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マリーとマルコム

「おまえさー、料理くらいしろよ」

 あきれた顔でフォークで揚げたてのフィッシュアンドチップスをつつきながらそう言ったのは幼なじみのマルコムだ。


 少年は、マリーの幼なじみであるからこそ彼女の料理の腕が壊滅的なことを知っていた。


「イングランドに料理なんてあったの?」

 きわどいブラックジョークにマルコムは大きなため息をついた。

 料理人はイタリア人かフランス人か、あるいは日本人でも呼べばいい、というのがエスニックジョークの定番だ。


「そんなこと言って、女ならやらないわけにいかねーだろ」

「そんなの男の一方的な差別じゃない。なに時代遅れなこと言ってんのよ」

 マルコムの決めつけ方に憤慨したマリーは、頬を膨らませてから唇をとがらせた。

「ほら、あんたたち。食事中に喧嘩しないの!」

 肩を怒らせている少女と、フィッシュアンドチップスをつついている少年の頭をお玉杓子(レードル)でたたいたのはマリーの母親だ。

 灰色の髪と灰色の瞳が印象的で、髪の色と瞳の色だけを見ればマリーと血のつながりがあるとはとても思えない。


 実はこの親子はその一件で確執もあった。

 マリーが小さな頃は、心ない言葉で同年代の少女たちからいじめられたこともある。


 両親が灰色の髪なのに、どうしてマリーは見事な金髪碧眼なのか、と。

「……あ、痛ーっ!」

 たたかれて頭を抱えた少女は、恨めしげに母親をにらみつけてから下唇をかみしめた。


 なんだかんだとよくマリーをしかる母親ではあるが、そんな母親を少女らしくうっとうしく思いこそすれ、嫌いではないようだ。

 マルコムはごく冷静にレードルでたたかれた自分の後頭部を手のひらでなでてから、フォークで魚の揚げ物を突き刺すと、自分の言葉を封じ込めるように口の中に押し込んだ。


 マリーの母親には逆らうだけ無駄なことだと、マルコムは知っている。

「ママー……」

「それに、マルコの言っていることももっともよ。もっとお手伝いをしゃんとして。いつまでもママが料理作ってあげると思ったら大間違いですからね」

 涙目になる娘に母親はぴしゃりと言い捨てて、やせてぎすぎすしたマリーの方に手をかけた。


「それに、いつまでもそんな過激な減量なんてしていないで、ママを心配させないで」

 どうせおばさんになったらぶくぶく太るんだから。


 心配と冗談を唇に乗せて母親は笑うと、機嫌を損ねて唇をとがらせたまま横を向いてしまった少女の前に、マルコムに出したフィッシュアンドチップスよりはやや小さめのそれをおいてやったのだった。

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