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二二二二年  作者: 多堕野 吾圃
生活安全課
9/22

仲野 梓

 ここ、浜中だよな…。どうして戻っているんだ?廃墟だったはずなのに…。

 堤防の上。寝転がっていた真は起き上がった。車が横を走り抜けていく。 二二二二年にはないはずのものだ。左手首のフォンはなくなっていた。

 戻ったのか?今まで夢を見ていたのか?

 真は嬉しくなった。二〇一二年に戻ってきた。


 と、いう夢を見た。

 ああ儚い、何とも儚い。人の夢はこんなに儚いとは。だから、人偏と夢なんだな。

 真は空中に「儚」を書き、真は糠喜びの意味も痛感した。

気分転換に水を口に含んだが、消毒薬の味が口についた。彼は思わず吐き出した。彼は水で薬缶を満たし入れコンロの火にかけた。待つこと二十分。お湯が沸いた。しかし、彼はまだ火を止めない。それから五分たってやっと止めた。それからゆっくり冷ます。それからガラスのポットに入れて冷蔵庫に入れてキンキンに冷やす。消毒薬が消えた水は格段においしかった。

気分転換もしたし、どこか行くか。どうせ早く起きたからな。

 夜巡の翌日。完全オフの日だから寝ていたかったが、夢もなかなか侮れなかった。


 何処に行くともなく町をうろつく。清水の地理がようやく分かった町も仕事以外で歩き回ると違った景色に見える。真は急にパンが食べたくなってパン屋に入った。昼休みをちょっとすぎたパン屋は少しすいていた。

 真はトレイとトングを手に取りパンを選んだ。種類は豊富で目移りするほどだった。結局、買ったのはアンパンだった。数ある中からどこにでもあるようなものを選ぶ。ありがちな結果だった。

しかし、このアンパンがとてつもなくおいしいと分かったときは、「ありきたり」も捨てたものじゃないと思った。

 午後の散策中、すれ違うある女性が目に留まった。その女性もまた、アンパンを口にくわえていた。色白で、目は大きく可愛らしい顔たちだった。茶色で長く結んでいない髪は風にあおられ、いい香りを放った。

「あ!もしかして、宮城君?」

「はい。」

「私のこと分かる?」

 まさか「二百十年前に会ったよね」とか言わないよな?

 しかし、それは杞憂だった。真の反応を見て彼女は笑いながら言う。

「あはは。分からないよね。前に一度きりだもんね。」

「すいません。名前を覚えるのが苦手で…。」

 実際はそんなことはない。物を覚えるのは大の得意だった。むしろ、それしかできない人だった。

「あたしは生活安全課の隣のルームの捜査一課の仲野なかのあずさよ。」

 デスクルームを仕切るのは衝立一枚。隣と言うにはいささか疑問があるが、そこが問題ではない。一体、いつどこで梓と会ったのか、だ。

「ほら、宮城君が夜巡に行くときロビーで会ったよ。」

 夜巡に行くとき。ロビー。…ん。ああ!思い出した。あのときか。

 二回目の夜巡の日、梓は「これから夜巡?」と聞いたから「はい」と答えると、「頑張ってね。」と、言っていたあの女性だ。その時もアンパンだった気がした。

「すいません。すっかり忘れてました。」

「思い出してくれた。」

 梓は嬉しそうな顔をした。

「でも、なんで俺を…。」

 梓のことを思い出した彼は一つ引っかかった。

「捜査一課じゃ有名だよ。生活安全課の宮城真。」

 ああ。なるほどね。

事件の情報を引き出した新人の生活安全課、宮城真。彼は密かながら女性警察官の間で人気があった。若くて童顔。どこかミステリアスな雰囲気をまとった少年のような新人。それもそうだろう、彼は一九九四年生まれの十八歳。その当時なら未成年の少年。ミステリアスな雰囲気も生きた時代が違うから、かもしれない。

「ところでこんなところで油売ってていいですか?」

 彼は冷静に突っ込むと、梓は笑って受け流した。

「昨日、夜巡だったから。今日は完全オフ。」

「そうなんですか。」

 それからしばらく二人で世間話をして別れた。

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