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ハインツ・ジークフリート、ラインハルト・トリスタン・オイゲン

 たまたま通りがかった悪魔のような連中の総本山――プリンツ・アルブレヒト・シュトラッセに位置する国家保安本部。

 そのビルの姿にさえ禍々しいものを感じざるをえない。


 ――禍々しい。


 知らなければ、良かった。


 自分の兄がなにをしていたのか。

 自分の兄がどんなことに関与していたのか。


 知らなければ、誇らしいままでいられた。


 聡明で、精力的で、誰よりも力強い兄を誇ることができた。


 国家保安本部のビルから視線をそらすと、ハインツ・ジークフリート・ハイドリヒは思い詰めたような眼差しのままで、眉間に深くしわを刻んだ。


 兄――ラインハルトがなにをしていたのか。

 あれはまさしく悪魔の所業だった。

「知らなければ良かった?」


 唐突に伏せた顔の目の前に小柄な少女が現れた。

 金色の髪の、青い瞳の。

 白い肌と、まっすぐな眼差しに感じるものは確かな既視感だ。


「ハイドリヒの名前を継ぐ人間でありながら、あなたは逃げるの?」


 ピンク色のマントと、金糸の刺繍のされた同じ色のベレー帽を被った少女はまっすぐハインツ・ジークフリートを見つめて無邪気な眼差しをしばたたかせる。


「ライニは、戦ったのに」

 そこで少女は一度言葉を切った。

 そうして一呼吸置いてから、意味深な表情を浮かべたままで唇を開いた。


「ハインツ・ジークフリート。あなたが、あなたの心のままに戦えないなら、あなたはただの臆病者よ。兄弟だからって志を同じくしなければならない道理なんてないわ。あなたは自分が信じる戦いをすればいい」


 ――命をかけて。


 目の前にいる、どこか不思議な既視感を感じる少女は迷いの欠片も見せずにそう言い放った。

「どうして……、わたしの名前を」

 身も知らぬ少女に名前を言い当てられて、ハインツ・ジークフリート・ハイドリヒは動揺した。


「戦うつもりならもっとうまく戦いなさい。それじゃまるでずぶの素人と同じ。すぐに捜査の手は回るでしょうから」


 ――もしも、邪魔をするなら、国家保安本部は全力で叩きつぶしに来るでしょう? だから、もっと深く潜んで自体を見極めるべきよ。


「ハインツ・ジークフリート・ハイドリヒ。あなたには変革のための力があるのだから」


 金髪碧眼の少女。

 彼女は誰かに似ている。

 大きな瞳の笑顔の魅力的な彼女の奥に、冷徹な「彼」の瞳を見たような気がして、ハインツ・ジークフリートは自分の目を疑った。


 ”彼女は誰だ”?


 彼女は薄い自分の胸に右の手のひらを押し当てて、そうしてからまっすぐに顔を上げる。

「”わたしはここにいる”」

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