俺は何者だ?
清水市警察署。真は取り調べを受けていた。
「ふざけるな!そんな人物はデータベースに無いぞ。嘘をつくな。」
もちろん、彼にとって自分は宮城真であり、それ以外の誰でもない。
全く進展のない取り調べは名前を聞く段階で押し問答していた。
「俺が宮城真じゃなかったら、俺は何者ですか!?」
彼はすでにケンカ腰だ。
男の警察官二人と真。三人の取調室。取り調べする警察官は苛立って剣幕が激しくなると後ろの警察官が制止する。この瞬間もそうだった。
「さては、お前が香山を殺したのか!違うか!ええっ!!?」
真と向かい合う警察官は、今すぐにでも殴ろうかという剣幕だった。
「おい、やりすぎだ。」
「チッ。こんな強情な奴、初めてだ。しかも、名前ひとつ明かさないなんて…。」
警察官はおもむろに舌打ちをする。
「あなた方がデータ使って調べりゃいいじゃないですか。」
真は提案のつもりで言った。しかし、それが警察官二人を怒らせる結果になった。
「それができないから再三聞いてるんじゃないか!」
驚いたことに、荒げた声が聞こえてきたのは前からではなく、後ろからだった。
「お前がくだらない嘘をつくから、データも何もねえんだよ!」
とんだとばっちりだった。真は正面から、後ろから殴られた。彼は正面を警察官の攻撃を見切り、隙を突く。偶然、パンチがみぞおちに入る。強烈な一打だったのか、殴られた方は悶えた。
後ろから殴りかかった方は特殊警棒で飛び込んでくる。しかし、彼は真に手首をつかまれ抜き差しならない状況になった。
「おい、もっと静かに取り調べができないのか。」
そこにもう一人乱入してきたが、いきなり真を殴りつけたりはしなかった、当然のことながら。その警察官は背が低く小太りの中年だった。
「…!おい、何が起こった。」
「ふんっ!この犯人です。この人が香山を殺しました」
彼は振りほどいて嘘をでっちあげる。
いや、俺はこの町に来たばっかりだって言ったはずだけどな…。弱ったなぁ…。
「お前たちは下がりなさい。この人は俺に任せろ。」
「しかし…。」
「お前には処罰を与える。この仕事は与えない。」
取り調べていた警察官の上司と思われる人は二人を取調室から追い出した。その人は真を椅子に座らせた。彼は向かいに座って言った
「さてと。君が宮城真であることを前提として進めます。問題ありませんね?」
あの…、前提も何も俺は宮城真なんですけど…。
「はい。」
「そうか、宮城さん。まずは、謝罪させてください。部下が失礼しました。」
「あ、や、いえ。」
部下に恵まれない上司だな…。
この警察官は生活安全課課長の高田秀昭というようだ。どこか、冴えない感じが漂う。
「カードはありますか?」
カード?何のカードだ?とりあえず…。
真は黙って首を横に振る。その瞬間、秀昭の表情が曇った。口が小さく「そんなバカな」と動く。
「あの、俺、浜中から来ました。」
秀昭の表情は怪訝になっていく。浜中とは、真の故郷で目覚めた時には荒廃を極めていたあの町だ。
「何かの間違えじゃないか?あそこは百五十年ほど前から立ち入り禁止だぞ。」
百五十年?ってことは、俺はそんなに眠っていたのか?
真は秀昭にここまでの経緯を話すことにした。
「防波堤から落ちて二百十年だと…。」
すべての話を聞いた秀昭が漏らした言葉に真は驚いた。
二百十年か…。知り合いは探さない方がよさそうだな。完全に孤独だ…。
彼の脳裏に友達の姿が次々に浮かんだ。その人たちはもうこの世にいない。みんな死んだ。冗談で「俺は不死身かもな。」と言ったが二百十年は生き長らえた。
「宮城さん、どうしました?」
「あ、いえ。何も…。」
「宮城さん。最後にこれだけ。あなたは今後どうしますか?カードなしじゃ生活はままなりませんよ?」
「カードって、何のカードですか?」
真は気になっていたことを聞いた。
「そうか、二百年以上前の人だとわかりませんか。」
秀昭は説明を始めた。それによると、カードは身分証明書兼財布のようなもので、世界共通の物らしい。この世界に住む人は十歳になって、金融管理局に行くともらえるらしいが、データがないため真はカードを作ることができなかった。もちろん、勝手にデータを作るのは違法だ。また、二二二二年では、硬貨や紙幣は通用しないらしい。
デハ、ドウシマショウカネ…。
彼は絶望した。