心のかけら
「モデルになりたい」
金髪の少年を前にして、金髪の少女は言った。
金髪の少女の両親と、祖父母は灰色の髪だから、おおかた先祖返りで金髪が出たのだろう。
そう説明された。
「なに馬鹿が馬鹿なこと言ってるんだ」
「馬鹿じゃない!」
隣人の幼なじみにあきれたような顔で言葉を返されて、マリー・ロセターは唇を尖らせる。
太るのが嫌だからと極度に食の細い少女は、どこからどう見ても栄養失調だ。
「真剣に言ってるんだろうから、俺は馬鹿だって言ってるんだ」
それほど美味とは思えないオートミールをスプーンでかき混ぜて、やはりそれほど美味ではない脂っこいフィッシュ・アンド・チップスを指で取る。
「おまえさ、やればできるのに、どうして計算できないわけ?」
算数的な計算をさして少年が言っているわけではない。
モデルになりたいというなら、身長が必要だと言うことはわかるはずだろう。しかし、痩せることばかり気にして食の細すぎる彼女は、そのせいで圧倒的に身長が足りなかった。
要するに「チビ」だ。
「そんなこと言ったって、人並みに食べてるわよ。だいたい、食べてく先から痩せてくんだからしょうがないじゃない」
唇を尖らせて文句を言う金髪の少女は、テレビの画面を見ながらほんの数秒考え込んだ。
テレビに映るのはスキンヘッドの青年達が摘発されるところだった。
ネオ・ナチス――。
皮肉なことに彼らは、規制の厳しいドイツ本国よりも、かつての敵国だったイギリスとアメリカに多数存在している。
「ネオ・ナチも大概あれだよな。移民問題もあれだけどさ」
報道を眺める幼なじみのマルコムに、無言で頷いた少女はそっと顔を伏せてから耳を澄ませた。
歌が聞こえる……――。
――旗を掲げよ。
「ホルスト・ヴェッセル……」
ぽつりとマリーが呟いた。
「なんだって?」
マルコムが問い返す。
「なんでもないわ」
同じ歌を歌って、足並みを揃えて行進すれば、集団意識のひとつも芽生えるのか。
それが馬鹿馬鹿しくてならなくてマリーはその顔から表情を消した。
彼らはただの「ならず者」だ。
ネオ・ナチス、という耳に心地よい、そして、自分たちの行動による結果の責任から眼をそらしているのだ。
いざ、自分に責任を問われる時に彼らは言うだろう。
ナチスが悪いのだ。
悪いのはドイツ人だ、と。
そんな裏切り者を、許されるわけがない。