認識の違い
どこからどう見ても猫耳。
そう言ってハイゼンベルクにカチューシャを引っ張り上げられてマリーは頬を膨らまして、唇を尖らせた。
「猫じゃないの、虎なの!」
「似たようなもんだ」
どうやらハイゼンベルクを自分と同レベル、という認識に落ち着いたらしいマリーは肉球手袋をしたままで、ぺたりとソファに座り込んで自分よりも背の高い男を見上げた。
「哺乳綱ネコ目ネコ科ヒョウ属――……。いわゆるネコとは科のレベルまで一緒だ。つまり、要するにネコ、だ」
科学者を馬鹿にするなと言わんばかりの一刀両断っぷりにマリーは不平不満を漏らす。
「こう……? もく……? え? え……?」
眉間にしわを寄せて黙り込んでしまったマリーの眉の間のしわを人差し指の先でほぐしてやりながら、ハイゼンベルクは立ち上がった。
「図鑑は……、どこにあったかな」
「科学者なのに生物の図鑑も持っているの?」
「一般常識だ、一般常識」
物理学者だからと言って生物に全く疎いわけではない。
ネコ耳――本人曰く虎耳カチューシャをしているマリーと、知能レベルはともかくとして、子供のような側面を持つハイゼンベルクはひどく気があった。
女の色気など感じさせずに無邪気にハイゼンベルクに詰め寄った彼女の計算のなさが彼には気にいった。
「変なの」
「変ではない」
「えー?」
ソファから足をおろしたマリーが、細い足をぶらぶらと揺らしていると、そんな彼女の行儀の悪さに眉をひそめてから、男はマリーの金色の頭を軽くたたいた。
「見なさい」
図鑑を開いたハイゼンベルクに、マリーはその手元を覗き込むと一般常識と言う男の説明を聞き入っていた。
ざっくばらんに大きさの違いだと説明されて、マリーは不服そうにカチューシャに手で触れる。
「ネコって言ったら恐くないじゃない」
「……――警戒心のない”子猫”は充分に気をつけたまえ」
そう告げたハイゼンベルクはやれやれと、横で図鑑のページをめくっているマリーを見下ろすのだった。