ベックさんと夜這い
「む……」
なにやら自分の横たわるベッドに妻とは別の香りを感じて片目を開けた。
ここは自宅のベッドであるはずで、妻と共用であるはずだから、まかりまちがっても別の女を連れ込むような余地はない。
夢だろうか。
そう思いながらベックは薄目をあけてから眉をひそめた。
年末から続く寒さのために退院したばかりのマリーはすっかりまいってしまっていた。
やせて体温の低い少女の体がベックにくっつくようにして眠っている。
子供用のパジャマを身につけているからか色気など全く感じないが。
「これは夜這いかなにかか?」
ベックが妻に問いかけた。
「寒かったらしくて……」
クスクスと笑う妻の声に今度はそちらに眼差しを放つと、枕に顔を埋めたままでベックと少女が眠るのを見守っていたらしい良妻賢母な妻は自分の口元に手を当てた。
老夫妻のベッドに寝ぼけ眼で入り込んできた少女は、妻が驚いている間にすっかり彼の横で眠り込んでしまった。
聞こえるのは規則正しい寝息。
そして花のような香り。
少女特有の甘い香りに、ベックはやれやれと溜め息をついた。
妻公認なら別に騒動になりはしまい。
長い腕を伸ばして縋り付いてくる少女を抱き留めると、再び夜のとばりをカーテンの向こうに感じたままで目を閉じた。