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二二二二年  作者: 多堕野 吾圃
コレハナンデスカ?
6/22

宮城真

 翌日。応接室。

「昨日はすいませんでした。」

 真は突然課長に謝って、課長を驚かせた。もちろん、意図せずに。この機械が簡単に直ることを忘れていた。

「何のことだ?フォンなら心配はいらないよ。安藤から聞かなかったか?」

「あ…。」

 思い出して突然自分の大げささに気づいた。

 後ろからノックの音が聞こえる。

「安藤です。リペアデータお持ちしました。」

「入りなさい。宮城はそこで。」

 ドアが開くと、そこには隆弘がいた。真は若干疑問に思った。なぜ、外回りしていないのか、と。

「安藤ので、どれくらいだ?」

 高田課長が訪ねた。

「ざっと二、三分ですね。」

 隆弘が答えると、マイクロSDカードほどのチップをフォンに挿入した。フォンから画面が展開され、文字が浮かび上がる。

 リペアデータ同期中。

 リペア完了。

 扱っているデータの量はかなり多そうなのに、データの修復に五分と待たない。二百十年の間の科学の進歩に心底感心した。

「見たか、真?」

 唖然とする彼の顔を見て、隆弘はしたり顔で言った。

「早いですね…。」

 たかがこれだけのことに焦った自分が馬鹿だった。


「昨日の話だが、ここで働く気はないか?」

 ここで?警察か?

「課長、真はデータを…。」

 何故か隆弘は言葉を詰まらせた。

「俺、フォンも持ってないですし…。」

「フォンなら支給される。使い方も教える。…むしろお願いしたい。頼む…!」

 頼まれて嫌とは言えないな。それに、安藤さんが言葉を詰まらせた理由も知りたいし。第一、行く当てもないし。

「わかりました。こちらこそ、お願いします。」

 真は承諾した。

「真…。」

 隆弘は心配そうな声を上げる。それに比べて高田課長の声は弾んでいた。

「本当か?よかった…。今の生活安全課には君が必要だからな。」

 他に居ないわけではないだろうが、人の頼みを蹴ることは真には難しいことだった。


 清水署のデスクルーム。とはいっても、パソコンがないこの時代ではただの休憩所。驚いたことにすでに真のデスクが用意してあった。理由を聞くと、「データは速いからな。」と隆弘は言った。

「これが、警察専用カスタムのフォン。通称、ポリスフォンだ。このうちから、どちらか選べ。見た目の問題だ。感覚で選んでいい。」

 真の前にリストバンドと腕時計が差し出された。どちらも何も変哲もなく見える。これが空中に映像を投影し、データのやり取りをするとは思えない。しかし、それこそがフォンだった。

 彼は、腕時計型のフォンを手に取って左手首につけた。

「よし。それは何があっても外すな。次は…、使い方か。左手をかざして投影させるように指示しろ。言わなくていい。そう思うだけだ。」

 なんと!脳波で制御するのか…。大した進歩だ。

 真の驚嘆した顔を見て隆弘は薄ら笑みを浮かべた。真は左手を少し上げて映せ、と心の中で言った。すると、真の手元で青白い板のようなものが広がった。そこに文字が浮かび上がる。

「触れてください。」

 真は右手で左手首のフォンに触れた。その様子を見ていた隆弘は笑い転げた。笑い声が人の少ないデスクルームに響き渡る。真は自分の間違いに気づき慌てて修正する。右手で画面を触れようとしたが、右手は空を切る。そして、隆弘はまた笑う。

 そうか、左か。

 左手で画面に触れる。そして次の画面に移る。

「ああ、やっとそこまで行ったか。ホント、腹筋崩壊するっての。あはあはは」

 まだ笑っている。

「こっちは真面目なんですけど…。」

「とりあえず次。お前の場合、ここで同時にデータも作る。」

 と、隆弘が言った。

 なんだ。ここで作成できるのか。

「データは留年したとき、就職したとき、結婚したとき、死んだときに更新する。お前は就職したときにゼロから一気に更新する形になる。」

 真は画面の指示に従いデータを作成しながら言う。

「もしかして、データがないのってそこまで重大な問題ではなかったのでは?」

「まあな。でも、相手はデータを持っていることを前提に話をしていくし、正直言ってカードやデータを持ってない人と会うのは人生に一度あるかないか。」

 隆弘は真に顔を近づけて小声で言った。

「それに、データを持ってない奴にロクな奴はいない。暴力団かチンピラだ。」

 なるほど。見方によっては大問題だな。

 データの確認をしてください。姓、宮城、名、真。性別、男。生年月日、一九九四年五月六日…。しまった!これでは、彼は二百二十八歳だ。

「ん?あははははは」

 隆弘がまた笑い転げる。真は隆弘の壺の浅さに心底ウンザリした。

 急いで修正した。

姓、宮城、名、真。性別、男。生年月日、二二〇四年五月六日。職業、警察官。所属、清水警察署生活安全課。等級、一般。

「これで問題ないですか?」

「ああ。あはは」

 まだ笑っていた。一体いつまで笑い続けるのだろうか。死ぬまで同じことで笑い続けるのだろうか。真には知る由もなかった。

 真はデータを確定した。無事、データも作られた。そして、カードも無事手に入った。

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