第一話 噂のタイムマシーン 前編
1『噂のタイムマシーン 前編』
三階の奥の部屋、七不思議部と書かれた表札のある部室では、バキューン、ズドドドド、ドッカーンなどという効果音が流れていた。
「いや〜やっぱりアニメはいいねぇ〜」
目の前に置かれたテレビで昨日の内に取った深夜アニメをじっくり鑑賞しているのは、ここ七不思議部の部長 滝野 翼である。ここの部員 宮野 楓 の入れたコーヒーは格別だった。それをすすりながら彼は心躍らせていた。
「う〜ん、早く次回の話を見たいなぁ〜。なあ、楓」
うんそうだねと相槌を打つ楓はその日の宿題をもう一人の部員 海棠 明 と共にやっていた。
「お〜!!このフィギュア欲し〜!!」
ハイテイションの翼を横目に明と楓はため息をついていた。
「はぁ〜明後日からの中間テストやばいなぁ〜」
シャーペンをくるくる回しながら明が言った。
「感動〜!!」
ハァ〜、明と楓のため息が部屋中に広まった。
「あの〜ここって七不思議部ですか?」
ドア越しから顔を出し、中の様子にいささか不安を抱きながら彼女は部室内へと入って来た。
「相談者か。勉強は一時中断だな、ほら楓さっさと机の上片付けて何か飲み物を、翼もこっち来いよ。」
明の意気込みは勉強から逃れる為のものであったのだが、楓は文句を言えなかった。翼も渋々ビデオの電源を切り、依頼者の女性の前に座った。
「楓は記録を取って。翼は資料の用意。それで彼方の名前と、どんな依頼でしょうか?」
明だ。翼も楓も言われるままにそれぞれの用意をした。
「私は二年の 雪森 蘭 です。依頼は、その・・・なんていうか。・・・探してるんです。時間をコントロールできるものを、その・・・お願いします。」
そう言うと彼女は足早に部室を後にした。唖然とする明と楓の横で翼は古い日記のようなものと睨めっこをしていた。
「多分これだな、タイムマシーン的な感じ。今から二十年前にある男子生徒が地震を予知、旧校舎が崩れる事を予告する。彼はこの出来事に対して三回目だと証言、質問の最中に彼の膝の上に居る野良猫が彼の目の前突然死したんだって。そうしたら彼はこう言ったらしいよ。又、駄目だっと・・・。」
「でも何でそれを雪森さんが?」
首をかしげる楓。明は翼が手に持っている古い日記を奪った。
「でもさぁ〜本当にこんなもんがあるのかね〜。こいつもたまたまじゃねえの?」
「どうかねぇ〜まぁとりあえず情報収集でしょ。」
ニッコリと翼が微笑む。明と楓も明後日のテストの事などもう頭に無いのだろう。
「とりあえず、楓は図書室から当たってよ特に卒業文集なんかを中心に。明は地下の掲示版から情報集めてよ。」
公立会談高校。その施設は公立とは思えない設備である。地下二階から上は五階までの学校には様々な専門クラスを始め、部活の数も数え切れないほどある。勿論、ここの図書室は有名な図書館並みのクラスで無い本が無いがここの売りである。明はその膨大な数の本からお目当てのものを見つけなければならないのだ。
「じゃあ今から三時間後に又ここに集合ね。」
そう言うと楓は図書室に向け走りだした。
「で、俺は地下の掲示板かよ。あそこはデマも多いぞ。」
「まぁそこは明の腕の見せ所だろ。」
翼の笑みに明は苦笑いで返した。部室をでる明の手元にはメモ帳と煙草が握られていた。
地下の掲示板。地下二階のある部屋にある情報交換の為の部屋。ここでは匿名で様々な人間が集まりあらゆる情報を提供し合う為、情報量も多くデマもあり退屈な時間が過ぎる場だと明はここを嫌っていた。
「さてと、俺も行くかな。とりあえず 奈菜 の所にでも行くか・・・。」
手に付けてある時計を確認し、翼は部室を後にした。三重に掛けられた鍵は翼にとっては、当たり前の事だった。
一階、奥深くの通路は明かりすらついていなかった。黒く塗られたドアをノックもせずに翼は堂々と入っていった。うっすらと明かりのついた部屋は異様な空気が漂っていた。その奥の部屋を隠すための黒カーテンが又いっそうに不気味である。
「オッス。奈菜入る?秋。」
目つきの悪い秋と呼ばれる少女は無言で頷き黒カーテンの置くへと入っていった。しばらくすると置くから奈菜の声が飛んできた。
「今、手が放せないから勝手に入って来て。」
言われるままに翼は黒カーテンの置くへと入って行く。
「何時来てもこの部屋って黒魔術でもやってそうだな。」
「知るって事はつみだよねぇ〜。まあ私はあんた達と違って現実的な事しか知らんけどね。」
三台のパソコンを置き、中央で巧みにそれらを操る彼女こそ、 桂木 奈菜 である。彼女の特技はそれらのパソコンを使っての情報収集である。彼女にとってはハッキングなども容易く、翼とはオタク仲間である。
「お前って地下の掲示板には行かないの?」
近くに置いてある奈菜のチョコを食べながら分けの分からない文字の出ているパソコンの画面へと目を向ける。
「奈菜のチョコたべるなよ〜。それとあそこには嫌な奴がいるから行かないの。」
ふ〜んと翼は自分で聞いたにも関わらず、そっけない返事を返した。
「こんなのばっかり食べてるから、高一にもなって幼児体系なんだよ。」
「セクハラだ。」
と突っ込んだ奈菜は顔を赤らめていた。
「大体今日は何の様?」
「そうそう、タイムマシンの情報がほしくてさ。」
きょとんとした奈菜はため息をついて言った。
「あのさぁ〜だから、私はそういうの信じてないから。」
「大丈夫大丈夫、この学校の職員レベルの所まで入れば何か分かるって。」
「もぉ〜この学校のセキュリティーは警察庁並みに硬いんだぞ。」
などといいながら奈菜の手はしっかりと動いていた。
「で、報酬は?」
これだっと翼はポケットから出したトレカを奈菜の目の前に掲げた。
「おお〜それは、世に数枚しか出回って無いと言う幻の・・・。」
言うまでもなく奈菜の目が輝き明らかにさっきよりも手が早くなっていた。翼は近くに置いてある本を手にとりその場に座って読み始めた。
しばらくして、奈菜が大声をあげた。
「やった〜あったあったあったよ翼っち。何だかねそれらしい情報の出所は地下一階の運動部の物置にあるらしいよ。ほらテレカ頂戴。」
画面に映る映像を自分でも確認した。翼の腕に付けている時計が鳴り出した。それを止めると翼は持っていたテレカを奈菜に渡し礼を言った。
「ありがとな奈菜。さてとじゃそろそろ戻るわ。」
秋にも別れを言い、部屋を後にした。部室に戻ると、その前では楓と明が立っていた。
「もう、早くここ開けてよ翼〜。」
楓に急かされながら翼は鍵を開けた。一階から三階を往復した翼は部屋に入るなり、ソファーへと寝転がった。その隣に楓が座り、翼の前には明が座った。翼は寝ながら明を指差し言った。
「じゃあまずは明君、集まった情報を教えてちょ。」
「俺からかよ。えっとまず分かった事が二つ、まず一つはそれがどうも時計である事。もう一つはそれはどっかの部屋に飾られてたって事くらいだな。」
へぇ〜とうなると翼が飛び起き目線を楓へとやった。
「じゃあ次、楓。何か分かった?」
「うん。言われたとうりに文集を調べたら、野球部の人がそれらしい事を書いてたよ。だからきっと野球部の部室にあるんだよ。」
「翼は何か分かったのかよ。」
よしっとうなると翼は二人を指差し微笑んだ。
「君達はすばらしい。じゃあまあまとめるとね、それは野球部の所持品で時計、今は地下一階運動部の物置に眠っているらしい。」
運動部専用の物置には、それぞれのスポーツに欠かせない道具が数多くしまってあった。棚から箱を取り出す度に積もっていたホコリが宙に舞う。そんな中、翼達はお目当ての物を探していた。
「ケホケホ、ここホコリとかすごいね〜。お掃除してなかったのかなぁ〜?」
「してる分け無いだろ。」
すかさず明が返す。キャー蜘蛛っと楓が近くの翼に飛びつくのはこれで二度目だった。
「大体、翼どれが野球部の品よ。箱ばっか多くて。」
キャーっと置くの箱を取ろうとして楓がしりもちをついた。
「お!やったな楓。お手柄じゃん。」
翼は楓がしっかり持つ小さな箱を指差した。そこには野球部と今にも消えそうな文字で書かれていた。中には既に時を刻み終わり、ひっそりとその古風だけを残す懐中時計がポツリと入っているだけだった。