第五話 白紙の本 前編
第五話 白紙の本 前編
図書室で面白い本はないかと今日も森正太郎は目を凝らしながらその膨大な数の本の中から自分にあった本を探していた。時おり彼の舌打ちが聞こえてくるのは、続いた本の一冊だけが見当たらない時であった。彼が無造作に入れられて入るその本棚を見ると無性に腹立たしく感じるからだ。だが、そんな感情を裏腹に彼はその本棚に入る本達を元に戻してやろうなんて気は全くと言っていいほど無かった。
「ん!?何だこりゃお勧め?」
お勧めと書かれた紙が一枚、彼の見つめる本棚のある一部に貼り付けてあった。彼は迷うこと無くその紙の裏に隠れたその本を手に取った。
「白紙の本ねぇ〜」
表紙にそう書かれた本を手に正太郎はその本をめくった。
「ん?何でこれ何も書いて無いんだ。つまんね〜な。」
ペラペラとページをめくるが、一文字も字が書いていなかった。正太郎はだから白紙の本かっと微笑してそれを元の本棚に返そうとした。
あっと正太郎が声を上げた時、その本は彼の手から落ちていった。ドンっと厚みのあるその本は勢いよく地面に当たった。
「あ〜もう・・・。ん!?」
彼がその本を拾い上げるさい落ちた時に開いたその一ページが目に入った。
「さっきまで白紙だったのに何か書いてある・・・。」
本には今にも消えそうな薄い字でこう書かれていた。
『この本が白紙なのは知りたい事をあなた自身が決められるからです』
「こ・・これどうやって使うんだ。」
そう言いながら彼はページをめくった。
『使い方は、知りたい事を思いながらページをめくるだけ』
彼は恐怖もあったがそれ以上に優越感などの感情も数多くあった。目の前の本を持つ手がわずかに震えていた。
「君、それ借りるの?借りないなら、僕が借りたいんだけど。」
びっくりして後ろを振り返ると寝起きなのだろうか、髪はぼさぼさで頭にはアイマスクを付けている男が一人頭を掻きながら立っていた。正太郎はその本を後ろに隠し、言った。
「いや・・・これは俺が借りるから。」
そういうと正太郎は貸し出し受付の方へ走って行った。
「全く、誰だよあいつはこの本の事知ってんのかよ。」
そう言いながら正太郎はページをめくった。
『彼の名前は滝野翼、彼は私を知っている』
びっくりして彼は又その本を落としてしまった。
「本は大切に扱ってください」
受付の人に起こられてしまった。
彼がこの本を落とした要因は二つあった。一つは正太郎自身が翼を知っていたからだ、翼自身は変人として一部で有名であったためだ。その彼がこの本の事を知っている事はある程度理解できた。だが、もう一つの要因はこの本が自分自身の事を私と言った事だろう。正確には書いてあっただが、これは意識のあるものだと正太郎は理解した。
教室内の空気は張り詰めていた。今日は数学の小テスト。余裕のある者より、そのテストに向けての勉強をしている者のほうが多いのでる。正太郎も本来なら焦っている者の一人なのだが、彼は普段より明らかに落ち着いていた。
「今日あるテストの答えを教えてくれ。」
そう小声で言うとページを開く。勿論、今日あるテストの答えが書いてあった。正太郎はそれを、ばれないようカンニングするためあらゆる所に答えを仕込んだ。その時だ、健太に声を掛けられたのは。
「おい、正。お前ずいぶん余裕だな。」
高野健太である。彼とは同じテニス部でお互い小学生の時からの友達である。
「そんなんじゃないよ。俺もこれから勉強。」
「ふ〜ん・・・ま、がんばれよ。」
そう言って健太は自分の席へと戻って行った。
「全く健太の奴、何考えてんだよ。今日テストだって言うのにあいつこそずいぶん余裕じゃんか。」
そう言って正太郎は目線を白紙の本へと戻した。
『いい点を取る正太郎はどんな勉強をしているのか?』
彼の心の答え・・・。正太郎はこの本で相手の考えが分かる事を知った。