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マリーとマルコム 2

 アイスクリームをスプーンですくいながら、隣家の幼なじみの部屋の窓を眺めたマルコムは行儀悪く頬杖をついたまま中空をにらみつけるようにして考え込んだ。


 最近、マリーに元気がない。

 それは知っている。

 女どもの世界は面倒くさいから正直あまり首を突っ込みたくないというのが、マルコムの感想だ。


 授業が終われば誰と話すわけでもなくそそくさと自宅へ帰ってしまうし、話しかけてもぱっとしない。


 とにかく元気がないというか、覇気がない。


「しょうがねーなー」

 全くどうしようもない。


 女というのはこれだから、とぶちぶちと文句をこぼしながら十歳ほどにしかならないだろう少年は、重たい腰を上げた。

 大人たちから見れば、ほほえましい光景でしかないが、本人たちにとっては至って真剣だ。


 世の中、幸福と不幸の比率はどんな年齢になっても変わらないと言うではないか。


 赤ん坊が空腹だからと不幸を感じることと、大人たちが金銭がないと頭を抱えるのも本人にとっては同じ比率の大問題だ。


「悩んでたってブスがブスになるだけだぞ、ブス」


 悩んで深刻な顔をしていても全く、ちっともかわいくない!


 口には出さないが、真っ白く透けるような肌と、金髪のまつげと、金色の長いストレートの髪と、空か海を思わせる青い瞳は誰もがあこがれる金髪碧眼で、実はこっそりそれなりにかわいいと思う。


 同年代の少年たちにも密かに人気がある、のを、マリーは知らない。


 明るく活発で、西洋人の誰もがあこがれる金髪碧眼を持つマリー。


 けれど、彼女は両親も、姉も、祖父母も全員が灰色の髪に灰色の瞳だ。マリーが言うところによれば、彼女の知る限り家系にはひとりも金髪碧眼がいないのだそうだ。


 おかげで、マリーが生まれたときには両親の間でもしゃれにならない家庭崩壊の危機が発生したらしい。


「ブスでもいいもん」

 ベッドに埋まって枕に顔を押しつけていた少女の声が嗚咽に揺れた。

「早く大人になって、髪を染めるの。アジア人みたいな真っ黒にするの」

 日差しにすかしたような金色の髪はベビーブロンドだ。

 まるで赤ん坊が持って生まれたような、きれいな金色。


 幼なじみで口の悪いマルコムは、言葉にしないが、マリーの金色の髪は同い年の少女たちが誰もがうらやんでいることをしっている。


 ――あんなブスなのに、どうして金髪なの。

 ――金髪碧眼はうらやましいけど、あの子、全っ然かわいくない。どうせ、もらわれっこに違いないわ。だって、知ってる? あの子の両親もお姉さんも灰色の髪に灰色の瞳なのよ。


 幼稚な嫉妬からの言葉であることも、マルコムにはわかった。


 マリーの母親は、彼女を誰よりも愛していたし。

 マリーが生まれたばかりの時は、家庭崩壊の危機に直面してその絆を守るためにあらゆる手段を使った。


「遺伝子的にも、マリーは彼女の実の娘で、旦那さんが本当のお父さん」


 マルコムは自分の母親からそう聞かされた。

 マリーの血のつながった家族。

 けれども金髪碧眼というだけの理由で、心ない言葉を向けられた。


「泣くなって言ってんだろ、不細工!」

「泣いてないよ!」

 手にしていたアイスクリームのついたスプーンで思い切り、マリーの頭をひっぱたいたマルコムに、案の定、幼なじみの少女は激怒した。


「なにすんのよ! 痛いじゃない!」

「ブスが泣いたってちっともかわいくないんだよ、ブース! 泣いたら誰かが同情してくれるとでも思ってんのか?」


 泣いている彼女は好きじゃない。

 それなら怒っているほうがいくらかましだ。

 年齢が幼いせいもあっただろう。


 いつのまにやら殴り合いの喧嘩に発展して、結果的にマリーの母親にいつものごとくふたりそろって怒られた。


 勝ち気な彼女は、怒ってふくれっ面をしていればいい。

 笑っていないなら、怒っているくらいのほうがちょうどいいのだ。

「ブスがブスだから、ブスって言っただけだ」

 こんこんと怒られながらもマルコムは態度を変えない。

「なんですって!」


 幼なじみの少年と少女。

 殴り合いで腫れた顔を抱えながらマルコムが帰宅すると、彼の母親がキッチンで笑い声を上げた。


「ちゃんと手加減したっつーの」

「よろしい」 


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