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浮気じゃない。

「ショートカットは似合うと思う?」


 両手で頬杖をついて、金髪の少女はいつものように午後のおやつの相手をする中年男に問いかけた。

 最近はすっかり自分のでっぷりとした腹部を気にしてしまっているヨーゼフ・マイジンガーは代用コーヒーをたしなむ程度で、食べるのは彼女に任せきりだ。


「……似合うと思うが」

 似合うかと笑顔で聞かれれば、もちろんマイジンガーは否定しない。


 誰よりも恐れられたゲシュタポの野蛮人に無邪気な笑顔を向けてくるのは彼女くらいしかマイジンガーは知らなかった。

 口ごもって眉をひそめた中年将校に、マリーは大きな青い瞳でじっと彼を見つめ返した。


「似合うだろうが、わたしは君の髪が長い方が好きだ」


 正直な本心を白状したマイジンガーに、マリーは明るく笑って目を戦のように細めた。

「本当?」

「長いほうがかわいい」

 無邪気な彼女の笑顔が眩しくて、思わず目をそらして呟いたマイジンガーの額に、自分の額をくっつけたマリーが明るく笑った。


「じゃ、切らないわ」

 細い腕を巻き付けるように回されて、マイジンガーは目尻を下げた。


 胸の奥がじんわりと暖かくなるようなものを感じて、少年のように頬をかすかに赤らめるとマイジンガーは、困惑しきって口を閉ざした。


 ――家内にはさんざん疑われているが、断じて浮気ではない。


 ただ、彼女がかわいらしくて仕方がないだけだ。

 でも、ベリーショートもかわいいかも、と思うマイジンガーであった。

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