マリーとオットーと謎の自信
おもちゃを見つけた顔をしている。
「オットーは手が大きいのね」
目下のところ、マリーはシェレンベルクの部下である特殊部隊隊長、オットー・スコルツェニーの無骨さがお気に入りのようだ。
若い男の傍に寄るなと注意をしようとして、当のスコルツェニーがシェレンベルクらと大差ない年齢であることを思い出してマイジンガーは唇をへの字に曲げた。
ナチス親衛隊の若造たちは誰も彼も女と見れば見境がない。
それは党本部のゲッベルスやボルマンを見ればわかりやすい例だ。
「少佐殿よりも身長がありますので」
タバコをくわえたままで三十代半ばのスコルツェニーはそう告げた。
確かに、元武装親衛隊――第一SS装甲師団LSSAHの隊員でもあったスコルツェニーは群を抜いてドイツ人男性の平均身長を軽く超えている。
ちんちくりんを絵に描いたようなマリーと比べるべくもない。
「ナウヨックスも大きいのよ」
「そう言えば彼も元LSSAHでしたね」
「そうなの」
選抜されたエリートのみが配置されるナチス親衛隊――第一SS装甲師団LSSAH。
アドルフ・ヒトラー親衛隊の名前を冠したエリート部隊だ。
「あと、カルテンブルンナー博士も」
マリーの無邪気な言葉にスコルツェニーは「そうですね」と型どおりの相づちを打ちながら、内心では複雑な気持ちで自分の肩越しにさりげなく視線を放った。
目を三角にして両腕を胸の前で組んで壁に背中を預けて立っているのは親衛隊上級大佐に昇進したばかりのヨーゼフ・マイジンガーで、廊下の窓越しににやにやしながら立っているのは国家保安本部長官だ。
もっとも目を三角にして威嚇している秘密警察上がりのマイジンガーはともかく、国家保安本部長官のほうは「にやにやしている」つもりはないのかもしれないが、どこからどう見ても鼻の下が伸びている。
おそらく「カルテンブルンナー博士も大きいのよ」という言葉を聞いていたのだろう。
これは「少佐殿」が恋人のひとりを作るのも相当難儀しそうなものだ、とスコルツェニーは余分な気遣いをするのだった。
そんなスコルツェニーの気遣いをよそに、相手が階級的に逆らうことができないことを承知の上でおもちゃにしている少女に対して、意地の悪い忠告をすることもできずに、煙草の煙で器用に輪っかを作った特殊部隊隊長は冬の不安定な青空を見上げて溜め息をついた。
「あんまりそのように警戒心がないと、悪い男に襲われますよ。少佐殿」
「大丈夫よ、みんなが助けてくれるもの」
だからその謎の自信はどこからやってくるのだろう。
スコルツェニーはちらりと考えてから小首を傾げた。
「オットーも助けてくれるでしょ?」
「任務でしたら」
素っ気ない彼の言葉を、どこまで理解しているのかわからない少女は、金色の髪を揺らしてクスクスと笑い声を上げた。




