湯あたりマリー
日本式の風呂、とやらの入浴に薦められたマリーの風呂上がりが遅い。
大島浩の自宅で、湯船にポカポカと体の芯まで温められてマリーは心地よさに浸っているのだろうか。
水も燃料も貴重なご時世ではシャワーで済ませる以外にないのだが、マリーのために特別にと大島が準備をしてくれた。
それにしても遅いんじゃないか?
シェレンベルクがそう思い出した頃、大島の夫人が不安げな表情でそわそわと廊下を行き来しているのが目に入った。
「シェレンベルク少将、さすがに遅いのでは……」
「見てきましょう」
「女の子の入浴中に男性のかたが入るのはどうなのでしょうか」
「緊急事態にそんなことを言っているわけにもいきますまい」
言いながらシェレンベルクは制服の背広を脱いでシャツの袖をまくり上げた。
かつかつと靴音を鳴らして躊躇することもなく浴室に入ったシェレンベルクは、はたして湯船に顎を乗せたままで裸の肩でもたれてほとんど溺れそうになっている少女の姿を捕らえてさっと長い腕を伸ばすとバスタオルを引き寄せた。
「大島夫人、冷たい水と冷やしたタオルをお願いします」
「は、はい……」
迷いなく裸の少女の体にタオルを巻き付けると、横抱きにして大島夫人の案内したベッドへと横にした。
「慣れない風呂になどのんびり入るからだ、マリー」
「……ごめんなさい」
ぐったりとして額にかかる前髪をかき上げるシェレンベルクの指を感じて、マリーは薄く目を開いた。
それから間もなく脱水症状と湯あたりから回復したマリーだったが、その後、事態を知ったカルテンブルンナーとミュラーから、「マリーの裸を見たんじゃないか」と疑いを持たれたのは言うまでもない。
もっともそんなミュラーとカルテンブルンナーの疑いをよそに、当のシェレンベルク本人は「あんな胸もくびれもない体を見て欲情するほど暇じゃない」と言い捨てた。




