かわいい子は嫌いじゃない
「噂になっているらしいぞ」
渋面でそう言われて、ヨーゼフ・ディートリッヒ――こと、パパ・ゼップは目を丸くした。
上背はそれほど高くない猛将は、言われてから数秒考えてから首をかしげた。
「別にかまわんぞ?」
そもそも浮気などの不義をしているわけでもない。
――うちの司令官が小さな女の子に鼻の下を伸ばしているらしい。
確かに鼻の下は伸ばしているかもしれないが、別に性的な肉体関係があるわけでもないし、どんな年齢になってもかわいくて素直な女の子であれば男は誰だって好感を持つだろう。
「それにあの子はそんなに言うほど幼くないぞ。もう少しで十七歳らしい」
「上級大将の年齢から考えれば十分小さいだろう」
応じたディートリッヒだったが、ハウサーにそう突っ込まれた。
「言いたい奴には言わせておけばいい」
人の口に戸は立てられない。
躍起になって噂をつぶそうとすればするだけ逆効果だ。
「貴官だって、かわいい女の子は嫌いじゃないだろう?」
「それはそうだが……」
かわいい女の子を見ていていやな気分になる人間などそれほどいない。
「あの子はいつもにこにこ笑っていて、かわいらしい。もっとも、周りにいる連中が政治警察というのは考え物だがな」
いつもと同じ屈託のない表情で、悪びれもせずに天下のLSSAHの指揮官はそう言った。




