実力ならアル達の方が上だが、この数を相手にするのはさすがに無理だ。なら……)


 アルが盗賊の一人に斬りかかる。完全に不意を突かれた状態だが、盗賊の方もなんとかショートソードでそれを受け止める。


「まだまだぁっ!」


 だが、アルが持っているのは双剣。一本を止めただけではどうにもならない。


 左手の剣を横薙ぎに振るい、盗賊の胸を斬り裂いた。


「ぐあッ!」


 胸を斬られた盗賊が苦痛の声を上げて背中から倒れる。その横を素早く駆け抜けたアルが、次の盗賊に迫る。


「このガキィ!」


 二人の登場に呆気にとられていた盗賊達もようやく復活したのか、猛然と向かってくるアルとファリンに迎撃の構えを取る。


 だが……


「やらせるか!」


 誰より早く動き出していたリオンが、短弓を構えていた盗賊の首を刎ねる。返す刀でダガーを構えていた男の腕を斬り落とし、離れたところでファリンに短刀を投げようとしていた盗賊に氷の矢を放った。氷の矢は狙い違わず盗賊の首や腕に刺さる。持っていた短刀は弾かれ、首を貫かれた男は何が起こったかわからないといった顔で、力なく横に倒れて絶命した。


「三人とも! 詳しい話はあとだ! まずはこいつらを!」


 困惑していたティア達三人もリオンの声で我に返り、それぞれが武器を構え、盗賊へと向かっていく。


 リオンはそれを横目に見ながらも、次の標的に狙いを定める。アルとファリンが狙われないように、飛び道具を持った盗賊は先に片づけた。次は二人に近い盗賊を狙う。


 アルとファリンもそれぞれが一人ずつ盗賊と対峙していた。


 ファリンは丁度、盗賊の一人をその鉤爪で斬り裂いたところだ。さらに邪魔だと言わんばかりにその盗賊を横に蹴り飛ばし、次の盗賊へと向かっていく。蹴り飛ばされた盗賊は数メートル先にバウンドしながら転がり、そのまま気を失ったようだ。


 アルは両手にナイフを構えた盗賊と斬り結んでいる。縦横無尽に放たれるアルの攻撃に、盗賊の方は防ぐだけで手一杯だ。徐々に防御も追い付かなくなってきたのか、アルの刃が盗賊の体に浅い傷をつけていく。アルの勝利は目前……のはずだった。


 アルの後ろで、顔を憤怒で染めた盗賊の一人が起き上がりさえしなければ。


 それはアルが最初に倒した盗賊。斬り裂かれた胸から血を垂れ流しながらも、鬼のような表情でアルの背中に迫る。


「アル! 横に跳べ!」


 リオンの切迫した声に反応したアルが、攻撃の手を止め、大きく地を蹴る。その直後、寸前までアルの背中があった場所に、盗賊の剣が振り下ろされた。対象を失った剣が激しく地面を打つ。


「このクソガキがぁ! ぜってぇぶっ殺してやる!」


 憎き相手を殺せなかったことで、余計に怒りが増したのだろう。まさに怒髪天を衝くといった表情でアルに追撃をかける。


 咄嗟の回避でバランスを崩したアルに怒り狂った盗賊の剣が迫る。


 だが、リオンがそれを許さない。

 アルと盗賊の間に割って入ったリオンが盗賊の剣を受け止める。


「邪魔するなこのガキィ!」

「悪いがアルはやらせない。大事な弟分なんでな」


 受け止めた剣を難なく跳ね返すと、そのまま返す刀で盗賊に一閃。肩口から斜めに両断された盗賊の体がゆっくりとズレ落ちていく。怒りに染まった顔のまま、盗賊の目から光が失われていった。


 尻餅をついたアルを背に、油断なく辺りを見回すリオン。先ほどまでアルが戦っていた両手ナイフの盗賊はミリルの銃弾を額に受けて、すでに死んでいた。その他の盗賊もティアとジェイグの手によって全て片付いている。


 それを確認したリオンは小さく息を吐く。予想外のアクシデントはあったが、無事盗賊を討伐することができた。


「大丈夫か、アル?」


 振り返り、尻餅を着いたままのアルに手を差し出す。色々と言いたいことはあるが、とりあえず全員無事だったのだ。他に盗賊の仲間がいるかもしれないので油断はできないし、盗賊達の後始末もしなければならないが、ひとまずアルを起こすのが先だ。


「ありがとうリオン」


 素直に礼を述べて、リオンの手を取るアル。結構追い込まれたというのに思いの外元気だった。戦いの後で興奮しているだけかもしれないが。


「やっぱりリオンは強いな~。盗賊なんて全然相手にならないもんな」


 立ち上がったアルがキラキラした目でリオンを見上げてくる。どうやらアルの好感度が上がったようだ。別に嬉しくないが。


(やっぱりとか言うなら、下手に飛び出してくるなよ)


 内心でため息を吐きつつも、特に何も言わないリオン。お説教なら自分よりも適任なお姉様ズがいるので、そちらに任せることにしたのだ。リオンは討ち取った盗賊の後始末をすることにする。ジェイグもリオンと同じ考えのようで、リオンの許へと歩いてきた。


「とりあえず死体は一か所にまとめて、埋めるか燃やすかしねえとな」

「ああ、そうだな。アンデッド化するのもそうだし、血の臭いで魔物が押し寄せてきても面倒だしな」


 魔物も人間も死体を放っておくと、稀にアンデッド化して人を襲うようになる。魔力は低そうなのでゴーストとかにはならないだろうが、スケルトンやゾンビになる可能性は十分にある。アンデッドは仲間を求めて人里を襲うこともあるので、死体の処理は必須だ。


「盗賊討伐の証拠として、こいつらの持ち物とか持ち帰る必要があんな。気は進まねえが、死体をまとめるついでに身ぐるみ剥がしておけよ」

「了解。あと、ファリンが蹴っ飛ばした奴はまだ息があるみたいだから、他に仲間がいないかも聞き出しておこう」


 着々と後始末の方針を決めるジェイグとリオン。それは必要な処置だという理由が一番なのだが、もう一つ大事な理由がある。


 それは……


「さて、それじゃあどうして二人がこんなところにいるか教えてもらおうか」

「アル、ファリン……そこに正座なさい」


 思わず全力で逃げ出したくなるくらいの怒りのオーラを纏ったお姉様ズが怖いので、近寄りたくなかったのだ。自分が怒られるわけじゃないのに、本能的に目を逸らしてしまう。


「ミリル姉、これには深~い訳が……」

「ティ、ティア? さすがにこんなところで正座は勘弁してほしいかニャ~って……」

「「座れ(りなさい)」」

「「は、はい!」」


 シュバッ! と一瞬で着座する狐耳と猫耳コンビ。尻尾が垂れさがり、耳が恐怖に震えているのが実に哀愁を誘う光景だが、もちろん口出しするつもりはない。危ないことをしたのは紛れもない事実なのだから。


 こうしてリオンとジェイグが盗賊の後始末を終える三十分の間、お姉様二人のお説教タイムは続いた。二人の背後にブリザードと雷雨の幻覚が見えたのは、きっと気のせいではないだろう。


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