ノイズ
安藤隆弘の家に居候してすでに数日。ワンルームのアパートは二人で暮らすには少々手狭だった。隆弘の家にはテレビがなく、本や漫画もない。すべての人が手首に巻いている腕時計かリストバンドのようなものですべての用事が足りてしまうからだ。しかし、真にはそんなものが無い。それに加え、外出を禁止されている。そのため、真は退屈を極めていた。そんなある日、隆弘は真に話があると言った。ローテーブルを挟んで向かい合って。
「お前、歳は?」
「十八です。」
いつのノリなら二百二十八と答えるが、隆弘の表情を見て、ボケができなかった。
「そうか、困ったな。もう成年か。」
隆弘がつぶやく。
いつの間にか成年の年齢が二つ下がっていたようだ。
「課長、どういたしましょう?」
隆弘は腕時計型の機械に話しかけた。どうやら、電話の機能も果たしているらしい。「空中ディスプレイ型スマートフォン」のように思えた。
「ふーむ…。今すぐ就職させないとな…。」
隆弘の腕時計型の機械から高田課長の声が返ってくる。
「しかし、どこに就かせるにもデータは必須ですし…。」
「彼は今そこか?」
「はい。真、これに話しかけろ。」
隆弘は自身の手首ごと近づける。
「もしもし、宮城です。」
「宮城か。き…ひと……が…さつで…き…か?」
ノイズが入って一部しか聞こえなかった。
「はい?課長?大丈夫ですか?」
「…?い…て…も……く…ちで…は…た……い…。」
さっきよりもノイズが酷い。ほとんど聞き取れない。何があったのだろうか?
「安藤さん。聞こえましたか?俺にはほとんど…。」
「全然聞こえない。二十年以上使っているがこれは初めてだ。」
ノイズはさらに激しくなり、ザーという音以外聞こえなくなってしまった。隆弘は機械を真から遠ざけて高田課長を呼ぶが何も聞こえない。
電波障害?そんなことあるのか?それとも妨害?だとしたら誰が?
真はポケットの中を探った。しかし、何も入っていなかった。もしかしたら、ケータイが電波を乱したのかと思ったが、そうではないようだ。
「あちゃー。しゃーない。明日、署に行くか。」
隆弘は何処か余裕の表情で言った。
「ところで…。」
真は手首の機械のことを聞こうとすると、言い終わる前に隆弘が説明を始めた。
「こいつは、五歳の時にみんなもらう物で、通信とかデータ管理に使う。使うところは見たことあるよな?俺がお前に向けたあの画面だ。あれは、顔認証でデータを引きずり出そうとした。俺のは警察用にカスタマイズされてる。」
真はふと、一つのことが頭に浮かんだ。
「俺の声がデータになかったからじゃないですか?」
隆弘はなるほどと深く頷く。
「はあ。俺がデータ持ってないせいでかなり迷惑をかけますね…。」
真はため息をつく。しかし、隆弘は笑って、
「こいつは、すぐ直る。システム復元は思ったより簡単だ。」
なるほど、あの余裕はここからきているのか。なかなかの大物かもな。
真は、隆弘の立ち振る舞いに尊敬の念を覚えた。