ネコネコ子猫
じぃっと少女は金色の髪をなびかせたままで、ヘルマン・ゲーリングのペットとにらみ合っていた。
若いライオンのメス。
少女は警戒心もなく細い手を伸ばして、ルートヴィヒ・ベックはその無邪気さにはらはらさせられる。
ちなみににらみ合っているようにも見えているのはゲーリングだけで、同行したベックのほうはいつライオンに襲われて怪我をするのではないかと気を揉んでいた。
低いうなり声を上げたライオンに、少女は青い瞳を瞬かせるとぞんざいに手を伸ばした。
マリーの白い華奢な手が、恐れもせずにライオンの鼻先を触れる。
しかし、当のライオンのほうは表情豊かに驚いて瞠目しただけで、うなり声を納めると及び腰になる。
相手が攻撃してこないことがわかったのか、満面の笑顔になった彼女は「キャー」と嬉しそうな悲鳴を上げると、ライオンの首に両手を巻き付ける。
だから、その辺のネコではないのだから、そうも無邪気に抱きつくのは不用心ではないか。ベックが眉をつり上げるが、若いライオンに抱きついている少女の方は遠慮がない。
「ねぇ、ゲーリング元帥、わたしにこの子ください」
気に入った様子だ。
くださいと言われて、そんな簡単に猛獣の貸与をできるわけでもない。
ゲーリングもベックも困惑して互いの顔を見合わせていると、やがてライオンの鼻先に抱きついたまま目を線のように細めて笑っている彼女に目尻を下げル。
何が起こったのかはわからないが、マリーにライオンは屈服したのだ。