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わたしを海につれてって

「レーダー元帥、レーダー元帥」


 明るい声で呼ばれるとなぜだか心が軽くなる。

 エーリッヒ・レーダーは内心で「絶対に鼻の下を伸ばしている訳じゃないぞ」と言い聞かせつつも満面の笑顔をたたえて、足を止めた。

 ぱたぱたと走ってくるのは、小柄な少女で余りの儚さにくずおれてしまいそうななにかを感じさせる。


 ――もしかしたら、「若者」の将来を奪ったことが、全ての誤りのはじまりだったのかもしれない。

 ずっとそう思っていた。

 一海軍人のひとりとして、ずっとそれを認められずにいた。

 彼がこの世界に存在し続ける限り、認めることなど許されなかった。

 もしも、「彼」のやり方を許してしまえば、ドイツ海軍の権威は地に落ちることを本能的に知っていたからかも知れない。


 だから、彼が死んだという一報を耳にして、正直を言えばどこかほっとした。

 ヒトラーの恐怖政治の手先。

 許せるはずもなかった。


 そうだというのに、残ったものは後悔ばかり。


 あのとき、彼を許していられれば、とか。

 あのとき、彼が裏切らなければ、とか。


 埒もない「もしも」を考えてしまうのは人間(ひと)の弱さ故なのかもしれない。


 そんなことを心の片隅で思い返しながら、レーダーは少女の声に振り返る。


「レーダー元帥、海に行きたい!」

「海水浴?」

「だめ?」

「うーむ、どうかな。君のお父さん(ファティ)たちが首を縦に振ればいいのだが」


 それとも、可愛い娘にはかわいい水着を! とでも息巻くだろうか。


 いずれにしろ、彼女に名前を呼ばれ、彼女に笑顔を向けられるとなぜだか安堵した。


「潜水艦にでも乗ってみるかね?」

「……――それはちょっと」

 真剣に嫌そうな顔をした少女の弱り顔に、レーダーは品の良さそうな笑い声を上げて見せた。


「それなら、海水浴はいつかまたいつでもつれていってあげるとして、わたしの自慢の(ふね)でクルージングでもどうかね?」

 「きゃー」とも「やったー」とも受け取れそうな、甲高い悲鳴をあげて万歳をした金髪の少女が、レーダーの片方の腕に抱きついて頬をくっつけてくる。


「君ら親衛隊情報部のおかげで、我々、海軍の首がつながったのもまた真実だ」

 時には正当に評価してやることも大切なことだと、「彼」から学んだ。


 それはそう。

 軍艦が無事に運航できるのも、石油が確保できたおかげなのだ。

みんなのつっこみ「おまえの艦じゃねぇw」

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