彼女とリヒトホーフェンとゲーリング
長いすに腰を下ろしているヴォルフラム・フォン・リヒトホーフェンは微妙に立ち上がるタイミングを失って、胸の前で腕を組むとフンと鼻から息を抜いた。
国家元帥にして、空軍総司令官であり、ナチス党の古参党員でアドルフ・ヒトラーの側近――ヘルマン・ゲーリングに面会にきたリヒトホーフェンはなんとなしに廊下の長いすに腰を下ろしていたところに、隣に座ったのはやはりゲーリングに面会に来た少女だった。
面会謝絶、と言わんばかりの勢いで仕事を言い訳にして金髪の少女と顔を合わせようともしない上官の対応と、さらに「なんとか彼女を追い返せ」などととても高官に対する命令とも思えないような命令を下されて、リヒトホーフェンは正直なところ困惑した。
どうして、空軍元帥ともあろう者がこんな女子供を相手にしなければならないのだろう。
なんとも納得できないものを感じはするが、一応、くだらない命令とは言え、上官命令だ。
なんとか彼女に空軍総司令部から帰ってもらおうと説得を試みるのだが、押し問答のようなリヒトホーフェンとのやりとりに身勝手な少女はすっかり飽きてしまっていつの間にか、船をこいでうたた寝を始めてしまったというのが事の次第だ。
病的なほど白い肌は血の色が透けて見えるかのようだ。
きっと怒ったら顔が真っ赤になるのだろう、などとのんきなことを考えるが、事態は複雑に状況に陥っている。
本来であれば彼女をたたき起こして空軍総司令部から追い返すべきなのだろう。
頭ではわかっているのに、彼女が青い顔をして眠り込んでいるところを見ると、どうにもその気が失せてしまうと言うのが本音だった。
よほど疲れているのだろうか。
それならば、ナチス親衛隊の警察機構――国家保安本部などに在籍して男たちと同じように多忙な業務をこなすべきではないのかもしれない。
そんなことを考える。
本来、成人と異なり、十代はじめの痩せ型の少女の体力など比べるべくもない。
規則正しい寝息を立ている少女の呼吸の音を聞いているうちに、リヒトホーフェンもなんだか眠たくなってきた。
小さくあくびをかみ殺してから、腕を組んだままで若い空軍元帥はまぶたをおろした。
それからしばらくして、少女本人があきらめたか、命令通りリヒトホーフェンが彼女をたたき返したかと期待したゲーリングが廊下を覗くと、はたしてそこにはまっすぐな金髪を両肩に垂らした少女がリヒトホーフェンの肩に頭を預けて眠っていた。
そして問題のリヒトホーフェンのほうも胸の前で腕を組んでうつむくような姿勢で眠っている。
そんなふたりの姿に硬直したゲーリングは抜き足差し足で執務室に戻ると、静かに扉を閉じて息をついた。
かすかに扉のちょうつがいがきしむ音をたてる。
その音に、一方の少女は片目を軽く開いて唇の端を軽くつり上げた。




