第一話 悪役におっさんはテンプレなのか?
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悪役。よく物語上で、やらかすキャラクターである。ヒロインを拉致したり、武闘会やら大きな大会を潰そうとしたり、街を爆発させて火の海にしようとしたり。
だが、勧善懲悪というものがある限り、悪党は倒され続ける。
倒されることによって、その物語の主人公の存在感がより鮮明になるのだ。
だから地味っぽく見えて、物語の全てを創っていると言っても過言ではないのが、悪役だ。
そんな悪役を、俺は数々の異世界でこなしてきた。
ほぼ地獄だったけど。
「どうだ? かっくいいだろ、悪役。少しは続けてくれる気になった?」
不思議と、跳躍感を覚えさせられる空間。
地は海より溢れんばかりに注ぎ込まれた水で支配され、空はただ深い、深い霧に覆われている。
周囲には色とりどりの色彩が交差しあい、絶妙な雰囲気を作り上げている。
そんな所にたった二人の人間が、捨てられたかのようにそこに佇んでいた。
何処に行っても不憫なほど目立ちそうな、壮麗な金髪を波打つようにそよがせている少女。
純白な薄いワンピースであり、これが毎日の私服だ、と言わんばかりに着こなしている。
名前は教えてくれないから、少女とか彼女で俺は言い表してる。
「ふざけんな! どれだけたくさんの異世界でやらかしてきたと思ってんだ! 欺瞞も大概にしろ!」
そして、いかにもその少女とは対照的に、すっごい庶民感溢れる黒のジャージを着る、超セロリー人なのは俺。
名前はまだ無いというより思い出せない。
「でも、やってくれないと困るんだよねーこっちは」
本気で困惑、というよりも謀っていそうな不気味な笑顔に背筋に悪寒が走った。
正直気持ち悪さが半端じゃない。
立ち込める霧のお陰で、不気味さはよりいっそう増し、俺の恐怖感を刺激した。
しかし! ここで易々と引き下がれるかっ!
「だ! か! ら! 違うんだよ! 俺が望んでいるのは、異世界に転移してよくラノベタイトルにある! こう……ハーレム的なの作りたかったし! めちゃくちゃ強い主人公にもなりたかった! それが何!? 魔王になったり! 変な能力もったり! キモ豚になったり! ただの気色悪い出勤終わりのロリコン変態超異能力者会社員になったり! もう意味わからねぇよ! 俺は、もう止めてどこかに行きたいんだ!」
不満をできるだけ大爆発させ、激越な感情に身を任せた。
本当にふざけてる。悪役ならもっとかっこいい役をくれよ本当に。おっさんばっかりじゃん。
モチベーションあがらねぇよ…。
「だって、もうこれ決められたことだし。第一、どっか行くっていっても、この空間から出られると思ってる? ましてや本の記憶しかない君は外界で生きていけるの?」
「それでも! 俺は戻りたいんだ!」
「ふーん、それでもいいけど、君をこんな空間に呼んだ輩は、何を言うんだろうねぇ」
「う…」
俺は悔しそうな顔をして、彼女から横に視線を逸らした。
そう、自分が生存していた世界での記憶はもう無い。名前も、思い出も、家族も。
それに最近では存在していたのかすら疑うほど。
その為か、与えられる異世界での悪役の二つ名や、普通の外人ぽい名前に幸福感というより、満足している部分もあった。
「それに君がやっているのはただの悪役だし、別に流れてくる台本どうりに動けばいいだけじゃないか。それに何の不満があるっていうの」
そう言って彼女が足を組むと、水に波紋がはしった。
彼女の言うことはなんとなく分かる。
俺だってこれまで、その台本に従ってやってきたし、様々なピンチだって切り抜けてきた。
だから否と批判はできない。
台本は、とても細密なことが書かれているんだ。異世界のこと、行動のルート。行動のルートこれが一番に大事だ。
異世界で活躍する主人公に伏線を張りに行く。
それはできるだけ自然に、関わってくるように仕向けなければならない。本来なら難しい作業なのだが、もう結構なれた。
「悪役っていうのは本当に物語がある過程で大事なものなんだ。君だってもしも主人公や物語の読み手とかになってみな? 可愛いヒロインとイチャイチャして終わりとか後味悪すぎでしょ?」
彼女は微笑を浮かべながら、俺に問いかける。
「だから、その悪役を主人公に倒させて読み手とかに浄化要素とかを与えるんだろ? ていうかそれってバトル系だけに限られてるじゃないのかな……」
声は自然と段々沈んでいってしまっていた。
その弱々しい声に好機と思ったか、彼女はたたみかけてきた。
「そういう訳だしね。それに、こんな様々な世界に繋がる分岐点ともいっていい空間があるんだよ? 例え、悪役だとしても野望のパラダイスランド無限にいけるんだからいいじゃん」
パラダイスランドねぇ。
ただ、殺されるだけの俺にとってはヘルランドだけど。そのヘルランドでも沢山の疑問もあるけど…。
……一応聞いておくのもいいか。
そう思って、逆に俺は問い返した。
「……俺はさ、なんで悪役なんてやらなきゃいけないんだ? 自制心を失って、己が欲望の為ならば同じ同類の人間でさえも躊躇うことなく殺す。そんな奴らに、なんで俺がならなきゃならないんだよ」
何故、手が綺麗だった人間がわざわざ汚しにいかなければならいんだ? 俺は相手に何の恨みも抱えていないのに、殺すのが”俺”なんだ?
憂鬱だった日々にずっと疑問を覚えていた。
俺は、一番人間らしい人間が大嫌いなんだ。
「それは君が、人形だからだよ」
「…………」
彼女はそれしか答えない。何も教えない。
訪れた沈黙と同時に、空間の何処かで水が滴る音が耳に反響した。
やっぱり、こいつにいっても無駄だったか。
大きく溜息をついて、この空気に身を寄せた。
しかし、こんな呆れた態度を他所に彼女はずっと微笑を浮かべ続けていた。
「それは置いておいて! 舞台の話しするよ」
ずっと、俺の虚をついて満足したのか、彼女はその一言で沈黙を掻き消した。本当に調子狂うわ。
「…そうか、頼む」
諦めよう。ここであーだこーだ言ってはいられないからな。そう思うと、俺は足を崩して座り込んだ。
……仕事の時、彼女は異世界のことを舞台という。
何故かは分からない。だけど、俺をただの操糸人形と、みている彼女にとっては都合の良い言い方なのかもしれない。
すると彼女は、親指で縦に一本線を描く様にしてスライドさせる。
四角形に火花が飛び散り始め、俺の目の前に縦、横が均等な10mほどの巨大なスクリーンが登場した。
空間摩擦で次元から映像を持ってくるらしい。風貌などを事前にチェックしておくことで、どんな人間かということを見るのも、演技の重要な部分だと思う。
ていうか本当に何者なんだこの娘。
パチンと少女が指を鳴らすと、映像が映し出された。でけぇ。
そこには見た目と身長からしてまだ小学生ぐらいか? そしてボロボロの絹の服と、一枚の薄いマントを羽織った少年が、木と草が尋常ではないほどに生い茂る、森の中を駆け抜けていた。
瞳は綺麗な紅の三白眼で、気が抜ければ見惚れてしまいそうだ。
「この子。マールス・ベリール。通称墓荒らし、ヴァンダリーズとも言われてるんだそうだよ。今回はこの子を演じてもらうよ」
お、やっとおっさんの呪縛からは解放されたか。
少年の悪役…何か複雑だが仕方ないな。
ちょっとまた男なのは、心残りがあるけど、少し安堵した。
あ、待って、でもまだジレンマあるわ。
「でも墓荒らし?俺幽霊とか骸とか嫌いなんでNG」
「あ、そう? なら」
「いや止めろよ!!!!」
流石すぎる軽妙な判断に、直ぐさま突っ込みを入れる。
もっと、粘着力あってくれよ。
まぁ、話しの繋留を遮断してるの俺だけど。
「で、どっちなのやるのやらないの」
手を腰にあて、非常に呆れた様子でこちらに視線を向けて問う。
確かにこんな役は日食ぐらい希少なものだからなぁ、ここで妥協はしたくない。
「はいはい、やるよやります」
「よろしい! 潔い人は好きだよ」
脱力感の籠った声で、俺は返事をする。
金髪少女に好きと言われると異様な興奮を覚えるが、こいつだけは何故か興奮すらしない。
やっぱりこういう時も憂鬱だ。
勝手に他者が、望みもしていないのに俺に悪役の台本を渡して去って行く。何なんだ。一体。
「それじゃ、説明始めるね。まずこの異世界の世界観を端的に言うと、魔法と騎士の世界だ」
あーうん。よくあるやつだな。
こう、ダーク系のものなら魔女狩りとか、学園モノなら、大会みたいなものがあって、勝たないと学園を辞めさせられるとかそんなんでしょ?
そこで主人公無双するやつ。
分かるよ。
「この物語の主人公は最終的に冒険家になる予定らしい」
えっ
「騎士と魔法の世界なんだけど、なんか本物の主人公の話しはもう20年ぐらい前に終わっててその息子の話しらしいよ。まぁ、小説とか本でいう番外編と思って。まだ君にはそのレベルから慣れていってほしい」
う、うん。何か、喪失感が半端じゃないねこれは。
終わってた? いやいや、それは無いよ。
だ、だって前のおっさんの時だってちゃんとした主人公と真っ向勝負してたじゃん。
いや悪役だから当然負けたし、目的だった殺しなんて全くもってできなかったけど。
だけど、やっぱりその主人公とは何か因縁的なものがあるはずだ。
「墓荒らしは、単なる復讐者。主人公の父親に、正義と正当化されて無慈悲な理由で親も兄弟も殺されてる」
「! そ、そうなのか」
俺は重く、顔を下に俯けた。
何故か、拒絶してしまう部分がある。
復讐者…その類の話しでハッピーエンドなんてあんまり見たことが無い。
本当にベリールという少年は、その世界の主人公を殺せば、気がすむのか…。
鮮やかだった色彩は、俺の心を見透かしたかのように、漆黒で塗りたくられ空間は暗闇に覆われた。
漂っていた霧の存在がよりよくはっきりと見える。
そんな俺を、金髪の彼女はただ虚ろな目で見つめる。闇の中でも、髪と同じ金色に輝く瞳は光を明晰に放っていた。
だけど、あいつに感情的な目で見られるなんて当分先だろうけど。
やっぱり、なんか空虚なんだよな。
こう、まだこんなやつ認めるか! みたいなこと言っておいて最後には逆にベタ惚れするような。
…違うか。
なんて考えていると、どうやらもう時間がないようだ。
「さて、時間ないから飛ばすよ。どんなことをするのかは向こうで伝える」
「あ、あぁ。頼んだ」
詳細な情報は向こうで伝えられるようになっている。何故なら、彼女がそうしろというので仕方なく俺がそうしているからだ。
すると彼女は、魔法使いが魔法を唱えるかのように、右手を左上に振ると、円状の物体が現れ、俺の周りを飛び出す。
縫われるように自らの手足が拘束されると、意識が途切れ始めた。
ーーいってらっしゃい。成功を祈るよ。
彼女は、そういうと仕事へ行く夫を玄関で見送るかのように、笑顔で手を振ってくれた。
こういう所は可愛気あるくせに。
そう思っていると、俺の視界は凄絶な白い閃光に包まれ空間ごと消失した。
気がつけば、次元を飛んでいた。
谷底に落下している気分。
もの凄い速度だ。
これなら、ジェット機ぐらい軽く超越できちゃうんじゃないか? というより次元の何処から吹き抜ける、強風の流れに遡行しながら落下してくのが気持ちいい。
だが本音は、本当はこんな次元まで渡って悪役を演じるだなんて真っ平ご免だった。
そして奥には一切と、光を拒み続ける漆黒の闇が俺をズブズブと飲み込んで行く。
そして体にも妙な変化がある。
何かに板挾みされるように、俺の体は細くなってゆくと同時に、髪の毛の根に妙な刺激が走る。
あれ? 伸びてる? あぁ、そっか。
異世界だもんな。髪の毛が長い男だっているにきまってるさ。
そしてどんどん身長も小さくなる。
最終的には股の間にぶら下がってるあの感触が消えてゆき、俺という存在はまだ一段階へと進化し未来を紡………。
ん……? 待って、これ、女じゃね…?