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夢を見た
夢を見た。
ここがどこなのか。
裸足の足でぺたりと床を踏む。
「マルコ」
マリーが幼なじみの隣人の名前を呼んだ。
彼は眠っている。
少年は眠っている。
「……――あなたを、一目見たときから殺したいと思った、と言ったらあなたはどんな顔をするだろう」
静かにほほえんで、眠る少年の首に両手の指をかけてみる。
もちろんそれは夢だから、犯罪にもなりはしない。
そんなことはマリーにもよくわかっていた。
夢の中だから、彼を殺せる。
「……――フランクリン・デラノ・ローズベルト」
ドイツを破滅に導いた「老害」。
けれども現実の世界で「彼」を殺すことなどできはしないから。
「ライニのために、あなたを殺しにいくわ」
夢を見た。
残酷な程、冷徹な真実の、夢を見た。




