アンパン
「梓ー。俺だ。宮城真だ。」
インターフォンを鳴らすが返事がない。何回か呼びかけるも返事はない。
梓の家は仲野課長がフォンを通じて教えてくれたので分かった。その前に寄り道してアンパンを二つ買った。
「梓。アンパン食べよう。」
「坊や。仲野さんなら留守だ。」
ヤベ、うるさかったかな…。
梓の家の隣のばあさんがうっとしいと言わんばかりの表情で出てきた。
「そうですか。お騒がせしてすいませんでした。」
と言うとばあさんは中に入っていった。
それにしてもどこに。
「宮城。仲野とフォンが通じない!大丈夫なのか!?」
やれやれ、心配性な親父だ。
「たぶん大丈夫です。自宅は留守ですが…。」
「留守だと!!」
「落ち着いてください、仲野さん。大丈夫ですから。」
と言って彼は通信を切った。
フォンが通じないか。浜中かな。
「安藤さん。今日はそっち帰りません。浜中行きます。」
「どうしてだ?調査は終わったが。」
「梓がいるんで。」
「あいよ。」
隆弘に連絡を入れて梓を探しに行った、とはいっても大体の場所は分かっている。浜中に踏み入れてがれきの山を越えて堤防のところまできた。やはり彼女はいた。
「梓ー。」
あたりに間延びした声が響いた。
「み、宮城君?どうしてここに?」
梓は動揺を隠せなかった。ばれないためにここに来たのになぜかばれていた。
「親父さんが探してくれって言うもんだから。」
「お父さんが?どうしてばれたの?」
気にするところはそこだったか。
「カマかけたらあっさりと。」
「じゃあ、そっちの連絡が宮城君に?」
「そういうこと。」
何か違和感たっぷりな会話だったが、動揺しているから仕方ないとしておこう。
彼はポリ袋からアンパンを取り出して梓に渡した。
「あ、アンパン…。」
反応速いな。そんなに好きなんだ。
月が輝く浜中の海。その下でアンパンを食べる二人。どこかバランスが悪くて笑えてきた。
「どうしたの?」
「いや、バランスが悪いなと思って。」
「え?」
梓は気づいていないようだった。
「月に海でどうしてアンパンなんだろう。」
彼は笑いながら言った。梓はそれでも分からないようだ。感性が違うようなので説明はあきらめた。
彼は堤防に上り見つけて以来、ズボンのベルトに引っ掛けていた釣竿を伸ばし海に竿をさした。
「あたし…、宮城君のことが好きみたい。」
彼に聞き間違いがなければ梓は小声でこう呟いていた。彼は聞き返そうかどうか迷った。聞き返せばどうなるのだろうか。無視し続ければどうなるだろうか。
梓…。俺も好きだよ…。今は言わないけど。




