マリーとハウサーと花冠
白いマントを身につけた少女が小走りに駆け寄ってきて、武装親衛隊の装甲軍団司令官パウル・ハウサーは間抜けな呼び掛けにぎろりと目玉を動かした。
しかし、当の彼女はそんなハウサーの反応に臆することもない。
「なんだね、”親衛隊少佐殿”」
嫌み混じりのハウサーに、金髪の少女は灰色のベレー帽の角度を直しながら、にっこりと笑いながら顔を上げた。
「ちょっと屈んで?」
だからどうしてそう無礼千万なんだと口を開きかけてから、余りにも屈託のない笑顔にハウサーが脱力した。
中腰は腰が疲れるんだと考えながら、長身のハウサーが少女に目線をあわせてやると、マリーは両手で差しだすようにしながら花冠を老将の制帽の上に乗せて笑う。
「温室で花が咲いてたから作ったの」
ニコニコとマリーが笑う。
「温室の……、花を勝手に摘んだのか?」
誰かが丹精込めて北国のドイツで育てていたかもしれないものを?
花のことなど全く興味がないからどうでも良いが、誰かが大切にしていたならそれは尊重すべきだとハウサーは思う。
「ダメですか……?」
「……育てた人間の身になりなさい」
良い香りがする花はおそらくハーヴの一種だろう。
厳つい顔の、パウル・ハウサーは制帽の上に花冠を乗せたままで少女にお説教をはじめると、お説教を受けている当人は神妙な顔をして考え込んでから、武装親衛隊装甲軍団司令官の腕にそっと触れる。
「なんだ」
どうして君はいつもそう礼儀知らずなんだ。
つけつけと言葉が飛び出す彼に、マリーは相手にしてもらえることが嬉しいのかにっこりと笑ってからハウサーの腕に顔を押しつけた。
「怖くないのかね?」
「どうしてですか?」
「わたしはいつも他の人間から鬱陶しがられる」
「帽子にお花乗せてそんなこと言っても怖くないですよ?」
マリーはいつもの調子で華奢な腕を伸ばす。
花冠などむしりとってしまいたいが、健気に温室で咲いた花だと思うとそれもなんだかもったいなくて、パウル・ハウサーは脱力して自分の腕にしがみついている少女を見下ろした。
「怖くないですよ」
ハウサー大将。
そういえばベックにもハルダーにも気後れすることのない少女だ。
こわもて、という意味では自分も彼らと同列なのだろうか。
そんなことをハウサーは考えた。