マリーとスコルツェニー
「オットー」
間の抜けた声で呼ばれてオットー・スコルツェニーは振り返った。
声そのものが砂糖菓子でできているような、そんな甘ったるい響きをも感じる彼女の声を聞きながらスコルツェニーは眉をひそめた。
品の良いカーディガンを羽織っているが、その下はブラウスにチェックのジャンパースカートだ。一応寒さをしのぐためにか、足首までの長さのドロワーズをはいているが、大変寒そうだ。
そんなことを考えていると、ハクションと声をあげて盛大なくしゃみをした。
「なんでしょう、少佐殿」
一応、階級としては上官なので形式的には礼儀正しい言葉を返すが、内心では「どうしてこんな子供が自分よりも階級が上なのか」という理不尽さが拭えない。
バイクにまたがったスコルツェニーに当然のように少女が問いかけた。
「ほら、これからバイクで訓練所まで行くんでしょ? 寒いかなぁって思って」
言いながら、不格好な毛糸のマフラーを手渡してくる。
練習中のためかできばえは大変残念だ。
もっとも、戦場ではほつれた服など構わず身につけているのが兵隊だ。衣服に気を遣わなければならないお役所仕事でもないからただ「不格好だな」と思っただけでそれ以上はない。
「へただな……。あぁ、はい。手作りですか?」
思わず本音がこぼれたスコルツェニーがタバコを口元にくわえながらそう言えば、マリーは一度地団駄を踏んでから華奢な右手を伸ばしてスコルツェニーのネクタイを引っ張った。
いつも頭が足りなそうな物言いをしているから年齢よりも幼く見えるが、一応十六歳らしい。
「……少佐殿?」
マリーに向かってかがみ込むような姿勢になったスコルツェニーに、少女は青い瞳でじっと見つめてから笑う。
「寒いでしょ?」
そうでもない。
そう答えようとして、スコルツェニーはやれやれと肩をすくめた。
「ありがとうございます」
マリーの手によって自分の首に巻かれたマフラーの暖かさに不器用なほほえみをうかべてから、彼女の両肩に手をかけて、自分に背中を向けさせた。
「少佐殿、あなたが風邪をひくんじゃないかと、あちらの大佐殿が険しい顔をしております」
プリンツ・アルブレヒト・シュトラッセのエントランスに立って、マリーとスコルツェニーのやりとりを見守っていたマイジンガーに、特殊部隊の隊長を務める青年はそう告げた。
「この国は寒いですから、余りそうした薄着でふらふら出歩くのはどうかと思いますが」
くぐもったスコルツェニーの声にマリーは、顎を上げて彼を見上げると口元に手をあててクスクスと笑った。
「これくらい大丈夫よ」
「だといいのですが」
あなたは体力がないから。
バイクのエンジンをかけたスコルツェニーは、視界の隅で、マイジンガーに駆け寄る少女を見やりながら、再び溜め息をついてからマフラーの端を制服の隙間に突っ込んだ。
へたくそなマフラーだが、それはそれで本人が一生懸命作ったものだと思えばなぜだかほほえましい。
余談だが、その翌日、マリーが風邪をひいたらしいとのことだ。