水
カエルがいた。
乾いた土にしがみつくように、それはじっとしていた。
近くに水辺があるのか。
平たく広がる大地を見渡すが、時折吹く風が砂を巻き上げるだけであった。
春だというのに新芽ひとつどころか、水一滴見当たらず、大地はひび割れていた。
それもそのはずだ。最後に雨が降ったのはいつなのか思い出せないほど、日照りは続いているのだから。
そのためか、カエルは憔悴しているように見えた。
私は水筒に残っている水を与えようと、カエルに手を伸ばす。
青い体をしたそれは一瞬身を固くしたが、逃げる気力もないのだろう。あっさりと私の手に捕まった。
右手で水筒を傾け、左手に乗せたカエルにぽつりぽつりと水をやる。
するとそれは嬉しそうに鳴き、口を開いた。
「ありがとうございます。おかげで元気が出ましたよ」
私はこの近くに水はないか、と尋ねる。
「わかりません。ここはもともと湖だったのですが、わずかに残った水も冬の間に干上がってしまったようですね」
その言葉に引っ掛かりを覚えたが、次の言葉で納得する。
「私は先日、冬眠から目覚めたばかりなのですよ」
なるほど。それならば、水がなければこの先苦しいだろう。共に探さないか。そう言うと、
「もちろんです。旅は道連れ世は情け、ですよ」
などと返す。ずいぶんと口達者なカエルだ。
私は苦笑する。
「さあ行きましょう。私の水が尽きるまで」
ああ、行こう。私の水が尽きるまで。
こうして私は、再び荒野を歩き始めた。
一匹の青いカエルとともに――。