プロローグ
俺は死んだ。何事もなく唐突に。
孤独で一人ぼっちで、本が好きだった。
なんの特徴的なものもなく、秀でているものなんて一切とない。消極な人間だった。
そんな俺に神様は飽きたのか、呆れたのか、急に俺の人生という舞台の幕は閉じられた。
所詮、俺は神様が作った操糸人形だったんだ。
操糸人形を巧みに操作するには、確かに動かす人間の技術力や手捌きが重要になる。
しかし、操糸人形にも特徴的なものや、良い資質や性質をもっていなければ、観衆は振り向きも拍手すらも湧き起こらない、そんな役立たずは当然捨てるしかない。
俺は捨てられたんだ。
人間の欠陥品であり、賞賛すら送られない。
敗北者でもあった。
そして、誰にも看取られることなはかった。
轢き殺された?分からない。
刺し殺された?分からない。
砕け散った?……何がどうしてそんな考えになったのか、分からない。
死因すらも知り得ることは許容されなかった。
そして記憶も、完全に改竄されていた。
名前も、家族も、家も、職業も、思い出も、全て消され、ただ許され残されたのは、物語やファンタジー、ライトノベルが大好きだった記憶。
そんな粗末で、握れば直ぐに粉々になる程度のものしか、”権限”として持たせられなかった。
害悪、そんな悪趣味な言葉まで投げかけられたこともある。
苦笑してしまう。
その言葉、まるで今の俺にはぴったりな台詞じゃないか。
「そうだよ。君は、負けの審判がでても、舞台で不乱に戦い続ける害悪な敗北者。敗北者らしい舞台を貴方に与えるね。さぁ、私と来て、これから君に適任なもの。異世界での悪役を演じてもらうよ」
誰だ? こんな自虐的なものに共感持つ外道は。
そこに不意に現れたのは、俺とは全くの逆物。
勝者らしい笑みと風貌を掲揚した、一人の女の子だった。
金色の髪を燦然と輝かせ、うつ伏せになる俺を、まるで貧相な弱者を憐れむ目でこちらを見ている。
……なにこの傲岸そうに、慚死してる胸を張ってくる金髪ロリババア。
と思った瞬間に、俺は無の境地から、色とりどりの色彩が支配する謎の空間へと放り込まれた。意識は朦朧とし、ただ衝動的に味合わせられる苦痛と屈辱感。
猿轡をされているかのように、反抗も剰え動く事さえもできなかった。
「悪役を”演じる”のは楽しいよ。貴方は望みの世界でまた新しい人形として、舞台劇に立てるんだから、神様に感謝してね」
そして俺は、また今度こそ永遠と救われもせず、報われることもない世界へと、足を踏み入れた。