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そんなこんなで君のことが心配だ

 余り発育がよろしくない。


 彼女の最も近い場所にいる男は自分だ。

 その自覚が彼にはある。


 もちろん、別になにやらやましいことを考えているわけではない。

 欲求不満で精力旺盛な若い男でもあるまいし。


 うーん、と溜め息をついたヴェルナー・ベストはかすかに首を傾げてからうつぶせになってソファに寝転んでいる少女の薄い体を見やった。

 厚手の生地で作られたドロワーズは足首まであって、フレアースカートにはふんだんに布地を使われているためほとんど体の線は見えはしない。

 ひらひらとスカートの裾を揺らした少女は投げかけられる視線に気がつく様子もなく中央記録所から持ち出したファイルを読んでいた。


 行儀が悪い。


 そう思ったがそんなことを言ったところで今さら無駄なことはわかっているベストはおもむろに立ち上がると丸めた書類で少女の後頭部をぽかりと叩いて両腕を組んでぎろりと見下ろした。


 執務室に立ち入る男と言えば厳格な法律家のベストとヨストがいるから、行儀も態度も悪いマリーに興奮するような若い男も立ち入ることもない。だから国家保安本部で彼女の身に危険が及ぶ可能性も低い。


 もっともただでさえマリーに危険が及ぶようなことについては神経質な中年が多い。とはいえ、そんな男たちは今のマリーの態度を見れば眉をしかめるのは間違いない。

「みっともない格好はするな」

「……はーい」

 咎められて寝転がっていた少女は体を起こしてソファに座り直すと、丸めた形で差しだされた書類を、マリーは両手を差し伸べて受け取った。


「読んだらサインをして返してくれれば良い。カルテンブルンナー大将にはわたしから提出しておこう」

ボルマン氏(ヘル・ボルマン)が赤軍とつながっていた証拠の媒体と一緒に提出すれば説得力があると思うわ」

「そうだな」


 ベストはマリーの言葉を受けて小さく頷いた。

「そのうちヒトラー総統は国家保安本部の中央記録所の情報の全てを開示しろとでも言いかねないな」

「大丈夫よ」

 マリーがにっこりと笑った。


「素人が情報を扱ったって、見当違いな結果を生むだけよ」

「……それはそうだろうが、余分な誤解と、それこそ見当違いな冤罪を生むことになる可能性も秘めているだろう」

 だからヒトラーが余分な警察権力への介入をすることは阻止されるきだ。


 ベストの危惧にマリーがフフと小さな声を上げて笑った。

「大丈夫よ」

「ハイドリヒがいたらそんな無用な心配は済んだのだろうな」


 ずる賢いハイドリヒがいれば、誰も警察権力への介入など心配せずにすんだ。

 ラインハルト・ハイドリヒは、誰よりも狡猾だった。

「ベスト博士は、前の国家保安本部長官の副官だったんでしょう? その法律顧問のベスト博士がいるんだもの。だから、大丈夫だわ。仮になにか問題が持ち上がっても、国家保安本部はそんなことでは”動揺しない”」


 マルティン・ボルマン――。

 彼の失態が明るみにでることは、時間の問題だったのだから。


 ソビエト連邦に対してドイツが勝とうが負けようが、結果は同じだ。

 マルティン・ボルマンはいずれにせよ、裁かれなければならなかった。


「とりあえず、今のわたしの心配は君の体格がいつまでもたってもチビで肉付きが悪くて成長の兆しがないことなのだがね」

「そんなことわたしに言われても……」

 厳しげにつり上げた両の目尻を穏やかにおろしたベストはマリーのお下げを軽く引っ張ってから踵を返した。

「まぁ、君がちゃんと仕事をやってくれればそれでいい」

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