マイジンガーの煩悶
マリーは十六歳だ。
十六歳と言えば、多感な時期で、早熟な少女たちは恋や、恋にまつわるなにがしかに感心を持ったりする。
まぁ、実際、親衛隊の若い連中とつきあっている少女らもそんなものだ。
一方で、ナチス親衛隊の制服を身につけた青年達はたしかに格好いいだろうし、恋の相手として遊ぶには好都合であるところもあるに違いない。
――しかし……。
考えながら寝たふりをしていたヨーゼフ・マイジンガーは、自分の置かれた状況に困惑しきった。
夜勤明けでソファで眠り込んでいた彼の鼻先に、細い指先を感じて目が冷めた。
悪気の欠片もない少女はぐっすりと眠り込んでいたマイジンガーをつっついたり触れたりしながら、彼が反応を返さないことに、どうせくだらないいたずら心でも芽生えたのか。
最初は尻だけで彼の体に乗り上がってから、数秒たった。
おそらく傍目に見ていれば、眠り込んでいるマイジンガーに横座りしている状況だろう。その次に、それでも目を覚まさない彼に、少女は細い足で軽く彼の体にぶつけながら跨ぐと、腹の上に馬乗りになる。
もっとも寒さのせいで、彼女はドロワーズを履いているから素肌がマイジンガーに触れることはない。
時刻はいったい何時だろう。
マリーが来ているということはそろそろ朝の八時くらいだろうか。
時折、彼女は早朝に遊び歩きのついでで国家保安本部を早めに訪れることもある。
薄い未発達の胸は、触れればどんな反応をするだろう、とか。
そんなことをぼんやりと考えながら、抵抗もしないまま、マイジンガーは恋愛には全く無頓着な少女であることを知っているから、鉄の意志で甘く香る少女の香りに男としての欲求を抑え込んだ。
やがてそんなマイジンガーで遊ぶことにも飽きたのか、少女の体から力が抜けるとそのまま小さな寝息が聞こえてきた。
マリーの重さなど大したものではないが、真剣に困った状況で彼が頭を抱えていると、床を蹴る軽い足音とともに、どさりとマイジンガーとマリー、そしてソファーの背の間にうまく挟まるようにして毛皮の物体が降ってくる。
マリーひとりだけならばともかく、同じくらい重いシェパードにまで上に乗っかられると正直重い。
けれども、眠り込んでしまった少女を起こしたくなくて、マイジンガーはかすかに目をあけるとマリーが眠っていることを確認して、そっと分厚い手のひらを彼女とシェパードの間に差し入れた。
天使のように、愛らしい寝顔だ。
マイジンガーはそう思った。




