第三話 映らない鏡 前編
第三話 映らない鏡 前編
昨日、二年A組の女子生徒二人が突然消えた。それに気がついたのは、同じクラスで二人とは仲のよかった草辺実宮であった。彼女の怯えたその様子は震える手先でも判断できた。頭を抱えて震える彼女はまるで何かに怯えているようだった。
「それで、彼女達の事は誰一人として覚えていないと・・・。」
明が質問する隣では、翼はケータイゲームに夢中だった。それを楓が注意すると翼は渋々それをテーブルの上へと置いた。
「そうなんです。誰も、誰も二人のこと覚えてなくて、私どうしたらいいのか・・・。」
ガタガタ震える彼女を翼はじっと見つめていた。彼女は力無く立ち上がり部室を出て行った。
「本当に人が居なくなるなんて事があるのかね?」
腕組みをした明は廊下を力なく歩く彼女の後ろ姿を見ながら言った。
「あの人、大丈夫かな・・・。」
楓もそんな実宮の後ろ姿を明と共に見つめていた。部室の中では翼がケータイゲームに夢中になっていた。
「鏡だな・・・。」
そう翼が小声で言った。すかさず明は翼に問いかけた。
「鏡?それどう言う事だよ。鏡が人を食っちまったのか。」
まさかなと明が微笑する。翼もつられて笑いながら笑顔で言った。
「うん。そうだよ。」
場の空気が一瞬にして凍りついた。部室内には翼のゲームの音だけが響いていた。
「で、その鏡って一体何処にあるの?」
楓が首をかしげながら言った。
「昔は・・・昔あの鏡は二階から三階に上る階段に取り付けられていたんだ。でも何年も前にその鏡は、取り外されたんだ。」
「で、お前は結局その鏡が今何処にあるのか分かるのかよ。」
翼が静かに頷いた。でも、そう言って翼が話を続けた。
「大体そんな不思議な事があるのかね・・・。」
翼の発言の矛盾をあえて明は指摘しなかった。それよりも、翼自身がこの不思議を否定したことに寧ろ疑問を明は感じていた。翼のやっているゲームの画面にはゲームオーバーの文字が光っていた。
時刻は既に十二時を回っている。翼達は夜の学校に忍び込み二階の資料室にいた。辺り一面今は既に使われていない物が数多く並んでいた。その中でも月の光を浴びその鏡は不気味に光り輝いていた。その鏡には明と楓の姿は映っているものの翼の姿が映っては居なかった。
「どうなってんだよ、これ。」
明がその鏡を見ながら言った。ふふふと突然、不気味な笑い声を上げ翼は楓と明の方を振り向き言った。
「お二人様ご案内〜。」
眩しい程の光に包まれた。二人は何が起こったのか理解できなかったが、その光景自体には見覚えがあった。
「部室?」
其処は夜の学校、七不思議部の部室だった。しかし、楓は何処か違和感を感じその原因が理解できた。
「違う、この字全部逆さまになってる・・・。」
ガラガラガラっと部室のドアが開いた。二人はその場から後ろに二歩ほど下がったが、その中から出てきた人物を見て警戒を解いた。
「翼?」
「いや〜参ったよ。この鏡の事調べてたら、閉じ込められちった。いや〜全く不思議だ〜。」
と笑い始めたが、明に殴られ翼は今の現状を二人に伝え始めた。
「いや、それでねこの二人を見つけたってわけよ。」
頬に鈍い感覚のある翼は居なくなっていた二人の女子生徒と一緒に居たのだ。
「で。ここは何もかも逆で、お前は本物ってわけだな。」
はいっと翼が静かに答える。
「大体、お前達だって俺の偽者に騙されたんだろ。」
うっと明が声を詰まらせた時、廊下に足音が響いた。二人は会話をすぐさま止め、震える女子生徒の口をふさいだ。その足跡は静かに部室の前を通り過ぎそのまま何処かに行ってしまった。
「誰なのかな?」
楓が問いかける。
「う〜ん。僕が見たときは明だった。」
笑いながら翼が答えた。明は驚かなかった。
「へぇ〜俺ね。で、強かった?」
明の言葉を無視して翼は話を続けた。
「多分、あの鏡からこっちに来れたんだから戻れるはず。」
「じゃあ何で翼はそれで戻らなかったの?」
「う〜ん、昼間は駄目みたいなんだよね。だから夜になるまでここにみんなで隠れてたってわけ。」
「じゃあ早速行こうぜ。」
そう明が言ったとき、校内放送のスイッチが入った。
『君達は逃げられないよ。君達は僕を暗いあの部屋に閉じ込めたんだ、だから君達も同じ気持ちを味わうべきだ・・・。』
女子生徒の二人はその声を聞くなり震えていたが、明と楓は比較的大丈夫であった。この時の翼は面白いと言わんばかりに満面の笑みを浮かべていた。