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マリーと食いしん坊

 ぽよーん、とした印象を受ける間の抜けた声が聞こえた。

 そう呼び掛けられて、オットー・スコルツェニーは目を丸くした。

 厚手のウールのシングルジャケットを身につけた華奢な少女は、長い金髪をまとめて一本の三つ編みにしてジャケットと同じ灰色のベレー帽を被っている。


「どうかしたんですか? 少佐殿」

「あのね、ご飯食べに行きたい」

「……は?」


 スコルツェニーは親衛隊中尉で、マリーは親衛隊少佐だから本来は敬語を使わなければならない相手なのだが、どうも彼女の相手をしていると調子が狂う。


「あなたの部下を連れて行けばいいのではありませんか?」


 思い切り率直に応じた彼に、マリーは小首を傾げた。


「ナウヨックスは別件でお仕事頼んでて、マイジンガー大佐もベスト博士の命令で動いているからひとりじゃ出歩いちゃだめって言われて……」


 それで自分に白羽の矢が立ったということか。

 食が細いと有名な彼女の言葉に、スコルツェニーは目線を頭上に上げてから思案に暮れた。


「君はいろいろ危なっかしいからな」


 「君」と言ってから、スコルツェニーは我に返って口を片手でおおった。


「あぁ、失礼しました」


 謝罪してからスコルツェニーは、彼の口調などに全く気に掛けていない様子のマリーに視線を注いでから無意識にポケットを探ってタバコを探す。

「”少佐殿”は無礼だと思われないのですか?」

「なにがです?」

「階級が下の人間にぞんざいな口調をきかれることです」


 マリーに対してスコルツェニーが言うと、彼女は朗らかに笑って茶色の手袋でおおわれた手を口元に当てる。


 ヤセギスな印象ばかりが目立つが、もう少しふくよかであればそれなりに見栄えのする外見をしているとスコルツェニーは思った。

「別に……」


「そうですか」


 腑に落ちない顔で「ふーん」と声を上げた彼は、そうして改めて自分の胸元までしかない小さな少女を見下ろした。


 かわいらしいが、彼女を恋人にしてベッドを共にすると言うのはどうにも考えづらい。

 ともすれば壊してしまいそうだ。


「わかりました。あなたの護衛をすればよろしいのですね?」

「お願いします」


 ニコニコと馬鹿のように笑っている彼女にスコルツェニーは小さく肩をすくめてみせた。


「ところで、少佐殿はケーキがお好きだと聞きましたが」

 言いさしたスコルツェニーにマリーがぐっと言葉に詰まった。


 ――あぁ、なるほど。

 スコルツェニーは鼻で笑ってから内心で合点がいった。


 つまるところ、マリーがスコルツェニーに食事に一緒に行こうと誘ったのはそういうことだ。


「……ベスト博士には内緒よ」

 困ったように訴えるマリーがおかしくて、スコルツェニーはライターでタバコに火をつけながら頷いた。


「”承知しました”」


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