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プラスとマイナス
マリーはいつものように朝の寒さに薄目を開けた。
寒い空気から逃れるように布団を頭から被った彼女は、誰かの腕の暖かさにすり寄った。
「誰……?」
ここは安全だ。
その腕の中は安全だ。
ぺたりと、何気なく手のひらを這わせて確認を取る。
冷たく閉ざされた――デスマスク。
デスマスクだと思ったそれ。
白い肌の、金色の髪の。
黄金の野獣。
ただ、なにも危機感すら抱かずに、彼女は無言で顔を近づけるとその冷たい美形の男を覗き込んだ。
「……食われたくなければ、ここで寝ていろ」
ぼそりと告げられて彼女は、深い闇の深淵から伸びてくるような睡魔の腕に絡め取られて眠りへと落ちていく。
失墜する。
同じ魂の、違う心の。
プラスとマイナス。
正反対の獣。
――わたしたちは、「ここ」にいるよ……。