初仕事
数日前、この町で起こった香川輝行殺人事件。これは、真の頭にくっついて離れなかった。何しろ、この殺人事件の嫌疑をかけられたからだ。それがそう簡単に忘れられるはずがない。
「これが、香川輝行殺人事件の捜査状況だ。この事件は署全体を上げて捜査している。」
なるほど、だから安藤さんが俺に聞き込み調査をしたのか。
高田課長の説明を聞いて、一人納得していた。生活安全課総勢十五人に、高田課長はリアルタイムで指示を出す役割を担っている。
「昨日同様、我々は聞き込み調査を中心に行う。」
「はい!」
これで今日のミーティングが終わった。どうやらこの時代の生活には自動車はなく、パトカーもない。ということは、足で捜査することになる。
新米刑事、宮城真とその指導員、安藤隆弘は署から出て、聞き込み調査を行った。
「すみません。香川輝行殺人事件についてお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
宮城真は歩いているサラリーマンに話しかけた。それが、運よく大当たりだった。
「はい。殺される直前まで彼と飲んでいました。そして、へべれけになった彼を家まで送り届けました。」
サラリーマンの喋り方が少々ぎこちなかった。
「ちなみに、どこまで飲んで居たのでしょうか?」
「居酒屋のほろ酔いです。」
「ありがとございました。」
情報が手に入った。真はフォンを起動して証言した人のデータを取得した。一件目の調査は無事終了した。
「やったな。新情報だ。」
「え?新情報ですか?これが…?」
真は信じられなかった。事件の直前に会っている人に話を聞いていないのだから。
ともあれ、数時間後、犯人は無事逮捕された。謎という謎はなく、ただあのサラリーマンが殺したようだ。「へべれけになった彼を家まで送り届け」被害者の自宅で殺した。それだけ。
一体、この警察は何をやっているのか…。
清水署の捜査のずさんさに失望しながら喜兵衛の掛け蕎麦をすする真。その隣には上機嫌に彼を誉めながら、やはり掛け蕎麦を食べる隆弘がいた。
麺つゆに蕎麦湯を注ぎどんぶりを傾けたそのとき、真のフォンの着信アラームが鳴った。真はタイミングの悪さを呪いながら通信を開いた。
「はい。」
「生活安全課の全警官へ。清水西銀行に強盗が入った。犯人を取り抑えてほしい。」
高田課長からの緊急指令。麺つゆを一気に飲み干した。
「安藤さん。今の聞きましたか?」
まだ呑気に蕎麦をすすっている隆弘に聞いた。すると、何が?という表情で真を見る。
「清水西銀行で強盗です!」
真は隆弘を怒鳴りつけた。
「!」
隆弘は、麺つゆを蕎麦湯無しで飲み干した。つゆのしょっぱさに隆弘はむせ返ったが、それを余所に真は会計を済ませ、蕎麦屋を飛び出した。
清水西銀行に駆け付けた時、二人は今まさに逃げようとしている強盗がいた。
「来るな!お前らが動けば行員は死ぬぞ。」
左手に重そうな鞄をぶら下げた強盗は右手に銃を構え、奥にいる一人の行員に向けた。
「伏せろッ!」
隆弘は叫んだ。奥にいる行員は一斉にカウンターの下に潜る。その刹那、隆弘は強盗のとびかかり顔に一発お見舞いした。
「さすがです、安藤さん。しかし、これはやりすぎでは…。」
強盗は一発KO。強盗は吹き飛ばされ床の上で伸びていた。おそらく、鼻の骨は折れているだろう。
「まあ、いいだろう。こちら生活安全課、安藤。強盗犯を取り押さえた。発射の兆候があったため、気絶させた。」
隆弘は高田課長に報告した。すると、課長から短く返ってきた。
「よくやった。」