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マリーと肉料理と戦いの秘密

 健康的な、という言葉とはほど遠い。


 カール・ゲープハルトはそんなことを考えながら、食事をしているマリーを流し見た。

 彼女の食事はとても遅い。

 食べる量が少ない上に、とにかく食べ物を口に入れてから飲み込むまでが長い。

 それはそれで良いことだろう、とゲープハルトは考える。しかし、そんなゆっくり食事をする収監のせいかとにかく食べられる量が少ない。


 国家保安本部にゲープハルトが配属されたのは比較的最近だ。

 だから、正直なところ、国家保安本部首脳部に高官たちがなにを考えているのかもわからなければ、彼らがどれほど優秀な官僚たちであるのかも判断しかねる。


 薄い皮膚と薄い爪。

 少し堅い瓶詰めの蓋をはずそうとするだけで時には爪が割れてしまうこともある。頻繁に爪がひっくり返っているせいか、しょっちゅう彼女は小さな悲鳴をあげている。


 おそらく警察官僚たちは貧弱な体型にしか目が行っていないに違いない。


 薄い胸と華奢な手足。

 白すぎる肌は病弱にすら見え、それが彼女と顔を合わせた健康で屈強なナチス親衛隊の男たちを不安にさせるというのに。


 彼らには彼女が見えていないのだ。

 その皮膚の薄さが。

 そして爪の薄さが。


「栄養失調」

 ぼそりとゲープハルトがそう言った。

 豊かな髪を見るところ、どうやら栄養のほとんどは髪にいっているのだろうか。

 はげないのは良いことだが、いずれにしたところで胸を含めた体格やその他諸々の箇所が育たないのは要するに栄養状態がよろしいと言えないからだろう。


「はい?」

 マリーがゲープハルトの声を聞きはぐって小首をかしげた。

 スプーンをちょうどくわえたままだったため、くぐもった声色になった。

「君が栄養失調だと言っているのだ」

「そんなこと言われても、わたし、みんなみたいにたくさんお食事なんて食べれないわ」


 肉と乳製品が苦手で、もちろん魚介類もそれほど得意ではない。

 ではなにが食べれるのかと言えば、主に野菜をたべていることが多いのだが、それもゲープハルトらから見れば些細な量だ。


 これはいったいどこの菜食主義者だろう。

 ゲープハルトは大きなため息をついた。

 確かに彼女は肉を無理矢理食べさせても今度は腹を壊してしまう。


「爪が薄いのも、肌が薄いのもそのせいだ」

「……ゲープハルト博士」

 マリーが困った顔をした。


 困った顔をしても「甘いものは別腹」だから手に負えない。

「ちゃんと食べないから胸がいつまでも小さいのだ。それにそのままチビのままで身長の成長が止まっても困るだろう」


 胸、と言いながらゲープハルトの指で胸を指し示されて、マリーの方はぽかんと口を大きく開いてから自分の口を両手で覆ってから胸元を見下ろした。


 堂々と胸のことを指摘されてマリーは夢にも思わなかったのだろう。

 わずかに頬が赤く染まる。

「ゲープハルト博士の意地悪」


 そうして機嫌を損ねて横を向いてしまった彼女に、ゲープハルトは苦笑した。

「……もちろん、わたしとしては君が君のままでも全くかまわんが。君自身が胸が小さいままでいいならね」

「……――がんばります」


 真剣な顔をしてステーキに向き直った少女は、まるでこれから決闘に臨む騎士のようだ。

 つまるところそれくらい真剣な顔をしている、ということである。

「うむ、それで良い」

 眉間に皺を刻んでマリーはフォークとナイフを握り直したのだった。

普段は気にしていなくても、面と向かって指摘されると傷つくという複雑な乙女心であった

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