表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

同級生の君は飴色の目をしてる

作者: 沽雨ぴえろ




『どうしたの』



私が明頼くんと出会ったのは、一週間前の高校入学の日の朝だった。

あの日は、高校の入学式に遅れぬよう、考えていたよりも早く家を出た。そして、まあ案の定道に迷った。

試験の時以外行ってないから仕方ないと言いたい。

まあそれは置いておくとして、迷った私は途方に暮れて立ち止まってしまった。

そこに現れたのが、明頼くんだった。

低いのか高いのかよくわからない、けれども心地良い声色で、明頼くんは後ろから私に声をかけた。



『え、』


『どうしたの、君、俺とおんなじ学校でしょ?迷ったの?』


『あ、うん』


『…そっち、反対』


『……』


『…ほら、一緒に行こう』



彼は黙り込む私に、そう誘った。

もう、恥ずかしくて恥ずかしくて、顔をあげられなかった。耳が熱くなるのを感じて、小さく頷いてから、明頼くんの後を付いて行った。



『君名前は?』


『…緒川おがわです』


『緒川さん、ね。俺、明頼優あきよりすぐる


『…明頼くん、あの、ごめん、ありがとうね』


『あぁ…いいよ、ここら辺脇道多いし』



とぼとぼと歩きながら、自己紹介をして。行き先が同じとはいえ迷惑をかけたことに変わりはない、だから謝って。

それで、会話が途切れた。

もともとコミュニケーション力の高くも低くも無い私だから、話を繋げて盛り上がらない事を危惧して声を出さなかった。というより、初対面の人の場合、こうなるのがほとんどだと思う。

会話をする代わりに、斜め前を歩く明頼くんを見上げて、観察した。

いや、失礼なことは分かっていたけれど。

…明頼くんは、綺麗な顔をしていた。

青いプラスチックのフレームをした眼鏡をかけていて、前髪は真ん中で分けられている。短い髪は清潔に見えるよう短めで、頑張っても結べないな、これは。

スラリとした体は、実際は分からないけど、パッと見筋肉なんて無さそう。でも、しなやかで柔らかそう。身長も私より頭一つ分高い。…男子の中では小さいのかな?分からないや。

じっと見つめていたのが悪いのだろう、少しして明頼くんは眉を寄せながら振り返った。

明頼くんの飴色の目とパチリとあって、どきっとした。



『あの、なに?』


『あ、』


『ゴミでも付いてた?』


『いや、その、か…観察?』


『…観察?』


『……ごめん』


『え、いやなんで?楽しいの?』


『んー、そこまで?』


『なぜ観察した…』


『なんとなく』


『即答なの?』



観察していたことを言うのは気が引けたけど、明頼くんが話を振ってくれたので会話ができた。明頼くんは会話のテンポがいい。思わず話の流れに笑ってしまった。

そこから、普通に喋れるようになった。明頼くんのお陰に違いない。



『緒川さんどこ中出身?』


『私?西稲。明頼くんは?』


『俺はここの近くの遠野中。ていうか、え、緒川さん西稲なの?え、遠くない?』


『あー、遠野かぁ、テニス強いよね。電車通学ですからねぇ』


『テニス?へー、そうなんだ』


『いやいや、自分の中学校でしょ?』


『興味なかったからなぁ…。電車通学?高校生って感じで羨ましい』



なんて会話をしていれば、あっと言う間に高校に着いた。楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまうとはこの事だと思った。

初対面の人相手に沢山喋ったなぁ、とホクホク顔でいれば、とんとん、と肩を叩かれた。



『クラス、見に行こう』


『そうだった!』



二人して、今度は並んで昇降口に歩いて行った。同じクラスかな、どうだろうね、なんて会話をしながら、クラス表示の紙を見上げた。

私の名前は五組に、明頼くんの名前は六組にあった。



『クラス分かれたねぇ』


『そうですねぇ』


『明頼くん、席どこらへんだろ?』


『あ行だから最初の方だよ、たぶん』



クラスが分かれたことにほんの少しがっかりしながら、ほのぼのとした会話を繰り広げつつ、私たちは各々の教室の前に着き、じゃあね、といって二人して自分のクラスに入って行った。




これが、私と明頼くんの出会いと、その日の会話。







■■■■■■■■■■




「花ぁー!体育、今日初めてだね!!」


「うわっ!ちょ、和美!椅子揺らさないでよ!」


「だって体育楽しみなんだもーん!高校の体育ってどんなのやるのかな?うわ、超楽しみ!!」


「変わんないと思うけど…」



和美は、私と同じ西稲中出身で、体育とか体を動かすことが大好きだった。いまもだけど。

ガタガタと椅子が揺らされるのを感じて、うー、あー、と言いながら身を任せた。



入学式の日以来、私は明頼くんと話していない。



明頼くんとはクラスが違う事が一番の理由だ、たぶん。あとは、まぁ、とことん会わない。遭遇率が物凄く低い。あっても、ちらっと後ろ姿を見るくらいだ。その度に、ドキドキした。せっかく友達になれたから、また話したりしたいなぁなんて考えていると、ちょんちょん、と肩をつつかれた。



「花?どーしたの?」


「、ん?あぁ、いや、せっかく友達になれたから話したいなーっていう子がいるんだけど、全然会わないなーって思ってた」


「そうなの?何組の子?」


「隣ー」


「え?どっち?もしかしたら隣と体育合同かもよ、会えるかも!」



和美の一言に思わずそれだ!と思ってしまった。

そうか、体育か。それがあったか。



「合同だといいねー」


「ねー」



なんて、考えていれば。その日の午後、体育の一つ前の時間に連絡が回ってきた。



「五組ー、次の体育、六組と合同なー」



体育の先生。名前は忘れたけど、体育の先生。

あなたは神か。

私は名前も忘れた体育の先生に満面の笑みを向けた。気付かれなかったけれども。

後ろからとんとん、と叩かれて、和美がガッツポーズをとった。

私も同じくガッツポーズをとった。

私は晴れて、一週間ぶりに高校初の友達と話せるかもしれないという時間を得たのだ。







「和美!ごめん、先行ってて!鍵締め係なの忘れてた!」



鍵締め係、名前の通り係を締める係だ。この前の係決めでこれを選んだのを忘れていた。

私はまだクラスから出ていないクラスメートを外に出しながら、和美に叫んだ。



「ええ?いいよ、待ってるよ?」


「いや、いいよ、和美楽しみにしてたし。それに、私は係だけど和美は違うから、ペナルティとかあるんじゃない?」



和美は躊躇っていたけど、結局私が無理矢理先に行かせた。他の優しいクラスメートも残ると言っていたが、断って先に行かせた。

…ふむ、なかなか鍵が硬い。どうにかこうにか鍵を締め終えると、私は急いで体育館に向かった。



「すいません、係で遅れました」


「五組の緒川か、聞いたよ、係な。今はペアを決めてたんだ、今日は初めてだから、バレーを二人一組でやろうってな」


「ペアですか」


「男女どっちでもいい、ペア組めペア」



体育の先生に言われて、座ったり立ったりしている人達を見た。

もう既にほぼ出来ているらしく、二人で、だとか、四人で、だとか、偶数で固まっていた。

あ、これは和美も決まっちゃってるな、と直感的に思った。案の定、やっと見つけた和美は申し訳なさそうに眉を下げてペアの子と一緒に座っていた。

私は大丈夫、と片手を上げて、他に空いてる人はいないかと周りを見渡してみた。

……。

……いるのかな、ペア決まってない人?というか、今思ったけど、普通男女別々だよね?

入学式当日の時のように、私は途方に暮れてしまった。

とりあえず、ペアだペア。



「…女子いるかなぁ…」



とはいうものの、あれ、女子、ほぼ偶数で固まってないか?

ということは、え?

私男子とペア?



「まじか」



がいーん、と頭の奥で音が鳴るのを感じた。

あわよくば女子と交流を。…儚い夢だった。

男子とペアなら、明頼くん、と思ったが、いや、彼が売れ残っているわけが無い。

ちらっと和美の方を向くと、やたらと眉間を指さしていた。…あぁ、なるほど。知らず知らずの内に眉がよっていたようだ、私は眉間を伸ばそうと手を伸ばした。



「緒川さーん」



と、いうところで、少し離れた所から聞いた覚えのある男子の声がした。

驚いてそちらを見ると、やはりそこには明頼くんがいた。

明頼くんは軽やかに私の側に駆け寄ると、少し笑いながら私の顔を指さした。



「何やってんの?」


「しわを伸ばしてるの」


「……ぶふっ」


「ちょっと明頼くん?酷くないかな?」



私の返事に吹き出す明頼くんに、やっと話せたことへの嬉しさ反面、冷ややかな目線を送ってみた。ついでに抑えていた指を下ろした。

明頼くんはほんのりと笑みを浮かばせながら、後ろを指さした。



「俺のところさ、三人なんだよね。緒川さん一人なら俺と組まない?」



思わず目を丸くしたのは仕方が無いと思う。実に仕方がない。タイミングが最高だった。ペアがいなかったのだから。

ちょっとだけ、耳が熱くなった。



「いいの?」


「いいもなにも、まだ皆とあんま話してないからさ、話したことある緒川さんのが楽なんだよね」


「あぁ、なるほど。…うん、いいよ、私もペア探してたんだよねー」



この一週間は何だったのかと言うほど普通の会話をした。普通会わなかったら話し方忘れたりしないか?

まあ普通に越したことは無い。私は明頼くんと並んで座った。



「明頼くんクラスどんな感じ?」


「六組?んー、まだ分かんないかなー。緒川さんは?」


「五組は、んー、ほのぼのしてるかな、今のところ」


「へぇ、今のところ」


「そう、今のところ。これからどんな恋愛関係のどろどろが聞けるか楽しみだよ!」



そう返せば、明頼くんは顔を引きつらせて話を逸らした。なぜだ。恋愛関係のどろどろほど面白い話はないんだよ、明頼くん!



「そ、そういえばさ、今日バレーじゃん?緒川さん得意?」


「超得意だよ」


「………え?」


「ちょっと、今の間は何?!私これでも中学ではバレーのエースだよ!!」


「…え?!まじで?!見えなっ!!」


「明頼くん酷くないかなぁ?!」



良く言われるけどね。そりゃあもう、良く言われるけどね!そこまで驚くかな、ねぇ?顔地味だから?エースは可愛い子オンリーだと?

世界は可愛い子と綺麗な人で回る。そのとおりだと思う。大賛成。つまりは特に言いたいことない。



「ところで」


「あ、はい」


「なんでこの学校って男女で体育するの?」


「あれ、知らない?この学校、人クラスの人数が少なめなんだよ」



明頼くんに尋ねてみれば、そんな簡単な事だった。それにしても共同ってのはびっくりだけど、まあいいか。明頼くんと話せたし。友達とは長く付き合うものだからね。

と、いうところで。



「おーし、ペア作り終わったか?じゃあ各自準備体操、終わったところからバレーやっていいぞー。練習な練習!」



とのお言葉が。

私と明頼くんは顔を見合わせて。

私はニヤリ、明頼くんは顔を引きつらせた。



「ビシバシ扱いたげるよ、明頼くん」


「いや、その、お手柔らかにお願いします…」


「もちろん!…たぶん」


「ちょっ、」


「はい体操しようかー」



私はこれ以上無いくらいに爽やかな笑みを浮かべて、話をぶった切った。

透き通った飴色の目が焦りに揺れるのを見て、ちょっと楽しくなった。

必死に「絶対だよ?ねぇ、絶対だからね」なんて言う明頼くんを笑みでスルーしながら、さっさと一人で準備体操を終える。

未だに準備体操をする明頼くんを置いて、沢山あるバレーボールの中から二つボールを取り出し、明頼くんの元に戻る。

さっ、とレシーブを打つ振りをすれば、慌てた様に立ち上がる明頼くん。



「ちょっとまっ…!!」


「準備はー?」


「たんま!」


「え?オッケー?よーし行くよー!」


「た、ちょ、たんっ…!うをあっ!!」



話など聞かぬ。問答無用で明頼くんの足元を狙いレシーブを打つ。というか、いや、これアタック?まあいいか。

それはバウンドして明頼くんのお腹に当たった。



「びっ……くりしたぁ……!!」


「あははは」


「ちょっと緒川さん?!何打とうとしてるの、たんま!!」



飴色の目に焦りが浮かぶのを見て、私は手を止めた。

明頼くんは安堵のため息をついて、ボールを手にしながらしゃがみ込んだ。



「まじ焦った。これはエースだね、緒川さん」


「でしょ?」



その言葉にご満悦になっていると、先生に名前を呼ばれた。

明頼くんと顔を合わせて、首をかしげた。

ちょっと言ってくるね、と言い残し、先生の方に足を向けた。

…あれ?私注目されてないかな…?



「緒川ー、お前、ちょっと一通り見本見せろ」



まさかの見本。いいことづくめの後はこの仕打ち、神よ、私の神はどこにいる。

私は目立つのが好きではないので、少し躊躇った。だが、今ここに呼ばれた時点で、さらにいえば歩き出した時点で注目を浴びていることに気付いた。



「緒川、呼ばれた時点で、諦めろ」


「……」



先生は私の心を読んだかのように言って、笑いながらボールを差し出した。

やっぱりそうですか、と肩を落とし、私は渋々ボールを受け取った。

そこからは地獄だった。先生本当に鬼畜だった。

アンダー、トスまでなら分かる。だが何故わざわざレシーブ、回転レシーブ、アタック、永遠に続く一人アンダーをしなければならなかったのか。

私のエースの理由はコントロールが正確なことによる。今も正確に狙った場所にボールを当てたことで、何故かみんなに顔を青ざめられた。酷い。なんてことだ。



「おー、緒川素晴らしいな!見本ありがとなー、下がっていいぞー」


「はい」



ボールを持って明頼くんの横に座ると、明頼くんが苦笑してた。



「緒川さんコントロール良すぎでしょ」


「コントロールでエースはってたからねー」


「的にしないでね?」


「いや、流石にしないよ」



明頼くんは相当さっきのがトラウマのようだ。暫くは控えようと思う。

そこからはまた先程通りの練習に戻った。今度は私も普通のアンダー、トスを駆使して練習に励んだ。



「今日はここまでー。はい、お疲れさん、ちゃんと汗拭けよー」



先生は挨拶もそこそこに体育館を出て行った。

残された私達はのんびりと帰り支度をした。特進じゃないから、授業はこの時間で終わりだ。

ボールを片付けながら明頼くんと話していると、こちらに駆けてくる和美目に入った。



「花ぁー!!」


「え、ぐっはぁ!!」


「この人と知り合いなの?!いつからどこで関係は?!」


「か、か、かず…かず……」



突進して来た和美によけられず、女子らしからぬ叫び声を上げてしまった。その後も和美にガクガクとゆすられて喋ることが出来なかった。



「明頼くんと言ったら微笑みの明頼くんじゃないの!ねぇねぇねえ花っばー!!」


「…か、……」


「ちょーっと君待とうか!緒川さん死んでる死んでる」


「はっ!明頼くん!…はっ!花ああああ!!」


「い、生きてる…いきて、…」



とにかく揺さぶるの辞めて、顔死んでるのわかってるから。これ以上死んだ顔にさせないで和美。ちょ、ほんとに、まじで。






■■■■■■■■■■





「…………………あんた馬鹿?」


「うっ…」


「迷子?迷子ですって花さん?どこをどうしたら迷うのかしら?」


「いや、ほら、入り組んでてさ…?」


「駅から一本道だけど」


「………」



緒川花、ただ今絶賛説教中です。もちろん、教室で。なぜか明頼くんもいるけど。

明頼くんとの出会いを述べると、和美から絶対零度の視線が降ってきた。

…はい、認めます、高校生にもなって極度の方向音痴です。ごめんなさい。



「まあ、俺別に迷惑してないし、高校初の友達にもなれたし、むしろプラスだから、まあそのへんで」


「明頼くん甘いよ!そんなん言ってると花の送り迎えをずっとする事になるよ!!」


「え、いや大丈夫だよ!和美がいるんだもん、そんなヘマはもうしないさ!」



サムズアップしながら和美に言えば、美しい笑を浮かべられた。

あ、怖い。これは怖いぞ。



「私、部活入りたいんだけど、あんた高校入ったら入部しないって言ってなかった?時間合わないけど?」


「だっ、大丈夫だって!ほら、地図は読めるし!」


「……垣田さん、どうしよう、俺超不安」


「大丈夫、私もだから」



…何故私はこんなに信用がないんだろう?というか、二人共いつの間に仲良くなったの?友達の輪が広がっていってますな。

地図は読めるし、というのは本当だ。読めていた、はず、なのだ。

最悪ジモティな明頼くんに送ってもらえば、と和美が言い出したので、あんな恥ずかしいところはもう見せたくなかったので、断固拒否させてもらった。そのまんま言った、断固拒否と。

明頼くんは顔をひきつらせたけど、迷惑なのは分かってるし、地図も読める。大丈夫だ。

和美は不満そうな顔をしていたが、内心恋愛に発展しろなんて思っているに違いない。なんて言ったって和美も私と同類、もしくはその上を行く。

私が明頼くんと恋愛に発展なんてあるはずが無い。私も恋愛的に見ていないし、明頼くんだって、私をそんなふうには見れないだろう。

そんな事を思うと、何やらお腹と胸の間がグルグルした感じがした。なんだろう?

まぁ、なんだかんだあって、私は結局明頼くんなしで登校となった。








■■■■■■■■■■




[○○駅~○○駅~]



同じ高校の人がわらわらと電車から降りてゆく。私もそんな集団に混じって、ホームに足を付けた。

階段を上って、改札を出る。そこで私は端によって鞄から地図を取り出した。

スマホのなんて使っていられない。たまに画面が動かなくなったりするから嫌だ。

私はここ一週間降り続けた階段を降りて地図を広げた。

高校へは駅から一本道。…この白い線がここの道だろう。

私は地図を広げつつその道を歩み始めたが、ふと思い付いた。

他の生徒達についていけば良いのでは?

なんていいアイディアだ。私は一人頷くとテキパキと地図を折り畳んで鞄にもう一度しまい込んだ。

さぁ、いざゆかん!と顔を上げると、私はあっけに取られてしまった。


生徒が既にいない。


みんな足速すぎでしょう、あ、最後のひとりが角曲がった!…角?!一本道じゃないの?!

…だめだ、地図必要だ、だめだ。

私は顔をひきつらせながらもう一度地図を取り出し、歩き出した。



「……あれ?ん、ん?」



とても順調だった。いや本当に。なのに、何故ここまで来てこんな私を試すような別れ道があるというのか。

どちらもまっすぐと言える道が二本あった。綺麗なY字型でどちらを選べば良いかわからない。



「……………どーちーらーにー」


「緒川さーーーん!!!!」


「?!!」



もうこれは神頼みしかない。ここから先は神のみぞ知るのだ、と自分に言い聞かせて、私は指を左右に振った。

そうすると何故か、後ろの方で明頼くんの叫び声が聞こえた。体育館の時のようにどきっとしながら振り向くと、そこにはやはり明頼くんの姿があった。

…般若の顔でこちらに走ってきているが。



「あ、あれ、明頼くん、おはよう」


「…おはよ…はぁ、」


「どうしたの?走ってたけど…」


「いや、あれはさ、」


「ていうか明頼くんいえここら辺なの?」


「…んー、んー…」



息を整えながら明頼くんは挨拶を返してくれた。その事にほんのりと暖かくなりながら、明頼くんに質問をしてみた。

…結局どうなのだろうか、明頼くんははっきりとしなかった。



「まあ、うん。…あー、緒川さん一緒に行かない?ここまで来たし」


「うん、行こっか」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ